リンちゃんと惑星レトロナ Fractal.6

 ──ヤツは言った。


『惑星レトロナノ民ニ告グ。タダチニ科学技術ノ向上開発ヲ停止セヨ』


 ──ヤツは言った。


『現段階ノ科学レベルヲモッテシテモ、オマエ達ニハ過ギタル技術……ワキマエヌ技術保有ハ、宇宙摂理ニトッテ害悪デシカナイトイウ事ヲ心セヨ。モナクバ、実力行使ニテ放棄サセザル得ナイ』


 ──ヤツは言った。


『警告トシテ、軽クガ実力差ヲ知ラシ示ス事トスル』


 そして、大猛攻が始まる!

 無数の触手から破壊光線を発射し、無差別に爆炎を生む!

 眼下の海面は瞬間的な蒸発に潮騒の表皮を浅く失った!

 陸地の緑は次々と火の手にむさぼられ、固い大地とアスファルトは粉砕に崩れる!

 防衛基地〈レトロナベース〉は建固たる光子バリアでこたえているものの、はたして、それがいつまで維持できるか!


 乱雑に踊る危険な光を、アタシ達はわし続ける!

 レトロナファイブも!

 エルダニャも!

 ドク郎も!

 当たればシャレにならない事は、重々確信できた!

『クッ? 何だ! コイツは!』

 さすがのケインにも、眼前の猛威が〈レトロナじゅう〉とかいう三下とは格違いという事実は肌で直感できたらしい。

『ヌゥゥ……が障害となる者が、此所にもったか!』

 忌々いまいましく歯噛みするドク郎!

 その野望実現に脅威となる存在とは認めたようだ。

『えぇい! 不覚! まさか〈エ ● ゼルパイ〉とかいう美味を忘れて来るとは!』

 ……状況を把握できていないバカが、一人ひとりいたわ。

 ともかく、無差別に荒れ狂う大災厄は鎮まる兆しも無い!

「ケイン! 何か武器は無いの?」

『〈レトロナブレード〉も〈超リニアメンコ〉も至近戦用だ! ふところへ潜り込まなければ使えない!』

「銃とか飛び道具は無いの?」

「あいにく〈超リニアキュウ〉しかない」

 ……さすがに使えないわよ、あの〈全身灸〉は。

「じゃあ、他に手段は?」

『……ひとつだけ有る』

「だったら、それ・・を使えば!」

『あまり気は進まないが……』

「出し惜しみしている余裕なんか無いわよ!」

『……分かった!』

 苦渋の決断を噛み締めると、ケインは高らかに叫んだ!

『超リニアァァァ……シャィィィン・自爆ジバァァァークッ!』

「ちょっと待ってーーーーーーーッ!」

 慌てて制止したわよ!

「何よ! それッ?」

『シャイン・自爆──全超リニアパワーを〈レトロナファイブ〉に結集させて、膨大なエネルギー弾と化して突っ込む特攻技だ』

「ちゃんと脱出するのよね? ギリで離脱とかするのよね?」

『馬鹿を言うな! おとこは常に真っ向真剣勝負……小細工などしない!』

 してッ? そこは!

『ヌゥゥゥ……森林浴を妨害された挙げ句、よもや、このような不埒者が現れるとは……ああ、鳥さん達が! 鹿さんが! おのれぇぇぇい! この〝イジメっこ〟がぁぁぁ!』

 燃え盛る森から逃げ惑う動物達を見て、ドク郎が憤慨ふんがいしていた。何故か。

 スウィーツ嗜好やら動物愛玩やら……アンタ、意外とメルヘン思考ね?

『こうなったら思い知らせてくれる! 喰らえぇぇい! ドクロバー…………』

 アタシを見た。

 何か言いたそうに、アタシを見た。

『いいですか?』

 何がだ。

『喰らえぇぇい! ドクロバーストォォォーーーーッ!』

 ドク郎の全身から一斉に開放される射撃武装!

 おびただしいほどの自動追尾ミサイルが、ピラニアのごとく〈宇宙クラゲ〉へと噛み付いていく!

 爆発!

 爆発ッ!

 爆発ッッッ!

 轟爆と黒煙の狂騒が、神秘にして不気味な軟体を呑み込んだ!

 が──『何だとッ!』──沈静に引いていく破壊のヴェールからは、まったくこたえていない怪物の姿が!

