ホラー短編「ミカガミ様」

放課後の教室。女子生徒が二人、向かい合って座ってこそこそ話をしている。

「ミカガミ様って知ってる?」

「え?鏡様?」

「三つまで願いを叶えてくれるんだって、ミカガミ様が」

「えー、すごい。私、叶えて欲しいことたくさんあるんだ。どうやってやるの?教えて!」

「いいけど、気をつけないといけないことがあるんだ」

「それって何?」

「願いを四つ以上言うと…ミカガミ様が罰を与えるんだった」

「えっ?罰って?」

「罰は罰、自分がどうなるか保証ならないから絶対に願いを欲張っちゃだめだよ」

カーテンが風で靡く。


窓の外は真っ暗。洗面台の上に置時計が置かれている。時計の針は11時30分を指している。

友美は洗面台の上に置かれたスマホの画面を見ながらブツブツと言っている。

「鏡に右上端から反時計回りに、「崩御」、「夭折」、「早世」、「遷化」と赤字で書く」

赤ペンを右手に持ち、鏡に文字を順々と書いていく。

「遷化」の文字を書き終え、不安の表情。

「これで準備完了だけど、本当に上手くいくのかしら」

鏡に映った姿には眉間に皺が寄った顔。

「あとは、12時になるまで待つだけか」

時計を目を凝らし、見つめる。


時計の針は11時59分を指している。そして、秒針が徐々に12に近づいていく。

友美は時計を目を凝らし、見つめる。

秒針が12を指す。時計の針は12時を指す。

鏡に向き直して、気合を入れるように両手で頬をバシッと叩く。

「よし」

鏡に映る自分を見つめ、一呼吸入れる。必死な表情で鏡に語りかける。

「ミカガミ様ミカガミ様、お願い申します。私は総務の足立君と付き合いたいです」

静かな洗面所。鏡に映った自分をじっくり見る。ため息をつく。

「はぁー騙されたかな。そうだよね、簡単に付き合えるわけないよね」

洗面台に置かれたスマホを手に取り、洗面所を出ようとしたとき、スマホから通知音が鳴り響く。

画面を見ると、「足立」と表示されている。

直様、スマホを操作して、LINENの画面を開く。

「えっ?嘘?」

LINEの画面には「好きだ!おれと付き合ってくれないか?」と書かれている。

嬉しそうにスマホを凝視する。

「いきなり!?嬉しすぎる」

素早くスマホを操作し、返事をする。

「向こうから告白された、これもミカガミ様のお陰か?」

鼻歌交じりで、スマホを握りしめ、踊り出す。


時計の針は11時59分を指している。そして、秒針が徐々に12に近づいていく。

友美は口が緩み、時計を見つめる。

秒針が12を指す。時計の針は12時を指す。

鏡に笑顔で向き直す。

「よーし」

鏡に映る自分を見つめ、一呼吸入れる。必死な表情で鏡に語りかける。

「ミカガミ様ミカガミ様、お願い申します。みんなが驚くような論文が欲しい」

鏡の自分を見つめる。笑顔からふっと息を吐くような笑いに変化する。

「ははは、これは無理かな」

洗面所を出ていく。


会社の廊下を歩く友美。前方から部長が歩いてくる。

部長が友美の前に立ち止まる。

「やぁ、佐藤さん、論文読ませていただいたよ。今回は素晴らしい」

友美、部長に笑顔で詰め寄る。

「ほ、本当ですか?嬉しい。賞取れたりしますか?」

部長、友美の肩をポンと叩く。

「あぁ取れるさ。所長に推薦しとくよ」

友美、頭を深くお辞儀する。

「ありがとうございます」

友美、頭を下げたまま、ニヤリと笑う。


自席で鼻歌交じりでお弁当を食べている友美。

後ろから大きい足音を立ててやってくる田中。鬼の形相で友美の前で仁王立ちする。

「佐藤さん、ちょっといいかしら?」

振り向く友美。険悪な空気を感じる。

「何かしら?」

「何って、足立くんに何をしたの?昨日突然別れようと言われたの。それも理由はあんたと付き合うからだって。まさか、あんた、色仕掛けでも…」

「はぁ?そんなの知らないよ。あんたより私の方が魅力があったからなんじゃない?」

田中は友美の頬を叩く。目には涙が溜まっている。

周りの同僚達がざわざわと騒いでいる。

「何したかわからないけど、許さないから」

「ふん、許さないってどう許さないの?何をしたってあんたのところには戻ってこないわよ」

田中、友美の首を両手で絞める。苦しむ友美。

「あんたには私の気持ちがわかるものか」

周りの同僚達が止めに入る。

同僚に取り押さえられる田中。苦しそうに息をする友美。

「邪魔するな、あいつを殺してやる」

同僚は田中を引き離し、部屋から出ていく。

友美、息を切らし、険悪な表情で出ていった扉を見つめる。

「くそっ、くそっ、くそっ、目に物見せてやる…」

友美、自席を思いっきり握った手で叩く。


時計の針は11時59分を指している。そして、秒針が徐々に12に近づいていく。

友美は眉間に皺を寄せ、時計を見つめる。

秒針が12を指す。時計の針は12時を指す。

鏡に真顔で向き直す。。

「くそっ、見とけ…」

鏡に映る自分を睨む。鬼神な如くの表情で鏡に語りかける。

「ミカガミ様ミカガミ様、お願い申します。研究課の田中を殺せ」

