幕間 とあるゴリラの無双劇

[星夜の回想入ります]◇◇◇◇◇



 俺達は森に異常なデカさのゴリラが出現したので、なんとかしてほしいという依頼を受けて、諸星と一緒にギルドで作戦会議をしていたんだ。(と言っても2人だけだけどね)ちなみにその依頼の報奨金は今までの奴とは桁一つ違う。


「なぁ......写真を見たけどよ......なんか俺達の数倍くらいデカくないか? それ以外はただのなんの変哲へんてつもないゴリラなんだけどなーー」

「みんなはあのゴリラを魔物と言うけど、本当にただのゴリラだよね......どう駆除しようか?」


 このゴリラは顔以外の身体がダイヤみたいに硬いらしい。しかもこの図体で近くに来た人を跡形も無く粉々にすると来た。さらにコイツは急所が顔しか無いという絶望感。とにかく近距離で攻撃するのは危険すぎる。


 気性の荒いゴリラには遠距離攻撃が最適なんだろうけど、俺は大剣近距離アタッカー、諸星は武器をなんも持たない純粋な近接アタッカーという、遠距離攻撃をまともにできる奴がいなかった。

 この時俺の心の中ではどうしようかな、これは詰んだかもしれないと思うほど、厄介な魔物だったのだ。


 すると何を思ったのか諸星はいきなり席を立ち、少し時間が過ぎたあと何かを手に持ちながら戻ってきた。


「このゴリラはよ、やっぱり遠距離攻撃でチクチクやれば簡単に倒せると踏んだ。だが、肝心の遠距離攻撃を打てる奴がいない。だから俺が受け持つ!」


 諸星は弓を掲げながらこう宣言したのだ。確かに俺は大剣を片手で振り回すことなんて到底できっこないので、遠距離攻撃とか無理だし、その反面諸星は何も持ってない純正パンチランチャー。

 諸星が攻撃するのは(*一応)理にかなっていたのである。


「やれるのか? 脳筋パワーゴリラであるお前がやるのか?」

「大丈夫だ! そもそも俺しかやれないやろ」

「それもそうだけど......」

「もしかして俺をみくびっているな?」


 この時、やめておけばこんな事態にはならなかったかもしれない。だが、間の悪い事にいろいろな人達との接触で事態が拗こじれてしまったのだ。


「YO! YO! 星彦、阿保太郎! なんの話をしているのだ? 僕っちも混ぜてくれーー!」


 状況悪化四天王の1人であるアリスが現れたのである。ちなみに状況悪化四天王とは、いとも容易く状況を悪化させることができる人達を指す。俺がさっき考えた語録の1つだ。

 他には諸星とかだけだが、これから増える事になるんだろうなぁ......


 話が脱線するけど、アリスが現れた時の諸星の反応が凄まじかったのを鮮明に覚えている。例にもよってコイツも美少女だからなぁ......可愛いんだけど、それ以上に諸星の犬みたいな反応にその意識が持ってかれてしまう。


「今から美しい俺様と一緒にナイトパーティーを楽しみませんか? アリスお嬢さん」


 そんな諸星の言葉に反応するわけもなく、普通に無視。アリスは強そうな仲間達を連れて来てゴリラ討伐作戦の概要を俺に聞こうと迫っていた。


 諸星撃沈、星夜動揺、アリスウキウキ、お仲間さんもアリスの反応と同じという構図で、もう引くに引けない事になり、みんな共同でゴリラ討伐をする事になってしまう。

 そんな紆余曲折がありまして、ゴリラが出没するという迷子の森の入り口に着いたのだった。


「そういや近くに神社があるんすよね? いやでもあんまり関係ないっすよね。アリス姉貴!」


 アリスのお仲間さんがそう言っている。今思えばアイツを誘うのも良さそうだな。神主兼魔法使いだし、それに自由人っぽいからな。誘ってみるだけやってみよう。


「えっ!? 初耳だよーーどうでもいいけど.......てかさ、ウルトラハイパーゴリラってこのゴリラ?」

「ぎゃぁぁぁ!? でやがった!」


 巨大ゴリラの威圧感で俺の身体中の産毛に至るまで震えている。このゴリラは俺の身長178cmの10倍くらいあり、体重の詳しいのは分からないけど多分重い。だってこの怪物が動くたびに地面が揺れるんだもん。

 間合いに入ったら瞬殺されることが直感で分かっているから、この怪物に近距離攻撃を当てに行くどころか近ずくことすら叶わないだろう。


「ふぅ......よし! 諸星、俺達がこの怪物を撹乱かくらんするから、お前はゴリラの心臓や脳をこの弓で貫いてくれ! 頼んだぞ!」

「おう、この図体だけのゴリラに歴戦の覇者の戦い方を見せてやる!」

「こんな布陣で大丈夫っすかねぇ......」


 ちなみにこの俺達2人とアリス&2人の仲間という編成で来ているが、実は遠距離攻撃をチマチマゴリラの急所にまともに当てる事ができる奴はこの時諸星しかいなかった。

 一応アリスは光の魔法の使い手で遠距離射撃はできるんだが、範囲が絶望的に狭いので急所が顔や胸にあるゴリラに致命傷を与えることができない。そしてアリスのお仲間さん達は共に近距離専門の人だったのだ。


