第17話 事案発生! 交渉ゲームで乗り越えろ!
「では、あなたの名前である『ヒーロー』は、生まれた国では『英雄』という意味を表していて、このマルセーヌ王国だと『変態』の意味を表していると……」
「そうなります」
置き去りにされたくない一心で、必死に懇願すること三十分……ヒロは未だ葉っぱ一枚で木に縛り付けられていた!
ジト目リーシアとの交渉は困難を極めたが、ヒロには『
男神転生……戦いの最中、天使を交渉によって仲間に加え、戦わせる大人気RPGだ!
仲間にした天使たちを合体させる事で、新たなる天使を作り出す、天使合体システムが素晴らしかった。
このゲームの肝は、戦いの最中に天使に話し掛け、交渉出来るシステムにある。
敵である天使と交渉する事で、戦闘を有利に進めたり、仲間として天使を迎え入れる事が出来るのだ。
交渉の結果によっては金銭や宝石を要求され、持ち逃げされたり……仲間になった振りして、後ろから『ブスリ』と刺され、裏切られたりもする。
交渉の進め方で結果が変わり、ディープなシステムが人気を博したゲームだった。
戦って倒したらヒョッコリ起き上がって仲間になりたそうな目で見つめてくる……そんな
ちなみに男神転生は、一作目の主人公が男神の生まれ変わりであった事からついたゲームタイトルで、以降のシリーズには男神の主人公は出てこなかったりする……
ただこれは、続編のシリーズものには良くある事で、人気シリーズは大抵同じ道を辿る羽目になる。
人気のドラゴンクエスチョンも、一作目は龍を問い
ヒロはこのゲームをやり込み、全ての状況に置いて完璧な回答で100%天使を仲間にできるほど、交渉術を極めていた。
(鍛えた抜かれた交渉術で必ず乗り切って見せる!)
ヒロは心の中でそう意気込み、早速交渉をスタートさせる。
まずは誤解を解く所からだ。
僕は脳内の交渉メニューを開いて選択する。
素直に謝罪する
→誤解を解く
開き直る
とぼける
「信じてください。決してリーシアさんを馬鹿にしていた訳じゃありません」
『ジ〜』
リーシアさんは、ジト目で僕の目を見つめている。
反応が薄い……もう少し様子を見よう。
素直に謝罪する
→真実を述べる
開き直る
とぼける
「僕もこの国に来て初めて自分の名前の発音が、この国では変態と言う意味であると知ったんです……」
『ジ〜〜』
リーシアさんのジト目は終わらない。
→さりげなくアソコを強調して謝る
しかたなしにアソコをアピールして真実を述べる
どことなくアソコをフィーチャーして開き直る
何気ない様にアソコを見せつけてとぼける
「確かにリーシアさんに、アソコ見せて失礼な言葉を発していた事は謝ります」
『ジ〜(恥)』
良し! ジト目は終わらないが少し顔に変化が……やはりこの子はアソコ系の話題に弱いと見た! ここが突破口だ!
さらにアソコを強調して謝る
→もっと、アソコをアピールして真実を述べる
しつこい位、アソコをフィーチャーして開き直る
どうしょうもない程、アソコを見せつけてとぼける
「初対面の人に言う話ではありませんが……僕は女性にアソコを見せて、興奮する変態ではありません。あれは不幸な事故だったんです!」
『ジ〜(恥恥)』
もう少しだ! アソコを想像させる事で恥ずかしさが大きくなってきた。
そろそろアソコを強調しつつ、次のステップに移ろう。
→アソコを連想させつつ謝罪し、こちらの要求を述べる
アソコを見せつけ、真実を語りつつ、要求を述べる
アソコをどうにかしつつ、開き直りながら要求を述べる
アソコをああしつつ、とぼけながら要求を述べる
「アソコを見せて変態と言い続けられたら、女性だったら誰でも怒るのは当たり前です。申し訳ありませんでした。許して頂けるなら何だってします。だから町まで連れて行ってください」
「はあ〜、もう、分かりました。お願いですからアソコを連呼しないでください。こっちが恥ずかしくなってきますから……次に言ったら、このまま立ち去りますからね」
よし! 取り敢えず交渉ができる状態になったぞ。アソコを使うのはコレでお終いにしよう。これ以上、使うと本当に置き去りにされかねない。
さあ、ここからが重要だ。交渉を成功させる鍵は二つ……圧倒的なメリットか、信用のどちらかが必要になってくる。
リーシアさんとの信用は高くない……むしろ地に落ちてしまっているため、必然的に圧倒的メリットを選択するしかない。
まずはリーシアさんが今、欲している物が何かを確認する必要がある……まずはリーシアさんから情報を聞き出そう。
お礼を言いながら、高飛車な感じで情報を聞き出す
お礼を言いながら、紳士的な感じで情報を聞き出す
お礼を言いながら、変態的な感じで情報を聞き出す
→お礼を言いながら、低姿勢な感じで情報を聞き出す
「ありがとうございます。僕に出来ることがあったら何でも言ってください」
「何でもですか?」
「できる限りですが……」
僕がそう言うと、リーシアが『う〜ん』と、アゴに手を当て頭を傾けて考え出す。
その間に、僕はできるだけ交渉材料を集めようと、視線を動かしリーシアと周りを観察する。
リーシアを見て、魔物がいる森にどうして一人でいるのかが疑問になった。
リーシア自身は先ほどの腹パンチの動きから、魔物と互角以上に戦える力はありそうに感じた。
今、傍に置いている立派なツノを持つ、鹿みたいな動物も彼女が仕留めたのだろう。
それを肩に担いで歩いていたと言うことは、食料となる動物を狩って街に持ち帰ろうとしているのだろう。
華奢な体に見えるが、意外に力がありそうで、
「特に何もないですね……先ほどの泉で、この袋を拾いましたがコレはあなたのですか?」
「はい、それは僕のです」
リーシアは懐から僕のアイテム袋を取り出した。
「人様の物を勝手に見るのはいけない事なので、中身は見ていませんが、この軽さだと何も入っていませんよね?」
リーシアは自分の顔の横にアイテム袋を掲げ、袋を振り音が何もしない事を確認していた。
「着ていた服はどうしたのですか? まさか裸で旅をする訳ありませんよね? 魔物に取られちゃいましたか?」
どうやらリーシアはアイテム袋を持っていないか、存在を知らないかの、どちらかである事が明白になった。
「普通、何かしたなら代価を要求する所ですが、裸一貫のあなたからでは、金銭や物を要求するのは難しそうですし……縄を解いてあげますから、ここでお別れしませんか?」
縄を解いてはくれるが、町まで一緒に連れ帰ってもらえないようだ。
ここで町までついて行けないと、下手したら魔物に襲われて死んでしまう可能性が高い!