鏡の自分を見つめる。険しい顔から不敵な笑みに変化する。

「ははは、これであいつは終わりだ」

洗面所を出ていく。


駅のホームには大勢の人達が列をなして並んでいる。そこに最前列で立っている田中。

田中はタブレットで論文を読んでいる。集中している。

ホームに電車が警笛を鳴らしながら入ってくる。

田中は背中を押されたように線路に投げ出される。線路に落ち、慌てふためく。

「ど、どうして、や、やめて、し、死にたくない」

電車はブレーキを掛けるが、田中は轢かれ、木っ端微塵に血肉が飛び散る。

大勢の人々の悲鳴が響き渡り、そして逃げ惑う人々でホームは混沌と化した。

ごった返した人との隙間から友美は不敵な笑いで立っている。


所長、友美に賞状を手渡しする。満足気に受け取る友美。

「ありがとうございます」

「よい論文でした。次も期待していますよ」

「はい、努めさせていただきます」

同僚達が拍手する。

深くお辞儀をし、笑みが溢れる友美。

「盗作魔、その賞状はあたしんだよ」

山本が声を荒げて、歩いてくる。

所長が制止するが、押し退ける。

友美、山本の方に振り返る。山本は友美の襟を掴む。

「あんた、あたしのデータを盗んだね、どうなんだよ」

「さぁ、なんのこと?あの論文は私が書いたものだよ。いい加減なこと言わないでよ」

「なら、このデータを見なさいよ」

山本はUSBメモリを見せびらかす。

所長が不思議そうに伺う。

「それは本当か?見せてくれないか?」

山本、友美の襟を手放し、所長にUSBメモリを手渡す。

所長はノートPCにUSBメモリをセットし、データを見る。

所長は驚く。

「こ、これは…佐藤さんとまるっきり同じ内容…」

所長、同僚達が友美を疑いの目で見る。

友美、焦り、釈明をする。

「これは何かの間違いだ。そうだ、こいつが私のデータを盗んだんだ。こいつが泥棒だ」

友美、山本を指差し、必死に皆に訴えかける。

所長、呆れた顔で語りかける。

「佐藤さん、では研究された時の資料はありますか?」

「資料?ありますよ、それぐらい」

「山本さんのUSBの中にはその資料も入っているんですよ、一杯。これも山本さんが盗んだと言うんですか、あなたは?」

「そ、それは…」

「私は山本さんが資料まで盗んだとは考えられないのですよ」

友美、青ざめた表情で辺りを見渡す。

疑いの目、白けた目で見つめる同僚達。

友美、髪を両手でぐしゃぐしゃと掻きむしり、奇声をあげて、部屋から出ていく。


時計の針は11時59分を指している。そして、秒針が徐々に12に近づいていく。

友美は髪がぐしゃぐしゃで息を切らし、時計を見つめる。

秒針が12を指す。時計の針は12時を指す。

鏡に鬼の形相で向き直す。。

「すべてが台無しだ…」

鏡に映る自分を見つめる。不敵な笑みで鏡に語りかける。

「ミカガミ様ミカガミ様、お願い申します。会社の人達、全員殺してください」

鏡の自分を見つめる。高らかに大声で笑う。

「ははは、終わりだ、何もかも」

大声で笑い続ける。

鏡の自分が笑うのを止め、不敵な笑みで友美を見つめる。友美は相変わらず、大声で笑っている。

鏡の自分がクスクスと笑い出し、この世のものと思えない声で話しかける。

「ふふふ、やってしまいましたね」

友美、鏡の自分を目を開いて見つめる。

「え?何で?勝手に動いているの?」

「あなたが禁をやぶってしまったからよ」

「禁って…!?」

「欲張ってしまったあなたに、罰を与えないと」

友美、身体が動けないことに気づく。

「身体が動かない…」

鏡の自分が背中の後ろに手を伸ばす。笑いながら。

友美も同様に背中の後ろに手を伸ばす。

「手が勝手に…」

鏡の自分が背中の後ろから包丁を取り出す。

友美も後ろから包丁が出てくる。

「包丁なんて持ってないのに、なんで」

鏡の自分は不敵な笑みで包丁の先を腹部に向けた。

友美も包丁の先をお腹に向けた。

「いや、どうするの、やめて」

「ふふふ」

鏡の自分はゆっくりと包丁を腹部に刺していく。

友美もゆっくり包丁を刺していく。悶絶の表情。

「ああああ」

ゆっくりゆっくり包丁はお腹に刺さっていく。

服には血が滲み、服から血が滴り落ちる。床は血溜まり状態。

包丁が柄まで刺さり切る。友美は青ざめた表情で苦しむ。

鏡の自分は不敵な笑みで、嘲笑う。

「まだ、死んじゃいやよ」

鏡の自分は包丁を思いっきり腹部から抜く。

友美も思いっきり抜く。血が吹き出す。そして、叫び声が洗面所に響く。

友美は白目を剥き、今にも意識が飛びる寸前。

だけど、鏡の自分は腹部に両手を伸ばす。友美も腹部に両手が伸びる。

友美、か弱い声で語りかける。

「な、何を…」

鏡の自分は腹部の傷口に両手を突っ込む。友美も傷口に突っ込む。

友美、泣き叫ぶ。

「ああああ、も、もう、や、辞め…」

鏡の自分は不敵に笑い、両手で傷口を思いっきり広げる。

友美も両手で思いっきり広げる。今までにない叫び声が洗面所に響く。

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