群狼は静かに牙を剥く(11)
有間隊が遭遇した翼の生えたオオカミに関する報告を、鬼山はその翌朝になって聞くことになった。中央室のいつもの席に座った鬼山に、飛鳥がまとまった報告書から情報を伝えてくる。
「昨晩、有間隊が遭遇したオオカミですが、その総数は二十二匹でした。ただQ支部から増援が駆けつけた段階で生存していたのは、その内、六匹だけだったそうで、その六匹の内、三匹は増援が駆けつけた後に死亡。残りの三匹も危険性から、すぐに殺処分されました」
「羽が生えていたと聞いたが、その詳細は?」
「えっと…生えていた羽は所謂フクロウの羽と酷似しているそうです。その羽がオオカミに生えていた理由ですが、死亡したオオカミから羽が消えていないことや確認された妖気に変化がないことから、妖術ではないと思われます」
「つまり、単純に羽の生えたオオカミが群れでいたってことか?」
「そういうことになりますね。以前に確認された巨大な蜘蛛に関する報告も同時に上がっているのですが、そちらも巨大な蜘蛛は大きさこそ違っていますが、構造自体は普通の蜘蛛と何ら変わりがなく、死亡した後も大きさに変化がないことから、単純に大きな妖怪ではないかという結論が出されています」
「個体による妖術ではない…?外部からの妖術の可能性もあるが、その場合は死亡した妖怪を変化させる理由がないか…確かにそれ以外に考えられないが、そうだとしたら、あまりに常識から外れている」
「糸を吐く際に蜘蛛の妖気が上がることも報告されてましたけど、これも体内にあったものを外部に出す際に、一時的に妖気の量が増えるという他の妖怪と同じ性質ですから、特別変わった点は大きさ以外に見当たりませんね」
「そういえば、妖気の観測はできたのか?オオカミの群れは飛んで移動したのか?」
「それですが、前回の蜘蛛も、今回のオオカミも、どちらも出現したポイント以外での妖気の出現が見られませんでした。そのポイントで誕生したか、あるいは…」
「そのポイントまで妖気を隠した状態で運んだものがいるということか…」
妖気を感じさせることのない人物で、妖怪を認知している存在は限られている。人型もしくは仙人。そのどちらの可能性もあることを鬼山は既に知っていた。
鬼山がそのことを考えていると、飛鳥が気になる一言を言ってきた。
「それと今回のオオカミに際して、同様の妖怪が外国でも確認されたそうです」
「どういうことだ?」
「アメリカとイギリスで妖気の変化から妖術を使用していないのに、特殊な力を発揮する妖怪が確認されたようですね。アメリカではカラス、イギリスでは羊の姿をしていたそうです。特にアメリカのカラスは傷を再生する力があったようで、その対処にかなり苦戦したようですね。最終的に
「あの男が動いたということか…確かに、それはかなり大変だったみたいだな」
「ただし、収穫的にはイギリスが一番大きかったようです」
「どういうことだ?羊から今回の一連の妖怪の正体が分かったのか?」
「いえ、正体は分かりませんでした」
飛鳥が鬼山に一枚の報告書を渡してきた。先ほど言っていた通り、そこにはアメリカとイギリスで発見された妖怪の詳細が乗っており、アメリカではその対処に序列持ちのNo.10が動いたことも書いてある。
そして、問題のイギリスの方には羊以外にも発見された妖怪がいることに触れられていた。その詳細に目を通した鬼山が表情を変える。
「そうか…今回の妖怪の正体は分からなかったが、妖怪を誰が運んでいるのかは分かったのか…」
そう呟く鬼山の視線の先には、人型の文字が書かれていた。
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