せめてベース拠点になる町までは、何が何でもついて行かなければならない!
意地でも町までついていくために、僕は思いついた案を提案してみた。
リーシアに、気が済むまで腹パンを提案してみる
→リーシアに、アイテム袋の事を提案してみる
リーシアに、裸の良さについて提案してみる
リーシアに、常に罵って頂く奴隷への道を提案してみる
「もしですが、その動物を町に持ち帰るなら、役に立てるかもしれません」
「どう言う意味ですか?」
「その袋、実はアイテム袋でして……いろんな物が出し入れできます」
「え? アイテム袋なんですかコレ?」
少し驚きながら聞き返して来たリーシアの反応を見て、確かな手応えを僕は感じた。
「はい。実はその中に、服や荷物が入ってまして……」
「本当に入っているのですか? 見たところ、ただの布の袋ですが……中を覗いても良いですか?」
「どうぞ」
ヒロの返事を待って、袋の中を覗くリーシア……だが!
「やっぱりただの袋じゃないですか……空っぽですよ?」
「え? そんなはずありません。中は見渡す限り真っ黒な空間が広がっているはずですが?」
「これのどこに、黒い空間が広がっているんですか!」
リーシアが袋の口を広げ、ヒロに見えるように袋の中を見せた。
「え? やはり黒い空間が広がってますが……」
間違いなく黒い空間は広がっていた。
「私を、からかっていませんか? また腹パンチして森の中に放り出してあげても良いんですよ?」
「ちょっと待ってください。今証明しますから『リスト』」
アイテム袋【神話級】
銀貨 100枚
干し肉 50枚
乾燥パン 50個
革の飲み水袋 48個
異界の服 1着
異界のズボン 1着
旅人の服 2着
旅人の服(破損)
旅人のズボン 2着
旅人のズボン(血塗れ) 1着
麻の下着 3枚
旅人の靴 3足
異界の靴 1足
革の鞄 2個
毛布 2枚
火打ち石 1個
薪 100本
火口 20個
服の切れ端 1枚
僕はアイテム袋のメニュー画面を出し、リーシアに見せた。
「な、なんですがこれ? ステータス画面に似ていますが、字が読めません。変態さんの国の文字ですか?」
どうやら他人にアイテム袋のメニュー画面を見せても、日本語で表示されてしまうため、リーシアには読めないみたいだ。
「メニュー画面に触らないと、物を取り出せないので……縄を解いてくれませんか?」
「……変なことしたら、次は問答無用で蹴り上げますからね」
サラッと、腹パンよりも危険な事を言うリーシアに、僕のアソコがビクつく! 縄を解いてもらった僕は、大人しくメニューを操作する。
旅人の服上下と靴を選択すると、僕の手の上にアイテムが出現した。
「へ〜どうやら本当のようですね」
不思議な光景を目にしたリーシアは、アイテム袋を感心しながら答えてくれた。
「これがあれば戦利品の死体を、危険な場所で解体しなくても、安全な町に持ち帰って解体ができますね。便利なアイテムです♪」
どうやら僕の提案を受け入れてくれそうである。
誤解が解けてリーシアの顔も笑顔に変わり、声と表情も柔らかなものへと変わる。
「じゃあ、アイテム袋に死体を詰めて町まで持って帰ってもらうのを条件に、さっきまでの失礼な行動と物言いを許しましょう」
やっとリーシアからの許してもらえた僕は、リーシアの笑顔を見てドキリとした。
怒り顔も可愛いかったが、やはり普通の笑顔が一番可愛い。
「えーと……
「言い辛いですよね」
誤解が解けても、変態の名前は変わらない……。
「でしたら、ヒロではどうですか? 国では愛称でそう呼ばれていたので」
「ええ、それなら問題ないです。それでは、これからはヒロさんとお呼びしますね」
愛称ならば問題はないらしい。これからガイヤで名乗る時は、基本ヒロの名前を使おう。
ガイヤの世界でヒーローの名は封印だ……変態なんて自己紹介で名乗れるか!
「それじゃあヒロさん、早速お願いしたいのですが……」
「はい、分かっています。その死体をアイテム袋に入れますね」
「いいえ……違います」
僕は、リーシアの歯切れの悪い言葉に訝しんだ。
「どうかしましたか? リーシアさん?」
「はい。その……いい加減、服を着ていただけませんか?」
「はい……すみませんでした」
葉っぱ一枚を股間に貼り付けた男は、気を使って後ろを向いてくれたリーシアに感謝しながら、そそくさと服を着るのだった!
〈交渉終了……リーシアが仲間になった?〉
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