梟は無駄に鳴かない(8)
これまでに培った経験から、明らかに逸脱した能力を求められ、
仙気の移動や付加、放出において、仙気を一定以上操ることはあったが、そこに制限が加えられることはほとんどなかった。もちろん、場所によって加減することはあったが、それもある程度の威力を持った状態を維持しており、仙気のイメージを掴めないほどに仙気を節約することはまずないことだ。
しかし、今、牛梁が
仙気による感覚系への影響付与。それは医療系の仙技の応用であり、似たことは牛梁もこれまでにしたことがあったが、七実の用いる仙技はそれとは明確に違い、仙気の量を圧倒的に絞る必要があった。
通常の医療系の仙技では、麻酔と同等の効果を狙って、一定以上の仙気を神経に送り込むことになる。麻酔の場合は量の違いが命に関わるのだが、仙気は人間が元から持っているものなので、量の違いや体質の違いで悪影響が出ることがない。そのため、仙医は複雑な手術を除き、この手法を好んで用いている。
その手伝いなら牛梁も何度かしたことがあったが、七実の使っている仙技はその対象が助けたい相手ではなく、基本的に敵だ。敵の感覚系に作用し、麻酔と似た効果を発揮させたり、相手の感覚そのものを鈍らせるために用いられる。
そのためには前提条件として、対象に仙気の影響を警戒させないために、仙気の量を調整する必要があった。
通常の医療系の仙技に用いる仙気の使い方がホースで放水するようなものなら、これは霧を発生させるようなものであり、牛梁の経験にない仙気の使い方だった。
そのための特訓を開始し、今日で何度目かになるのだが、牛梁は未だに仙気を気づかれないように薄く放出することができず、先に仙気を切らして倒れていた。
Q支部内の一室で倒れ込んだ牛梁を、困惑した顔で七実が覗き込んできた。今日は休日ということもあり、珍しく七実が直々に見てくれたのだが、牛梁は成果と言えるほどの成果が出せないまま、今日の限界を迎えてしまっている。
「申し訳ありません。わざわざ来てくださったのに」
「いや、別に気にしないでいい。それよりも大丈夫か?」
「はい。少し休めば、動ける程度には回復できます」
寝転んだままの牛梁の返答を聞き、七実はその隣に腰を下ろした。
「どうして、これを教わりたいと言った?」
座り込んだ七実が口にした質問に、牛梁は答えよりも先に疑問の目を向けていた。その視線を七実は確認していないのだが、何も答えない牛梁にその雰囲気を感じ取ったのかもしれない。七実は牛梁を見ることなく、疑問の続きを口にした。
「基本的な仙技は全て使える。医療系の仙技を元から使用できるくらいに仙気の操作技術も高い。それだけの力量があるなら、わざわざ特殊な俺の仙技を覚えなくても、実力をつける方法は他にあるはずだ。ここに固執する必要はない」
七実の言葉に牛梁は身体を起こしていた。七実の表情は確認できないが、冗談を言っているはずはなく、真剣に確認しているようだ。
「俺は仙人として強くなりたいのではなく、兄のような仙医になりたいんです」
「牛梁
七実の呟いた言葉に牛梁は頷いていた。牛梁は仙医として誰かの役に立ちたいと思っている。もちろん、仙人としても役に立てればいいとは思っており、そのどちらの気持ちも解消できるのが、七実の仙技だと牛梁は思っていた。
「正直、教えると言っておいて何だが、あんまり人にお勧めできる仙技じゃないんだよな。俺の使ってるのって」
「この場面でそれを言いますか?」
「悪いな。だが、事実なんだ。俺は仙気をうまく放出することができない。胞子みたいに気づかれるかどうかの量を飛ばすことしかできない。その弱点を無理矢理強みにしたのが、この仙技だ。他の仙技が使えるなら、そっちの方がいいと俺は思っている」
「俺はその仙技を求めているんです」
「みたいだな。この話はもうやめるか。言わないことにしよう」
七実が小さく笑っていることは背中の折れ具合から分かった。牛梁がその背中を見ていると、七実も見た覚えのある一冊の本を取り出してくる。
「その状態なら、これ以上継続するのは無理だろう。残りの時間は相手に影響を与えるために意識したい部分の勉強と、それから、俺が使えなかった秘策を教える」
「秘策?」
「お前の求めているものとは違うと思うが、覚えておいたら、どこかで役に立つはずの技術だ」
そう呟いた七実が悪そうな笑みを浮かべながら、牛梁を見てきた。
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