死神の毒牙に正義が掛かる(6)
「おっとっと」
軽くよろめいた
「ありがとうございます」
「ちょっと悠花。しばらく動いてないんだから気をつけないと」
長らくQ支部内の病室に入院していた水月だったが、ようやく怪我が回復したこともあり、今回ついに退院が許されていた。ただし、日常生活には問題がなくても、まだ仙人としての活動は難しいらしい。
「荷物はこれか?」
相亀がそう言って、ベッドの脇に置かれた鞄を手に取った。その姿を見ながら、幸善が驚いた顔をする。
「何だよ、その表情は…?」
「いや、女の人は触れないけど、女の人の持ち物は持てるんだなと思って」
「俺をどんな奴だと思ってるんだよ…?」
「変態」
「墓は用意したか?」
「おい。ここには病人や怪我人もいるんだ。そういう発言は控えてくれ」
静かに剥こうとしていた相亀の牙は、牛梁の真面目な一言に簡単に抜かれ、相亀は肩を落として謝罪していた。その姿に笑いを堪える幸善の隣で、水月と穂村が小競り合いを起こしている。
「これくらいは持つよ」
「まだ全快じゃないんだから、無理しない方がいいよ」
「でも、少しずつ動いた方がいいから」
「これは少しに該当しないよ」
「これくらいなら大丈夫だから」
自分の荷物を人に持たせることに心苦しさを覚え始めた水月と、水月の体調が心配で堪らない穂村の攻防に、幸善はひたすらに温かい目を向けていた。このやり取りを見てしまうと、自分と相亀のやり取りに壮絶な虚しさを覚えてしまう。
「何だよ…?」
幸善が哀愁漂う目を自分に向けていることに気づいた相亀が、困惑気味に聞いてくる。その反応に幸善は何も答えられずに、ただ溜め息をついた。
「何なんだよ…?」
幸善の反応に困惑が強まった相亀が息を吐くように、静かに疑問の声を漏らした。
「ごめんね。遅れちゃったよ」
そこで水月の病室にようやく冲方が現れた。相亀が遅かったことを指摘すると、軽く頭を下げて謝りながら、直後に真剣な表情で幸善達を見てくる。
「出る前に少しいいかな?」
そう言いながら、冲方が穂村に目線を向け、それだけで穂村は察したのか、水月に「待ってるよ」と声をかけていた。さっと穂村が病室から出ていき、その間に冲方がスマートフォンを弄り始める。
「いくつかの資料と写真を送ったから見てもらえるかな?」
冲方のその一言に四人はスマートフォンを取り出した。
「いくつか進展があったんだけど、その情報共有と一つ急ぎの案件があるんだ」
「急ぎ?」
「まずは情報の共有からしようか。昨日、
冲方のその言葉に返事をしながら、顔を上げた幸善が水月の表情の強張りに気づいた。どうしたのだろうかと思ったが、それを考えるよりも先に冲方の話は進んでいく。
「それから、ショッピングモールにカマキリが現れた時に男が目撃されたんだけど、その男を
「このもう一人の女は?」
「その男と逢っていたらしい人だよ。その人も人型か、その関係者の可能性が高いね」
「もしかして、急な案件ってこの人物の捜索ですか?」
「いや、ここまではただの情報共有だよ。その人物の捜索も別で動いている仙人がいる。急な案件は最後の資料だよ」
冲方の指示を受けて、幸善達が最後の資料を見る。
「昨晩、二人の仙人が殺害される事件が発生。それぞれ殺害方法、殺害場所は違うけど、死亡推定時刻はほとんど同じ時間で、どちらもそれなりに戦える仙人であることから、犯人は人型を含む妖怪か、仙人と推察されている。この調査を急遽、冲方隊で行うことになってしまったんだよ」
「今からですか?」
「内容が内容だからね。急いだ方がいいという判断なんだ。ただし、水月さんは今の状態的に難しいと思うから、先の二つの情報だけ把握をしておいてもらって、後は私達四人で調べていくよ」
「え?でも、大丈夫?荷物とか多いけど…」
「それは大丈夫だよ。私と陽菜で持って帰れるから」
「申し訳ないけど、そういうことでお願いするよ」
急遽舞い込んできた仕事に幸善達は仕方なく、病室を後にする。その外で待っていた穂村に軽く謝罪し、幸善は再度スマートフォンに目を落とした。
仙人が殺された。それは冷静に考えてみると、幸善が仙人になってから、初めて対面する出来事だった。
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