【オン66】イベント騒ぎは大騒ぎ
「ヴォルマインは前に見たかけど、お店とかは廻って見てなよね」
あの時は一直線に山前にある泉を目指していたからね。街の雰囲気は見たけど。
相変わらずのデッカイ門が一番に目がいく。
木で出来た家が多いグランスコートと比べてしまうと、本当に発展した街だ。
立派な石造りの建物ばかり。
「戦いに行くのがメインではなかったでござるからな。お使いクエストは受けているので、この道沿いの武器屋や防具やにインゴットを配って行けば良いんだな」
ガウが牛皮氏で出来た巻物を広げて、クエスト内よの中身を見せてくれる。
「それじゃあ先ずは手前から順々に行けばいいね」
『ごめんください、配達クエストで来ました』
一番手前にあった大きい建物へと入っていく。銅板の看板には剣と盾が描かれている。
「おう、なんだい。今日は偉く可愛い奴等が来たな」
肩だしタンクトップのオジサンがカウンターから顔を出して笑う。
「おっ届けもので~す」
シュネーは何も持っていないが、元気よくオジサンに負けじと声を出して言う。
「そこの箱にカッパー、ブロンズ、シルバーを其々に二ダースだ」
張り合うシュネーが面白かったのか大口を開けて「がはは」と笑いながらも、丁寧にアイテムを納品する場所を教えてくれた。
皆で納品ボックスに行きインベントリを開きながら、アイテムを取り出しては納品ボックスへと放り込んでいく。
「毎度ありがとうございます。オジサンは……プレイヤーですよね」
ティフォがオジサンを観察するように見ながら、確認するように聞く。
てっきりカウンター内に居たからNPCかと思ってたけど、違うのか。
「あぁ、そうだぞ。なんだ? どうした?」
良い筋肉の腕を組みながら、笑って頷く。
『このお店ってお兄さんの所有物?』
「違うぞ、まぁいつかは自分の店を持ってみてぇがな。まだまだ修行中の身ってヤツだ。俺はゴッズだ、よろしくな嬢ちゃん達」
ワシワシと頭を撫でられた。
何事にも豪快にこなす人なのか、大雑把なだけなのか……あれ、同じか? まぁ、細かい事は気にしないって人なんだとは思う。
さっきからオジサン言われてるのに、全くもって気にした様子がない。
「鍛冶師って事ね。私はエフケリアよ。どう最近の売り上げって。私は衣服専門だからあんまり見向きもされないのよね~、オシャレって大事だと思うんだけど」
お互いにがっちり握手を交わしながら自己紹介を含めた世間話をし始めた。
「アンタがあの豪拳か。まぁボチボチだな、鎬を削って腕を鍛えてる訳だが最近は攻略組も足踏み状態だからな。オシャレ装備に回すほどまだ余裕がねぇんだろうよ」
「お互いに大変ねぇ」
いつまで手を握っているのだろうか? と言うか、なんか握力でも比べてない? ねぇ、さっきからギチギチ音が鳴ってる気がするのは気のせいだろうか。
「俺達はまだ日の浅い初心者でして、色々と聞きたいんですけど良いですかね」
「まぁ、答えられる範囲でならな。良い情報はそれなりのモンがねぇと教えられねぇけど」
口端を上げてニヤニヤしながら答えてくる。
「はいは~いヴォルマインについて教えてほし~」
そんな事を全く気にしない……気付いていないと言った方が正しいかな。シュネーがいち早く手を上げて質問を投げかける。
「教えるっつっても何が聞きてぇんだ?」
少し困ったよに頭を掻きながら戸惑っているようだ。
確かにシュネーの聞き方じゃあ規模が大きすぎて、何から話せば良いか分からない。
『ヴォルマインはどうやって金策をしてるかって、知ってます?』
「そりゃあ金鉱石だろ、後は俺達みてぇな鍛冶師の育成とかだろうな。後はヴォルマイン産の宝石だな。宝石になる原石は全てジャンシーズが買い取っちまってる。それによる利益は半端ねぇだろうよ。幾らかはこっちにも流して貰ってるけど、大体は良いモノは全部ジャンシーズの奴等が持ってっちまってよ、御蔭で特殊武器があんまりつくれねぇんだ――」
そっから先は大体が愚痴になりつつあった。
ヴォルマインの鉱脈は無限像にあるらしい。
奥へ行けば行くほどに良い石が取れるそうだ。
「ありがとうございました~」
「おう、また暇があったら来いよ。何か入用な武器とかでもな」
白い歯を見せながら、サムズアップでオレ達を送り出してくれる。
『はい、その時はよろしくお願いします』
お辞儀をしてお店を後にする。
「良い話が聞けたんだな」
「確かに有益な情報だったけど、後半は唯の愚痴だろう」
「そんなもんよ、お金にモノを言わせて強引に進めていくのが今のジャンシーズのやり方なの。宝石は魔法に使う触媒にもなるから、フォレストヒルと奪い合いって感じだしね」
悲しそうな顔をしながら、ジャンシーズの方角を眺めるケリアさんの背中があった。
