【オフ】41:初めの準備=小鳥の戦略。




   ♢♦♢♦視点【秋堂小鳥】♢♦♢♦



『樹一ちゃ~ん?』

「残念ながら、用事がある時間だから無理よ」

『……その声は、小鳥ちゃんね……どういう事かしら?』

「そこに居るライさんに、『先に行って待ってる』って言ってくれる?」

『ライ君、小鳥ちゃんが先に行って待ってるだって』


 少し遠くから「了解した」と急いだ様子で、何やら準備をしている音がする。


『それで? どういうことかな~。説明はあるんでしょう?』


 声から氷の礫でも飛んできそうなトーンで話しかけられる。


「落ち着いてよ、良い情報あげるから」


 なんとか宥めながら、自分の携帯を弄って兄ぃの画像ファイルを開く。

 一枚だけ選んでふぶきさんにメールを送る。


『楽しみにしてた時間を邪魔され……て――』


 電話越しから、ふぶきさんのメール着信音が聞こえる。


『…………それで、私にお話ってな~に』


 画像を見たのか、声のトーンが上機嫌になっている。

 流石に、ユキ兄の事を話すわけにはいかないし。

 不機嫌な時のふぶきさんは面倒だから、人身御供は必要だよね。


「単刀直入に言うと、同盟を組まないかなって話しかな」

『ど~め~? ん~、なんで?』


 さて、どう話しを持っていこうかな。


 あまり探りを入れられると、森田家の財力とか使って色々としてきそう、こっちが先手で動いて有利なポジションにいないと、ふぶきさんのペースに巻き込まれる。


「色々とあって、あの人が最後に助けた子が居るのは知ってるでしょう。その子が新しく風雪家の次女として迎える事になってるの、それでね、その子に変な手出し、しないでもらえるかなって思ってさ」


「ふ~ん、そんなこと?」


「えぇ、ついでに言えば、その子は私が狙ってるの。下手に騒ぎを起こして初ねぇを呼び起したくないの、協力してくれない?」


 何だかんだ巻き込まれても、満更じゃなく、むしろ兄ぃの好きなタイプである。


 初恋かどうかは知らないけれど。

 ふぶきさんにとっては、強力なライバル的な存在だ。


 あの人の事だから、下手したら兄ぃと翡翠ちゃんをくっ付けようとしだすかもしれない。可愛らしい子や、綺麗な人を侍らす事には常に全力だ。


 アイドルをやってる理由も、それが八割は絞めてると思う。

 自分にとっても、あの人の存在は邪魔でしかない。


『別に良いよ~、確かにあの人は、私にとってもお邪魔虫さんだしね~。……でも、ユキちゃんは、その……良いの? もう、大丈夫?』


「あの人が最後まで庇った子、話してみて自分も好きになった。あの子は私が守るって決めてるの」


 あまり演技には自信はないけど。

 初ねぇじゃないし、そこまで見破れるとも思えない。

 ちょっと鼓動が早くなるが、電話越しだ、気付かれる事はないだろう。


『そう、きちんと乗り越えたのね。それなら、お姉さんも嬉しい』


 とりあえずの第一関門は突破。

 一番のネックは初ねぇだけど、生徒会長も厄介な人格者なんだよね。

 ……どうしようかな。


「その子に関する情報は、後で送っとくね」


『えぇ、お願い……ねぇ、同盟なんだよね~、だったら、もうちょっとその、こっちにうま味的なモノをくれないかなって』


「大丈夫、ちゃんと送るから。初ねぇや千代さんに弄られて、子供のころから色々着せ替え人形にされていた頃の写真とかどう?」


『千代さんって、ユキちゃんのお母様だっけ?』

「そう、結構可愛く撮れてるやつ」

『ほ、本当に貰って良いの? 嘘じゃなくって』

「ついでに、コレもあげる」


 畑に居た時に取った、兄ぃのゲームキャラの画像を送る。


『これは? 樹一……ちゃん⁉』

「そっ、それが兄ぃの【ズィミウルギア】ってゲームキャラだから」

『ふひ。同盟ね……困ったことがあったら言ってね。何でも協力してあげる』

「ふふ、ありがと」


 さて、こんなものかな。

 あの双子にアドバンテージは取らせない。

 これで下手な財力的問題で負ける心配なんて、無くなったも同然だ。

 最高の兄ぃって生贄も居る事だしね。

 思わず零れてしまう顔で、兄ぃを見ながら笑い声が少し漏れてしまう。


「それじゃあ、また今度ね」

『えぇ、またすぐに会いましょうね~』


 通話を切って、すぐにふぶきさんにメールだけ送っておく。


《ゲームのキャラとか作ったら教えてね。自分のも教えとるから》

「先ずは、心配事を無くさないとね。それからじっくり翡翠ちゃんを落とすんだ」


 ユキ兄の好きな事や弱みを、全て握ってからじっくりと攻略していかないと。


 まぁ、琥珀ちゃんをどう攻略するのが先かもしれないけど。




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