第59話 王都へ
クディカも同じ感想を抱いているようで、訝しげにリーティアを見つめていた。
「おい。こいつが強くなるのはこれからだと、ついさっき言ったばかりではないか」
「例えば、王都に着くまでにとてつもなく強くなることができればどうでしょう?」
「一晩でか? 現実的ではない」
「できると言ったら?」
眼鏡の奥の意味深な瞳が、困惑するカイトを映す。
これはカイトの私見だが、この世界の住人と比べてもリーティアはどこか異質な雰囲気を纏っている。具体的にどこがどう違うのかはわからない。容姿や言動によらず、あくまで感覚的なものだ。
故にカイトは彼女の婉曲な言い回しにも安心感を抱いていた。出会って間もないというのに、効果的な打開策を講じてくれるとの信頼があったのだ。
「私の考えが正しければ、カイトさんは英雄の資質、真の勇者の資質を備えている。それこそ武と勇を兼ね備え、たった一人で魔王と渡り合えるほどの」
「お前らしくもない。何を根拠に」
真の勇者の資質。その言葉はカイトの心を揺さぶった。胸の奥底から湧き水のように溢れた歓喜に、呼吸が二、三度荒くなる。
何故ここまで自分を評価してくれるのか。その理由には一つ心当たりがあった。
「もしかして、あの獣が俺に反応しないからですか?」
魔王の眷属は人間の魔力を敵性情報として反応する。魔力を持たないカイトからすれば非常に都合のいい性質だ。実際は眷属にも自己防衛機能があり、魔力を持たない存在を脅威とみなす場合もある。カイトに蹴り飛ばされた狼型の眷属が反撃を行ったのがわかりやすい実例だ。逆説的には、獣共は攻撃されるまでカイトを知覚できない。
たとえ魔王がどれほどの眷属を従えていたとしても、唯一カイトにとっては無にも等しいのだ。
「ああ、そういうことか」
クディカが得心したように手を叩く。
「なるほど魔王に一撃いれるには、うってつけの人材だな」
この時、カイトの中で自身の体質が持つ意味が変化した。
この世界から拒絶されていたとさえ思っていた惰弱な体質が、魔王を倒すための一手に繋がるのだ。
最弱かつ最強。相反する二つの属性が、カイトの中に共存していた。
「それだけではありませんよ」
リーティアは人差し指をぴんと立て、したり顔で言い加えた。
「カイトさんの秘めたる力はまだまだ底知れない。私はそこに目をつけているのです」
カイトもクディカも、もう口を挟まない。
ただ神妙に、リーティアの次の言葉を待つ。
束の間の無言。ヘイスの幼げな寝息がやけに大きく聞こえた。
「いいですか。よく聞いてください」
リーティアが口にした推測。それはカイトは更なる驚愕を与え、強烈な期待を抱かせることとなった。
夜は更けていく。
満天の星々。その隙間に蹄鉄の音が溶けていった。
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