「どんだけ強固よ! アイツ!」

『リンよ、聞こえるか?』

「エルダニャ?」

 パモカ通信だった。

われに妙案があるのだが……御主おぬしの見解をあおぎたい』

「……何か閃いたの?」

『うむ』

 そして、エルダニャの提案は、さすがの私も耳を疑うものだった。

『このレモンティーをクーラーボックスで凍らせれば、簡易的な菓子になると思うが……レモンティーにレモンティー味のアイスキャンディーはアリかのう?』

「知るかァァァーーーーッ!」

 何ブッこいてんだ!

 この慄然りつぜんとした戦況下で!

 触手の一本が〈レトロナファイブ〉の脚に絡みついた!

『しまった!』

 次の瞬間、触手からつたう高圧エネルギーが全身をむしばむ!

『ウワァァァーーーーッ!』「キャアァァァーーーーッ?」

 五体が千切れ飛ぶかと思える激痛!

 その時!

『イジメたらアカーーン!』『ケルルルッ!』

 新たなる参戦者によるビーム砲撃が、触手を射抜きがした……って、ミヴィーク? それに、モモッ?

『クラゲさん、イジメはアカン! リンちゃんイジメたらアカン! ドクロさんイジメたらアカン! ハッちゃんも……鳥さんも……動物達も……みんなイジメたらアカン! 仲良うせなアカンやん!』

「ってか、モモ! 何でアンタが〈ミヴィーク〉に乗ってんだッつーの!」

『リンちゃん! それ・・降りて!』

「はぁ?」

『リンちゃん乗るの、それ・・やない! リンちゃんるの、そこ・・やない!』

「って、勝手に決めるな! アタシがいないと〈レトロナファイブ〉は性能が落ちるの!」

『アカン! イヤや! 降りて!』

「駄々っ子か!」

『せや! これは、ウチのわがまま・・・・や! ほんでも、それでええ! わがまま・・・・でええ!』

「モモ?」

 何よ……必死に?

 何だって、今回はそんなに意固地よ?

 いつもフワフワ流されてんのに……。

『ウチ、リンちゃんと離れたない! ずっと一緒がええ!』

『ケル……ケルル! ケルケル!』

「……アンタ達?」

 分かんない。

 分かんないけど……感傷が占めた。

 その瞬間、両機の狭間に光撃が放たれる!

 思考を巡らせる隙も無く距離が引き離された!

『クラゲさん、アカン言うたやん! いい加減にせんと、ウチ怒るよッ?』

 牽制に敵の周囲を旋回する〈ミヴィーク〉!

 ったく、何だッつーのよ。

 何で、そこまで「リンちゃん」「リンちゃん」って……。

 いつも、のほほんとして頼りないクセに……。

 いつもホワホワ笑ってばかりで……考えなしで……泣き虫で……決断力も無いクセに…………。

 何で、今回は臆してないのよ?

『天条リン』

 パモカからの通信。

 クルだ。

『ようやく〈ネクラナミコンの欠片かけら〉を見つけた』

 そう。

 でも、関係無いわ。

 いまは頭に入んない。

『それから、私は泣かせていない』

「え?」

さきモモカは、泣いていた』

「ッ!」

『……私は泣かせていない』

 何よ、それ?

 唐突に……意味不明だッつーの。

 意味不明だけど、何故かアタシはドキリとした。

 何故?

『うひゃう?』

「モモ!」

 目障めざわりなまとわりを鬱陶うっとうしく感じたか、クラゲは標的を完全に〈ミヴィーク〉へと定めていた!

 捕縛しようと無数の触手が揺らぎ迫り、撃ち落とさんと光撃が襲う!

『ぅ……ぐう! ミヴィーク、もっとはよう!』

『……ケル!』

 モモの苦悶を気遣きづかいながらも、ミヴィークは加速した!

『ふぐぅ!』

『ケルッ?』

『え……へへ ♪  へ……平気やよ?』

「……んなワケないじゃない」

 アタシは歯痒さを覚えつつ吐き捨てた。

 現状はかろうじて高機動性依存に回避は続けている……が、紙一重な危なっかしいものだ。

 してや、搭乗者はアタシ・・・じゃない。限界はある。

 各愛機は、専属パイロットに合わせたカスタム調整がされているからだ。

 つまりアタシ・・・が乗ってこそ〈ミヴィーク〉は真価を発揮できる!

『うきゃう!』『ケルッ!』

「モモ! ミヴィーク!」

 触手に弾き叩かれた!

 直線進路上を予測しての先手だ!

 荒く回転を躍りながらも滞空制止!

 おそらく〈ミヴィーク〉の自己制御だ!

 墜落はけた!

 けれど、その沈黙を狙う敵意!

 幾多いくたもの触手が迫り来る!