「とにかく突撃ーー!」


 アリスが最初に啖呵を切り、光の魔法を乱発する。ゴリラはまるで効いてないようで鬱陶しそうに空を腕で薙ぎ払った。


「腕を振っただけでこの暴風が吹くのか......当たったら凄く気持ちよさそう......いやいや。よーし、アタイもアリス姉貴に続くぞ!」

「俺もアイツらに続くけど星夜兄ちゃんはどうする?」


 アリスの取り巻きの1人がこう言っている。この時の俺の答えは1つだけだった。震えている声でこう言いはなつ。


「諸星信じてやるしかないだろうな。潰されない程度に頑張るか......」

「あらら? この場合、俺様が責任重大だったりするのか?」


 俺達はこの一応魔物であるゴリラの怪物に突撃したのだが、いかんせんゴリラが起こす圧力であまり近くことが出来ない。


「姉貴はなんで対等に戦うことができてるんすか?」

「だけどこのままじゃジリ貧だ。かと言っても俺達に有効打なんて無いし、近くことすらできない」


 何か障害物があればこの暴風を凌ぐ事が出来たんだが、それをゴリラが全部吹っ飛ばしてくれちゃったもんだから、なすすべなしと言った感じだ。


 それでも俺は風をある程度凌げる大剣持ちだったこともあり、アリスが戦っているゴリラの目の前まで来れたのだが......


「キシャァァァウホウホウホウホ!」

「なんだこの衝撃波はーー! 当たったらチリも残らなそうだ」


 ゴリラが放った一撃は地面を砕き、木々を消しとばし、空気を割る。この一撃を躱す事に全力を注がなければ普通に死ねる攻撃が俺達を襲って来たのだ。


「Hey Yuo! 星彦、阿保太郎のゴリラに致命傷を与える遠距離射撃はどうなったの? もう魔力が尽きるんだけどなぁーー!?」

「なんだと......!?」


 そう......人間には必ず限界がある。それは魔法使いにだって同じ。魔力が尽きたらしばらく動けなくなってしまうのだ。


「後何発魔法撃てるんだ?」

「よくてあと2回かな......」

「よし、今からお前はあのゴリラに強烈な光を放ってその間にお前はその場から離れろ! あのゴリラが俺達を見ている内に!」

「はぁーー!?」


 アリスがここで倒れたりしたら必ず犠牲者が出る。もう無理はさせられないよね。だがその場合、俺が過労死するかもしれなかった。だが......


「姉貴ーー! お助けに来たでーー!」

「もうやだーー! こんなゴリラの無双劇をみるよりも、オイラはもう早く帰って一杯飲んで寝たいっすーー!」


 幸運かな。アリスのお仲間さん達もちょうどのタイミングで合流したのである。よしよし、これでもう少し戦える!


「分かった......最後にどでかいの放って離脱するよーー! 食らえーー! ハイシャイン!」


 今日の中でも最高威力である光の魔法を放った。これをモロに食らったゴリラは、光が眼に入ったらしく、俺達に攻撃しなくなってアリスも無事に避難できた。


 ていうか諸星さんは未だに何もしていないんだけど、俺達が命懸けの勝負をしているのに......何やってるんだ!? そう思い俺は振り向いてみると、俺の眼を疑うような光景が広がっていた。


「狙撃......」


 諸星が放った矢はゴリラの脳はおろか、俺達がいる場所にも全然届いてなかったのだ。


「はぁぁぁ!? ウッソだろお前!? ごめんみんな、ちょっと俺も前線から離れるわ」


 突然の撤退宣言にこの2人は動揺を隠せていない。だがアイツらが何か言う前に離れてしまったので、文句を聞く事はなかった。(もっとも、裏で言ってたかもしれないけど......)


 俺が向かった先はもちろん諸星がいる場所。木の上で弓を放っているようだ。俺は何も文句一つ言うためだけに来たんじゃない。そもそもそんな時間は持ち合わせていない。ならどうするかって?


