【閑話】【ガブ】本名(森田 雷刀)




   ♦♢♦【視点【ガブ】本名(森田 雷刀)】♦♢♦





「ふい~、休憩休憩。適度な休息は戦士の嗜みなんだな」


 久しぶりに、本当に久しぶりに親友にあった。まだ塞ぎ込んでるか、自暴自棄になって腐っているかとも思ったが、あの様子を見るに大丈夫そうだと思う。


「しかしな~」


 あの少女は、どことなく雰囲気がユキ姫に似ていたが…………まぁ、良いか。


「今の問題という名のピンチは他にあるんだな」


 樹一の様子から見て、別に合わせても問題はなさそうではある。


 ただ、あの少女達に被害が及ばないかが問題だ。


 我、フェミニストっ! 見れはすれどノータッチ。


 正直に言ってしまえば樹一氏には女で苦労してほしい。可愛い顔してモテモテ君には我らのモテない同盟達、全員からの怨み辛みを味わって欲しいくらいだ。


 アレの事だから、もう何かしらの情報を掴んでいるのかも知れないが、決定的な事柄は欲しいに違いない。何かあった時の為に保険を掛けて教えてしまうのも良いのだけど。


 あの少女がグランスコートにあったホームの持ち主だ。関係的には樹一氏に好意を寄せている訳でもなさそうでは、あったんだな。


 教えたら教えたでアレ事だから、自分もやりたいって突貫しだすに決まっている。


 スノー姫やシュネー嬢に迷惑が掛かる事は避けたいんだな。


 どちらかと言えば、悪友的な立ち位置。

 やはりユキ姫的な立ち位置に居た気がする。


「彼女が、樹一氏を支えた――はっ⁉」


 最近では、ほぼ禁句とされる言葉を思わず呟いてしまった。

 小声でちょっと呟いただけだ、聞かれてなどいないはず。

 そうは思うが、部屋のドア付近をゆっくりと振り返って確認してしまう。


「ずっと会えてなかったから、彼奴の成分が枯渇状態のアレに感づかれれば、我の地獄が確定してしまう所であった。我も過敏が過ぎなんだな」


 別にドアに異変が無い事を確認して、ホッと一息――。


 ギィ~~ッと、ホラー映画の様にゆっくりとドアノブが回り。

 嫌にゆっくりと開く。


 建付けなど悪くないが、もう脳内再生でドアから錆びた音が聞こえてくる。


「ねぇ、なんか、もっくん、居なかった?」


 我が姉ながら、なんと面妖な邪気を放っているのか。

 背後に九尾でも飼っているのではなかろうかと思う程だ。


 無駄に整った顔立ちと、バランスの取れた身体つきは色々な男性を魅了して止まないし、やっぱり九尾か何か取り付いて、化かされている年か自分には思えん。


「ここに樹一氏が居る訳なかろう。今しがたまでゲームをしていただけだ、姉上よ」

「ふ~ん……でも、おかしいなぁ~」


 キョロキョロと何故か、部屋を見回す仕草がまた怖い。


「おかしいって……誰も遊びに来てないのは姉上も知ってるはず、なんだな」


 余計な事を口走らないようにしなければ。


「ん~、ほんとう?」


 パソコンモニターの方を何故か、じーっと見つめて我の話しを聞く。

 半分くらいは左から右に流れていっている気がするんだな。

 徐に、パソコンを操作し始めた。


「ちょちょちょっ⁉ 何をしてるんだな」

「本当にゲームだけ……通話系のソフトは一つも立ち上がってない? 履歴も無し」

「や、やめるんだなっ⁉ 人のパソコンを弄るなんて非常識でござるぞ」


 モニターの前から遠ざけようとするが、ビクとも動かない。


「ござる? …………たしか…………」


 こんどは部屋中を隅々まで見回して、ヘッドギアを見つめる。


「へぇ、ゲーム……フルダイブ系の、空想世界のネットを介したゲーム」

「そ、そうなんだな。それが……どうしたん、だな?」


 瞳孔が完璧に開ききっていて、無表情で死んだ魚の目みたいで怖い。いや、それよりも、自分の考えを見透かされている様で本当に怖いんだな。


 冷汗が止まらない。


「話したんでしょうう?」

「ひぃっ⁉」


 ヒンヤリと冷たい指先で、頬を撫でられる。


「その世界に、居たのね?」

 顔は笑顔でも目が笑っていないんだな。そして、言葉が出ない。


「私ね、会いたい、だけ、なのよ?」


 誤魔化そうと、何か言おうとする言葉が喉でせき止められている。

 別に首を絞められて、声が出ないとかではないのに、恐怖で先の言葉が出ない。


「おねぇちゃん、教えて欲しいだけなんだけどなぁ~」


 そう言いながら、耳元で「いじめちゃうぞ」っと冷たく、耳に言葉が響く。


「あ、会ったのは本当にぐうぜ――」

「あらあら、嘘はダメだよ」


 指先の爪が首の動脈部分を抑えて始める。


「居たのは本当に偶然なんだな。樹一氏が使いそうな名前で前に話していた事を思い出して、確認してみたら居たんだな。あ、姉上には話そうと思ってた所だったんだな。しかし、姉上が知ったら急にこのゲームをやるって言い始めて、知り合いに迷惑が掛かるかもと、ちょっと危惧しただけで、本当に他意は無いんだな」


 勢いのままに土下座して、震えながら勝手に言葉がつらつらと出ていく。


「そう、それなら最初からそう言えば良いのに。もうライちゃんは焦らせ上手ね。大丈夫よ、貴方のお友達に迷惑なんてかけないからぁ~」


 最初の雰囲気と違い、晴れやかな声を上げて部屋を出て行く。


 姉上が最後に言っていた言葉を聞く限り。

 絶対に来週には全ての道具が揃っていそうだ。


「す、すまない。知られてしまったよ樹一氏。そしてスノー姫とシュネー嬢……不甲斐ない拙者を許して欲しいんだな」


 床に両手をついて、徐々に力尽きていく。


「樹一氏に、とりあえず報告だけでもしておくんだな」


 いじける様に机のしたに潜り込んで、樹一氏に電話を掛ける。




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