「すぐ離脱して! そのままブースター全開! モモッ!」

『…………』

「モモ!」

 反応が無い?

 まさか衝撃で気を失った?

 下手をしたら、直前までのGが困憊こんぱいの負荷を掛けていた可能性もある!

「モモッ!」

『ドクロブレェェェーード! 乱舞滅多斬り!』

「え? ドク郎?」

 割って入った半月刀が、総ての触手を斬り払った。

 何で、アンタがモモをかばってんのよ。

 何で、アタシじゃなくアンタがそこ・・にいるのよ。

 そして何故、こんなにイラッとしてんだろう……アタシ。

『見損なったぞ! シャチ娘!』

 ビシィとアタシを指差して説教垂れ始めたわ……生意気に。

如何いかなる理由があるかは知らん! 興味も無いわ! だが! キサマ達は常にワンセットではなかったのか! それを何だ! そんなガラクタに鞍替えしおって!』

 何よ、ワンセットって。

『ワシはな……ワシは……オマエら二人・・に仕返しせねば気が済まんのだ! そうでもなければ、ワシはこれまで顔面ハリセンの浴びせられ損ではないか!』

 知るか……アンタの固執理由なんか。

『尻軽!』

 ……殺すわよ。

くちだけ女!』

 ……うっさい。

『ああ、そうかそうですか! キサマのような腑抜ふぬけには、そのポンコツガラクタがお似合いだ! ヤーイ! オシリペンペン!』

 ……小学生か。

『どうだ? 悔しいか? 悔しいだろう?』

 ……別に。

『だったら、そんな物を降りて掛かって来んかーーッ! さっさと、いつもの〈シャチ〉に乗らんかァァァーーーーッ!』

 ……見え透いたやすい挑発を向けんな。

 ……イライラするから。

 ……コレ、いつもと違ういらちだから。

『さぁ、どうした! シャチむす……ムゥ?』

 またも触手の潮が襲い来る!

 ドク郎に斬り捨てられた先端は、みるみる再生して元通りとなっていた!

『えぇい! 鬱陶うっとうしい!』

 ミヴィークを胸にかばいだきつつ、刃で弾き続けるドク郎。

 何やってんだ……アタシ。

 あんなヤツにモモをかばわれて……。

『リン、どうやらチャンスだ!』不意に耳へ飛び込んで来たのは、ケインからの指示。『いまヤツは、あの髑髏ドクロがたロボに集中している! 一気に間合いを詰めるチャンスだ! そうすれば、最強必殺の〈超リニア剣・スピン斬り〉で仕止められる!』

 ああ、まだ奥の手があったんだ……。

 最後の武器ね……。

 ってか〈五大武器〉しか無いのに〈剣〉が別々にあるんだ?

 ウケるわ。

 どうでもいいし……。

『ヌゥゥ! キリが無いわ! このクラゲ風情が!』

 …………うっさい。

『リン、このまま突っ込むぞ!』

 ……うっさい。

『天条リン、私は泣かせてはいない』

 うっさい!

『泣かせたのは、誰?』

「ッ!」


 ──えへへ ♪  リンちゃ~ん ♪


 白い脳裏を、いつものゆるい笑顔がめた。

 まったく……どうして、アンタはそんなにフワフワだ。

 どうして、警戒心ゼロだ。

 どうして、いつも考え無しだ。

 心配で仕方ないじゃない。

 アタシ・・・そばにいないと……。

 なのに、アタシは……アタシは何やってんだ?

 熱に浮かされて……。

 酔って……。

 ミヴィークを不安にさせて……。

 モモを泣かせて…………。

『しまった! 捕まっ……グァァ!』

『リン、どうした! ふところへ飛び込むぞ!』

「うっさいって……言ってんのよーーーーッ!」

 ブチキレにフロントキャノピーを蹴破ってやったわよ!

 どいつもコイツも知るかッつーの!

 アタシは〝天条リン〟!

 思うがままに行動するだけよ!

「ミヴィィィーーーーク!」

 破砕に刻まれた開放から〈ヘリウムブースター〉任せに飛び出した!

 アタシの呼び声に呼応して〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉が覚醒する!

 そのままいだく巨腕をスルリと抜け出して、アタシと踊るかのように天空高々と泳いだ!

ギャラクシーフォルム・メタモルアップ!」

 髪止め型の〈シンクロコネクター〉にまれた青いクリスタル〈トランスコア〉が起動の輝きを息吹いぶいた!

 そして──「Gリン!」──アタシは、アタシ・・・を名乗った!

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