「おい諸星! 弓がゴリラの脳に届かない諸星! ちょっと降りてこい!」

「なんだよ黙れよ......笑うなら笑えよ......ほら出来損ないの肝心な時に活躍しない男となぁ!」


 情緒不安定か! すっかり卑屈になった諸星を、無理矢理木から引きずり下ろし、作戦変更の提案をしてみた。その内容はと言うと。


「確か、俺はお前の身体を持てたはず。そしてお前は強靭な瞬発力がある。それを生かしたコンビネーションアタック作戦だ!」

「......なんだそれは」

「簡単な事だよ。俺があの怪物ゴリラに出来る限り近づき、そして全身の力を使い全力で飛ぶ! そしたらお前は俺を踏み台にして飛んでくれ。そしたらゴリラの頭まで届くだろう。そこで弓を放ってトドメを刺してくれ」


 名付けて、『全員踏み台☆大作戦』だ! 今思えばネーミングセンスが逆の方向に凄かった。


「なぁ......この作戦ならわざわざ弓を放たなくても、俺の拳で脳を潰せる気がするが......それに、攻撃をした後の俺様を誰が回収するんだ? あそこからの着地は流石の俺様でも無理だぞ?」


 諸星の身体は俺が必ず回収するから問題は無いとして、そもそもお前の拳がゴリラに届くと思っているのだろうか?


「ゴリラに近づくこと事態に危険が伴うから弓で安全にやってもらいたい」


 そんなわけで、俺様は早速行動を開始した。俺は諸星を肩車してあのゴリラに再突撃! 諸星は予想よりもだいぶ重く、近づく事が出来るのかな? と思ったりしたが、何故かゴリラの衝撃波が少なくなっており、思いのほか楽に近づく事ができた。多分だけどゴリラも疲れが見えていたんだろうな。


「ギャァァァ!? オイラ本気で死にそうっす! いやぁぁぁ!?」

「姉貴......もうアタイ達は限界や......すまない」


 哀愁漂う状況に俺は一瞬躊躇したが、作戦変更は無しで行く。


「猪突猛進! 玉砕突撃! 撤退後退ジャンプ!」


 さあ、準備は完全に整ったぞ! 行ってトドメを刺してこい! 諸星!


「......ガハッ......」


 なっ......は? 諸星は飛べずに俺の肩から落ちてしまった。目の前にはまるで食い物を見てるが如く俺達を見ているゴリラがいる。


「おっお前......さっきお前からなっちゃいけないような音が聞こえだぞ......まさか?」

「ごめん。ギックリ腰になっちゃったぜ☆」


 ゴリラは今にも俺達を食べるために攻撃を仕掛けようとしている。


「全員撤退! 後退! みんな生きることだけ考えて逃げろーー!」


 俺はすぐさまアリスのお仲間達にこう伝え、俺本人は、諸星を肩で担いで敵前逃亡を図った。


 ゴリラはすぐに追いかけ始める。その矛先はまさかの俺達2人だった。俺達は追いかけられながら無益な争いを始めだしてしまう。


「てめえマジでふざけんなよ! これで俺が死んでしまったら一生かけてお前を呪ってやるからな!」

「はぁぁぁ!? そもそもこんな無謀な作戦を提案した星夜さんが諸悪の根源なんじゃないんすかね? 俺は悪くない」

「性格悪い人がやる責任転嫁やなクソが! お前を生贄にして1人だけ逃げてやろうかな」


 こんな言い争いをしながら追いかけ回されて何分経っただろうか? 流石に諸星担いで逃げるのは無謀な事だったようで、俺は度重なる出血と酸欠で倒れてしまった。


 完璧終わったなと思い、走馬灯が流れ出しかけた瞬間、いきなり化け物クラスの実力を持つゴリラの首が吹き飛んだ。


「な、なんだ......何が起きたんだ......?」


 そこに立っていたのは......少々でかい身体をしているお爺さんだったのである。命の恩人に失礼な言い方になるけどこの人が本当にコイツを倒したのだろうか?


「あの......助けていただきありがとうございます。よかったらあなたの名前を教えてくれませんか?」


 このお爺さんは少しだけ黙り込んだあと、俺にこう言ったのである。


「あいにく、お主らに名乗るほどの名は持ち合わせていないのでな。しがない神官として覚えておいてくれや」


 そう言うとお爺さんは静かに立ち去っていった。


「星彦、阿保太郎! ごめん。君達が追いかけられている時、僕は何も出来なかった......」


 その後、アリスが謝って来た。少なくともアリスはとても凄かったし、謝る必要は全く無い。むしろ俺が謝らなくちゃいけない側だ。


「謝らないでくれ......俺の繊細な心に響く」


 この戦いで俺は実力不足を鮮明に感じた。俺は人々を守るためもっと強くなろうと改めて決心するのでした。



[星夜の回想終わり]◇◇◇◇◇◇


 あの日以来アリスとその一味とは会ってないけど、元気にしているだろうか......


「俺が直々に募集ポスターを書いてやる。決してみるんじゃねぇぞ」


 俺って強くなったのかな? 人々を救えるような英雄になれているのだろうか? 正直、俺は分からない。だから今日も俺は戦い続ける。天界を守るために。まあ、その前にまずは仲間を集めようか!


◇◇◇◇◇◇◇

第1章に続く

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