33

港のイベント会場からはバスで最寄り駅へ行くため、私たちはバス停に並んだ。

大きなイベントだけあって人も多く、長蛇の列ができている。

一回では全員乗れないななんて思っていると、ポツリと何かが頭にあたった。


「あ、雨。」


そういえば天気予報で“にわか雨に注意”って言っていたっけ。

まわりの並んでいる人たちもザワザワとし始める。

カバンから折り畳み傘を出している間にもどんどん雨足が強くなった。


「紅林さん、傘-。」


パンフレットで雨をしのいでいる紅林さんに声をかけると、濡れた前髪が色っぽく見えた。

こんなときにまでかっこいいだなんてときめいちゃう私は、もう完全に紅林さんの虜になっている。


「俺はいいよ。早川さんが濡れちゃうからちゃんと差しな。」


「ダメです。一緒に使ってください。」


強引に紅林さんの頭の上に傘を差すと、目元で優しく笑って傘をつかみ取られた。


「俺が持つから。」


あっという間に距離が近くなって相合い傘になる。

この状況、私が作り出したにも等しいけど、すごく近い。すごく緊張する。

これはボーナスステージでしょうか。

ああ、神様ありがとうございます。

だけど私がドキドキとときめいている間にも、雨足が弱くなることはない。

むしろどしゃ降りだ。

これは、もしやゲリラ豪雨というやつでは…?

バス早く来て!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る