笑顔の装置

「マフラー編んであげようか?」 

と、小学6年の時、転校した小学校で初めて迎えた冬に、


同じクラスの女子に言われた。


僕は

「いらない。」

と冷たく返答した。


この小学校に転校する前、僕は殺風景な小学校で数年間を過ごした。


殺風景な小学校で過ごす内に、


嬉しさを探知する装置と嬉しさを表現する装置を、


自分の心から取り外した。


それがその殺風景な小学校での、


無感想な時間をやり過ごすための最善の方法に思えた。


嬉しさを探知する装置と、嬉しさを表現する装置を、


心から取り外した僕には、「いらない。」


と冷たく返答する以外に手段は無かった。


それから数ヵ月後、


僕は嬉しさを探知する装置と嬉しさを表現する装置を、


見つけ出した。


嬉しさを探知する装置のメーターの針は、振り切れていた。


装置の探知能力を遥かに超える嬉しさを探知していたのだ。


そして、嬉しさを表現する装置は、


手編みのマフラーの暖かさと笑顔を僕にもたらした。


おしまい

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