第40話 南の森……スキル検証

溜めチャージ攻撃 LV 1】

 異世界のスキル

 攻撃を溜めることで、攻撃力が上がる

 溜める時間により、威力は増加

 溜めている間、MPを消費し続ける


【剣術スキル LV 1】

 剣系武器を装備した際に、威力、命中率が上昇

 レベルにより技を習得可能

 LV 1 パワースラッシュ




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「パワースラッシュ!」


 

 ヒロの持つ剣が銀光を放ち、一条の軌跡を残してウサミンを切り裂いた!


 溜めチャージ攻撃からのBダッシュによる加速と、パワースラッシュの必殺コンボが決まり、ウサミンは一撃で絶命する。



 オーガベアーとの戦いから二日が経過していた。



 あの後……急ぎアムルの町に帰還した二人は、すぐに孤児院に戻ると、トーマス神父が回復魔法を使ってリーシアを癒してくれた。


 怪我自体は、回復魔法である程度は癒してもらえたので、リーシアの命に別状はなかったが……リーシアは二日経過しても未だベッドから起き上がれないでいた。


 治癒魔法は厳密に言うと、細胞の再生能力を高める魔法であり、ある程度の怪我は治せても体力までは回復できない。無から有を作り出せないように、怪我を治癒するためには体力を必要とするのだ。


 治療のため、一人では立ち上がれない程の体力を消費してしまったリーシアは、ベッドの上から動けず自室でまだ寝込んでいる。


 オーガベアーとの戦いで大怪我をしたリーシアに対して、大きな怪我が一つもなかったヒロは冒険者ギルドの薬草採取クエストを受け、比較的安全な森の外周にまで、一人でやって来ていた。


 受けたクエストは、体力回復ポーション用の薬草採取クエストだった。

 ポーションにした方が体力回復の効果が高いらしいが、葉を煎じて飲んでも効果があるとギルド職員に聞いたヒロは、有無を言わさずクエストに飛びついていた。


 薬草採取のかたわら、先日覚えた新たなスキルの考察と検証をしていると……草むらから、いま倒したウサミンが現れたのだ。


 ある程度の考察と検証を終えたヒロは実践で試すべく考察したスキルの組み合わせ使ってみたが……結果はヒロの想像通りだった。


 今のところ、溜めチャージ攻撃に要する時間は五秒程度、威力は直径20cmの木を断ち切るぐらいである。

 そこにBダッシュの加速と剣術スキルのパワースラッシュを組み合わせる事で、直径60mを超える木を一撃で切り倒せるほどにまで威力が高まっていた。


 スキルは組み合わせ方によって、その威力を高められる非常に便利なスキルコンボの存在にヒロは気がついた。

 


「ふ〜、溜めチャージ攻撃は便利だけど、銀色のエフェクトが相手に何かするのを予見させるから、相手によってはテレフォンパンチになるかな? 気をつけないと……ん⁈」



 スキルの弱点を考察するヒロがそう呟いていると、何かが近づく気配を感じ取った!


 一つ二つではなく、もっと複数の気配と微かな殺気にヒロは反応する。オーガベアーとの戦いで、死を感じさせる殺気をぶつけられたヒロは、小さな殺気に対しても鋭敏に反応できるレベルにまで感覚が鍛えられていた。


 ウサミンの流す血の匂いに誘われて近づく何かを警戒しながら、まだ温もりがあるウサミンをヒロは素早くアイテム袋に回収する。


 背後を取られないよう、太めの木を背にしながらショートソードを抜き、溜めチャージの動作に入った。


 体の中にある力を、手に持つ剣に流し込むイメージを思い描くと、体の中から熱い何かが剣に流れ込み始め徐々に剣身が薄っすらと銀光を放ち始める。

 キッカリ五秒で剣身が銀光の光を強く放ち、溜めチャージが終了したことを教えてくれる。


 そして武器への溜めチャージが終わると同時に、ソレは木の隙間を縫ってヒロに襲い掛かって来た!




森林狼フォレストウルフが現れた!】




 ヒロは集中する事で、頭の中のスイッチを切り替え思考速度を高める……すると彼の意識は現実世界から離れ、スローモーションの世界へと入り込んだ!

 

