私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!?

さいとう みさき

第1話 プロローグ 想い出

 「はぁはぁ、由紀恵しっかりしろ! もう少しで父さんたちが来る!!」


 「お兄ちゃん、もう手の力が‥‥‥」


 「だめだっ! 絶対離さない! 頑張れ由紀恵ぇっ!!」


 足はさっきくじいちゃったし体中痛い。

 雨上がりの山なんて来るんじゃなかった。

 せっかくのハイキングなのにいきなり道が崩れてお兄ちゃんと一緒に崖に落ちるなんて‥‥‥


 見ればお兄ちゃんも頭から血が出てる。

 片手を岩に残った腕であたしの手をつかんでいる。


 足元を見るとぞっとする。


 下を流れている沢までどう考えても十メートル以上ありそうだ。

 こんな所に落ちたら助からない。


 でもあたしのお兄ちゃんをつかむ手の力は無くなってきてズリズリと滑り始める。


 「お兄ちゃん怖いよぉ、助けてよぉ」


 「由紀恵しっかりしろぉ! 頑張れ手を離すんじゃないっ!!」


 お兄ちゃんはそう言うけどもうどうしようもない。

 あたしはどう頑張ってももう駄目だ‥‥‥


 「由紀恵ぇっ!」


 「あっ!?」


 最後に見たのは絶望に叫ぶお兄ちゃんの姿だった‥‥‥



 ―― はっ!? ――


 目が覚めた。

 またあの夢だ。


 私は目覚まし時計のスイッチを切る。

 そしてむくりと自分のベッドから起き上がる。


 私は長澤由紀恵、十五歳。

 今年中学三年生。

 来年は高校受験が待っている。


 私はタンスの上を見る。

 そこには私とお兄ちゃんが仲良く二人で写っている写真が立てかけてある。


 思わず口元が笑ってしまう。

 そう、来年の春には私はお兄ちゃんと‥‥‥




 私は起き上がり着替えてお兄ちゃんを起こしに行くのだった。


  

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