ホラー短編集

こたろう

ホラー短編「笑う男」

私の夫は暴行衝動を抑えられない。そのため、毎晩、私を殴ってくる。それも笑いながら。狂っている。

だが、衝動的に殴るが何故か巧妙に服に隠れる所しか、殴らない。

今夜も為す術もなく、殴られている。


今朝、マンション前のゴミ置き場でゴミ袋を置く。

ふと、後ろに黒いパーカーの男性が気配を感じさせず、通り過ぎる。振り返り、ふと横顔を見る。フードで表情が見づらかったが、口角が気持ち悪いように上がっている。

男性は角を曲がり、見えなくなる。首を傾げ、男性が曲がった角を見つめる。

急に後ろから、話しかけられる。

「おはようございます」

驚き、振り返る。後ろには小学生が立っている。

間をおいて、言葉を返す。

「お、おはよう」

小学生が角を指を指す。

「あの人、僕のヒーローなんだ」

「へー、そうなんだ」

小学生が、急に手の甲を向かい合わせ、拍手をする。カツカツと骨同士が当たる音が聞こえる。

「こうしたら、助けに来てくるんだよ」

「へー、そうなんだ」

「真似してみて、おばさんも」

私も手の甲を向かい合わせ、拍手をする。骨同士が当たるので痛い。

「こうかな?」

「そうそう、これでヒーローがやってくるよ」

苦笑いで、その拍手を続ける。

ふと背筋が凍るような視線を感じ、角を見ると、男性が不気味に笑って立っている。


今夜は静かに隣で寝ている夫。何もせず、寝るなんて思い返しても初めてである。

安堵と恐怖が私の心が交差する。そのため、なかなか寝付けない。


体感で長い時間が経ち、眠気が襲う。瞼が落ちそうになったとき、腹部に重さを感じた。

目を開けると、笑顔で夫が馬乗りになっている。

「お前のせいで、不気味に笑う男に追われる夢を見たじゃないか」

夫は顔を殴りつける。何度も何度も。今まで顔は殴らなかったのに何故。

笑いながら殴り続ける夫。声を出そうとするが、夫は私の下着を口に突っ込まれ、声が出せない。

鼻も殴られて、顔面血まみれになっているだろう。涙も出てきて、顔面は血と涙でぐちゃぐちゃだろう。

すると、夫の後ろにフードを被ったあの男性が立っている。フードから覗かせる表情は不気味な笑顔。

笑う男性は包丁を振り上げる。

私は声を出そうとするが、声が出せない。夫は気づかず、私を殴っている。

そして、笑う男性は振り上げた包丁を夫の背中目掛けて振り下ろす。サクッという音と夫の悲鳴が部屋中を響き渡る。

夫は私の上に倒れ込んでくるが、笑う男性は夫の背中を滅多刺し。顔には返り血が点々と付いている。

夫は動かなくなった。ベットや床は血まみれ。私も血を浴び、放心状態。

笑う男性は刺すのを止め、私と瞬間目が合う。そして、笑う男性は音もなく去っていく。

私は死んだ夫を退かし、慌てて、追いかける。しかし、笑う男性の姿は無くなっていた。

不思議なことに廊下には血の足跡が続くが、玄関の扉を越えると足跡が消えていた。

思い返すと、玄関も鍵が掛かっていたし、扉を閉じられた音もしなかったことに気づく。

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