05

てっきりいつも通り大島さんが来るものだと思っていたので、心の準備ができていない。


作業着の胸に付けられた名札をチラ見すると、

【製作課 紅林真】

と書いてあった。


ほ、本物の紅林さんだ!


私はわたわたと手元の書類をひっつかむ。


「あ、えっと、はい、書類できてます!」


テンパりすぎて言葉までどもってしまう。

先行書類を手渡すと、紅林さんは「ありがとう」と受け取ってさっさと出ていってしまった。


いつも電話で聞いていた声。

あの優しいトーンの生声だ。

だけど表情は堅くて。

ていうかむしろ無表情?無愛想?


真知さんの言っていた“無愛想で取っ付きにくい”っていうのが少しわかった気がした。


でも、それはほんの少し。

それよりも、こんなに若い人だったことに驚きだ。

現場の作業長って、事務仕事の課長と確か役職的には同じだったはず。

図面管理課の課長は五十代に対して、紅林さんは三十代に見える。


しかも、かっこよかった。


私は先ほどの紅林さんとのやり取りを思い出して、ほうっとなった。

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