アレから幾つものお店を回ったけど、ほぼ初めのお店と同じ話しか聞けなかった。
どこの店にもプレイヤーが居て、弟子入りと言う感じで働いているらしい。
そして最後の店の前に来たのだが、此処は今まで回ってきたお店と違う。
外見はボロボロで立派な看板もない。
石で作られた建物っという事だけが同じといった感じだろう。
「たのも~」
『違うでしょうシュネー』
何か途中から道場破りでもしようって勢いでシュネーが突撃して行く感じになっている。
きっと飽きてきたんだろうな。
道場破りから始まって、最後に居酒屋風な入り方になった。
「ごめんください、配達クエストを受けた者ですけど~」
ティフォも苦笑いしながらシュネーの後に続いて入っていく。
「……おう、珍しく人が来たかと思えば配達人か。カッパーにブロンズを一ダースを箱に入れといてくれよ」
ソファーに寝っ転がりながら、新聞を読んでいるオジサンが一人いるだけだった。
「此処が最後だよね」
本当に今まで回ってきたお店と、何から何まで雰囲気が段違いだ。
「そうね、他の場所はもう回っちゃったからね」
「どこの場所にもプレイヤーが常駐して始業してたけど、此処には居ないみたいだな」
全員がオレと同じ考えらしく、店の中をキョロキョロと見回してしまう。
「はん、そりゃあ儂が雇う気がねぇからな。渡り人が居る訳ねぇだろ」
バサッと新聞を読みながら、オレ達に見向きもしない。
気付いて貰えるよう、移動しながらオジサンの前に行き、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
『それはまた、どうしてでしょう?』
オレが文字を打つと、チラッとだけこっちを見てくれる。
「決まってるさ、儂の眼鏡に叶うヤツが一人も居なかった。それだけだろう」
吐き捨てる様に言うと、また新聞に視線を戻されてしまう。
「ねぇねぇスノー、このお店さ全然武器とか無いね」
『ほんとだ……あっても安いナイフとか包丁、初期装備で手に入るソードとかだけ?』
「防具すら簡単なモノしかないんだな」
「壁に吊るされてるのは、料理に使いそうな道具ばっかりだな」
他のお店では武器がズラッと並んでいたりしたのに、此処にはそういう感じのモノが無い。ロングソードは無造作にツボへ突っ込まれているし、防具は乱雑に立て掛けられてる。
「おい、くっちゃべってねぇでとっと出すもん出したら、帰りな。儂は暇じゃあねぇんだよ」
「新聞しか読んでないんだな」
ガウが呟く様にツッコミを入れてしまう。
アレは思わず口に出たな。
「あんっ、なんだあんちゃん。儂のやり方に文句があんのかい?」
ダンッとカウンターに手を付いて、ガウの顔面間近まで近付いて睨みを聞かせる。
「いや、特にないんだな……おっかないんだな」
弱腰になったガウを鼻で笑うようにして、また新聞を読み始める。
『コレで配達完了です。サインをお願いします』
オレは敢えてオジサンの態度を無視して、そのまま近付きながら言う。
「…………ほれ」
眉を拉げてオレを見るが、乱雑にサインを書いてくれる。
『少しお話を伺っても良いですか?』
笑顔を崩さずにそのまま、オジサンに迫って聞く。
「オイ嬢ちゃんよ~、聞いてなかったのか~。儂は今、忙しいって言ってんだろうがよ」
口角がヒクヒクしているが、全て無視だ。
「ん~、人は一人も居ないですけど?」
シュネーも面白そうにオレの態度に合わせて援護射撃をしてくれる。
「…………手が離せない用事があるって言ってんだ」
「オジサン一人なのか? 炉に火はともってるみたいだけど」
「おじさんじゃねぇ、お兄さんだコラっ! もう一回言ったら叩き出すぞ」
「なんかアレね、ボウガさんを彷彿とさせるわね」
「あ~それは僕も思ったね」
「なるほど、誰かに似てると思ったらボウガさんだったか」
「確かに、言われてみれば納得なんだな」
『本当に暇じゃないんですか? 少しでも良いんです、お話を聞きたいだけなんですけど』
「ぐっ、だから――」
急にオジサンの後ろから、フライパンが振って湧いた。
「別に良いでしょうが、この甲斐性なしが⁉ 客を困らせんじゃないよ」
カーンという良い音をさせた女性が、オジサンの後ろで仁王立ちしている。
「つってぇな~、フライパンで頭を殴るヤツがあるか、ブルてめぇ男の仕事場に勝手に――」
またも良い音が店中に響く。
「仕事ってんなら仕事しな。悪いね家の甲斐性なしが捻くれ者でさ」
「だぁ、一々頭を殴るんじゃねぇ」
「ハンッ、殴られたくなかったキッチリ仕事するんだね」
「なんか、凄いご家族ね」
「職人って尻に敷かれる人が多いのかな?」
『シュネーってば思ってても口に出して言わないの』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます