【オンライン】28:喧嘩とコツ、ファーマ―という存在。




 ただ一人だけが驚いた顔をしていなかった。


「でだ、嬢ちゃん。どうするんだよ」

『そうですね、それぞれのお家でも用意してあげようかなって思ってます』

「ふむ、まぁ、悪くねぇな」


 他のメンバーを置き去りにして話を進めていく。


『でも、どうやってお彼らのお家を用意すれば良いのかなって』

「それなら俺にまかせい。本業は建築やら木材の加工だからな」

『あれ? 農家じゃあないんですか?』

「はっ、此処では自分の飯のタネは自分で作るんだよ。土地は豊だからな」


 鼻を鳴らしてふんぞり返っている割には、何処か拗ねたような雰囲気がある。

 最後の一言だけ無駄に声が大きくなっていた。


 ――やっぱり、悔しいのかな?

 他の発展していった所とくらべてしまうと、ほぼ最初の状態だしね。


「ちょ、ちょっと待ってちょうだい」

 ケリアさんがやっと戻ってきたようだ。


「木材を持ってくるのは良いんだけれどね、あれ結構に面倒よ。原木を運ぶのってアイテム化しても一本でしか運べないんですもの」


「アイテムとしてイベで纏められないのか?」

「えぇ、無理なのよね」


 二人の言っている事がよく分からない点があったので、説明書を取り出す。

 シュネーも気になっていたらしく、オレの肩に乗って一緒に説明書を見ている。


 ティフォ達が言っているのは、アイテム化してインベントリっていうキャラの倉庫というか在庫のようなもので、ティフォが言った「イベ」はインベントリの略称だと思う。


 ――多分、ゲーム用語っていうヤツかな。ケリアさんには普通に通じてるし。

 石や回復薬なんかのアイテム化した物を纏めて置ける魔法? の倉庫だ。


 石や薬草類の軽く小さい物なら九十九個を纏めて持て、インベントリの枠は一つで、ポーションのような大き目の道具は十二個で一つに纏める事が出来る。これもインベントリで枠は一つ使うらしい。


 通常、インベントリの数は二十五枠。


 ――あれ? 通常? そう言えばオレのインベントリの枠の数って――――


「お主等は何をグダグダ悩んでやがんだぁ? そこのお嬢ちゃんが居るだろうが」


 ケリアさんとティフォの相談事に段々と苛立っていたボウガさんが、もう待てないという感じで少しだけ声を荒げて言う。


「どういう事かしら?」


 ちょっとだけムッとした様子でケリアさんがボウガさんの方を見る。


「ファーマーが居るんだから頼めば良いじゃねぇか。ファーマーは素材元になる様なアイテムならば、大物なら五十個に、小物なら二百に纏められるはずだぞ」


「うそ、そんなこと――――」

「どうしたのケリアん?」

「い、いえ、なんでもないわ」


 ケリアさんを横目に見ながらも、ティフォはあまり気にしないそぶりでオレに話を振ってきた。


「どうなんだ? ボウガさんが言ってるのは本当っぽいのか?」

〈試してないから何とも、でも多分本当だと思うよ〉


 ファーマー以外は原木は一個しか持てずにインベントリを十枠も使ってしまう。

 そしてファーマーは原木を纏めて五十個に、使う枠数は五つらしい。


〈オレのインベントリの枠は五十枠だし、前にかった大ニンジン、纏めたら四十五に纏められてるから〉


「ありゃ、たしか十二個で一ダースのはず……つまり本当ってことか」


 前に樹一の家でやらせてもらったブロックのパズルゲームみたいに整頓すれば、本当に数多くの物をインベントリにしまえるだろう。


《隠しスキルの確認に成功しました》

 【縮小アイテム化】

(通常よりもコンパクトに質量を纏め、通常よりも多くのアイテムを纏め置き出来るようになる)


 ――それにしても、ボウガさんってファーマーの事に詳しいな。


 これはオレの勝手な想像だ。多分ではあるけど、モンスターがファーマーの保護下だっていうのも知っていたかもしれない。


 知っていて、あえてオレがどう動くのか、それを見るために此処に居る気がする。


 オレの視線に気付いたのか、こっちを見たとたんに鼻を鳴らし。


「良いか、認めた訳じゃあねぇぞ。お前はまだ俺の依頼をこなしてねぇ」


 指先を鼻っ先に突き付けて、怖い感じに突き放すように言うけれど、正直、今のオレにはこのオジサンが樹一の言う所のツンデレさんにしか見えなくなっている。


『依頼をこなしたら、もっと色々教えてくれる』


「な、なんだっ! んなキラキラした目でみんじゃねぇ。こっちにも利益があるから教えてやってるだけだってんだ。調子に乗るんじゃねぇぞ」


 なんか急に怒鳴って、頬を赤らめてそっぽを向かれてしまう。


「もう行く場所は決まったんだろうが、斧と馬車は知り合いの所に行って借りてこい、こいつを持っていけば貸してもらえんだろうから、とっとと行きやがれ」


 何か手紙と地図に、木で出来た板状の物を押し付けられた。


「これ以上はヒントはやらん。どうやって採取するか、その場所の見極めだってテメェでやれ、それが出来たら……そうだな、野菜か果物のタネでもやる」


 何故かオレのホームなのに、裏口から背を押されてティフォもケリアさんも一緒に押し出されていく。みんなで戸惑いながらも、ボウガさんには抗えず。


「それまで、此処は取り合えず守っておいてやる。取れるまで帰ってくんなよ」


 ゲームとはいえど、自分のホームから追い出される経験をするとは思わなかった。


 もう皆で顔を見合わせて、キョトンとしてる。


「ねぇ誰か【騎乗】のスキルて持ってる?」

『オレが持ってます』

「そう、なら荷車の件は大丈夫そうね」

「やっと冒険だね。ボク、もうワクワクしてるんだけど」


 オレの周りをウロチョロと飛び回りながらハイテンションなシュネーのせいで、ちょっとだけ歩き辛い。

 ただ、シュネーの言うようにワクワクする気持ちは良く解る。


「そういや、まともに冒険はしてなかったな」


 もうあのウサギさん騒動のせいで、ホームと城下町の行き来で終わっていたしね。

 ボウガさんに渡された地図の場所は、城下町の外れにある一角。


 駐在所のすぐ近くにあった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る