 ヒロの前に現れた魔物は、犬の体をそのまま大きくした体躯をしており、一匹ずつが1m以上の大きさを有していた。その数は……前面に三匹、左右に二匹ずつの計七匹。


 ヒロが本で見た狼と同じく、頭から鼻にかけての頭骨のラインが犬より滑らかで、精悍で鋭い目付きが、犬とは違うことを物語っている。


 編隊を組んで飛ぶ渡り鳥のように、三角形にフォーメーションで走る狼たちは、ヒロを視認するなり瞬時にフォーメーションを変えてきた。


 左右に分かれた狼が先行してヒロに襲いかかり、囮に気を取られている間に、速度を落とした前面の三匹が獲物を仕留める必勝の策……だがヒロは瞬時にそれを看破する。


 狼は家族単位で生活する動物で、群のリーダーを頭に置き他はリーダーに付き従う。連携が得意であり、各々が役割を分担する事で効率的に狩りする生き物である。

 狼が真に恐ろしいのは、この数を用いた連携にあった。それぞれがお互いをカバーする事で、自分より何倍も大きな獲物に襲い掛かり勝利する……連携こそが最大の強みなのだ。


 その反面、リーダーがいなくなれば脆い。統率が取れていない群は、烏合の衆と変わらなくなる。

 ヒロは七匹の内で、飛び抜けて体格が良い狼に当たりを付けると、集中を止めて叫んでいた。



「Bダッシュ!」



 左右から迫る狼たちを無視して、ヒロは前方の三匹に向かって走り出す。

 スキル効果で加速するヒロは、先頭を走る体格が良い狼に攻撃のタイミングを合わせる。


 狼は、襲う立場にいる自分たちが、たかが一匹の獲物に倒されようとはつゆ程にも思っておらず……それが狼たちに油断を生んだ。


 急に前に動き出したヒロを見て、先頭の狼が先制攻撃するべく飛び掛かろうとジャンプするが……それよりも高くヒロは跳び上がっていた。


 二段ジャンプを用いて、狼よりもさらに上を行くヒロは、上段に構えた剣を下にいる狼に振り下ろした。

 攻撃の勢いがつき過ぎ空中で前転してしまうが、剣は何の抵抗もなく狼の頭を切り裂いていた。


 銀色の剣閃を宙に残しつつ、狼たちの後ろに着地したヒロはすぐに振り向きBダッシュを発動する。

 

 未だ後ろ姿を見せる狼の背後に急接近したヒロは、躊躇なく狼を後ろから斬り伏せた!


 瞬時に群のリーダーを含む二匹を殺された狼達は、リーダーを失った事で統率が崩れ、各々がバラバラに攻撃を仕掛けてくる。


 ヒロは再び集中して頭の中のスイッチを入れて、スローモーションの世界へと舞い戻る。

 ヒロはゆっくりと流れる時間の中で、最小最適な動きを模索する。


 統率をなくした狼たちは隙だらけで、今のヒロにとって脅威になどならなかった……オーガベアーに比べたら、狼など赤子の手を捻るも同然だった。


 長大化した世界の中で、倒すために最適な方法を導き出したヒロは、集中を切ると再び動き出す。


 いち早くヒロに飛び掛かって来た狼の下を、Bダッシュで潜り抜け、通り抜けざまに剣で腹を切り裂く。 


 剣を振り抜き無防備になったヒロは、振り抜いた勢いをそのままに、右から襲い来る狼に回し蹴りを叩き込み、蹴り飛ばすと距離を開ける。


 すると、じゃれて来る犬のように足に噛みつこうとする狼を、右から左へ剣を振るい首を跳ねる。


 回し蹴りで吹き飛ばされた狼に顔を向けると、いまだ痛みで立ち上がれないでいた。ヒロはBダッシュで近付き、止めを刺す……これで残り二匹。

 

 二匹はヒロを警戒すると、ヒロの見ながら唸り声を上げ距離を開けていた。

 円を描くようにヒロの隙をうかがっている……ヒロは体勢を整え、攻撃の溜めチャージを始める。


 だがもう五秒を経過しているにもかかわらず、ヒロの剣に銀色の光が宿らない……だが彼の顔に焦りはなかった。

 

 ちょうどヒロを中心に、左右に狼たちがその身を置いた時、二匹が同時にヒロへ向かって飛び掛かって行った!


 ヒロは腰に刺していた女神から貰った解体用ナイフを抜くと、それを左から迫る狼に投げつける!

 サブウェポンとして携帯していたナイフが銀色に輝き、銀の軌跡を残して凄まじい勢いで狼の口の中へ突き刺さる!

 口の中を貫いたナイフが顔を貫通し、狼が一撃で絶命する。


 空中に飛べばもう逃げ場はなく、真っ直ぐに跳び掛かって来るならば、その攻撃の軌道は読みやすかった。

 通る道筋さえ分かれば、空を跳ぶ相手ほどやり易い相手はいない。


 最後に残った狼も宙に飛んで襲いかかってきた時点で、他の狼たちと同じ運命を辿ることになる。


 ヒロは両手でしっかりと固定した剣を突き出し、狼の跳ぶ軌道の前に置くだけで、狼は自ら死ぬ道を選ぶ事となった。


 七匹の狼型の魔物を瞬時に倒したヒロは、残心を忘れずに周りを警戒しながら、息を吐く。



「ふ〜、上手く出来たかな? とりあえず、溜めチャージ攻撃は投げナイフでも問題なく溜めチャージられたな。これで攻撃のバリエーションが増やせる」



 ヒロは事前に溜めチャージ攻撃の考察した際、武器に該当する物を身に付けていれば、手にしていなくても溜めチャージ攻撃ができると検証していた。

 普通の投げナイフでは、一撃で狼の体を貫通して絶命させる威力を出すのは難しい。


 だがヒロは溜めチャージスキルのお陰で、ただの通常攻撃に高い威力を持たせられるようになった。

 これは近距離攻撃しか出来ないヒロには、嬉しいスキルだった。


 ガイヤの異変を探るため、世界を旅しなければならないヒロにとって、強くなる事は急務となっている。

 魔物が闊歩するこの世界では、強くならなければ待っているのは死だからである。


 このアルムの町で異変の情報を集めつつ、強くなるために、できるだけ実戦を積んでおきたいヒロにとって、魔獣が沸き続ける南の森は最適な環境と言えた。



「セレス様、この町に送って頂いて、本当にありがとうございます」



 ヒロはここに送ってくれた女神セレスに、声を出して心から感謝するのだった。



「さて、薬草の採取とスキルの検証も済みました。早く帰ってリーシアに薬草を届けてあげないと」



 ヒロは狼の死体をアイテム袋に入れると、急ぎアルムの町へ戻るのだった。




〈勇者は着実に、力をつけ始めていた!〉

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