2 たそがれの章

「我々には時間が無い・・・。」

まだ、辺りが薄暗い夜明け前、


冬場の河原に未確認飛行物体が着陸した。


その未確認飛行物体は、神々しい輝きを、周囲に放っていた。


河原には10人前後の、同じ衣装を身にまとった男たちが、


頭をたれて、光り輝く未確認飛行物体に、祈りをささげていた。


その祈り・・・それは哀願もしくは嘆願に近い祈りだった。


リーダーと思われる男が


「我々には時間が無い・・・。」


と祈りながら呟いた。


「我々には時間が無い・・・。」


この思いは、そこにいる男たち全員が、共通した思いだった。


「早くどけ。俺たちが予約していた場所だぞ。」


リーダーは思わず言った。


すると、光輝く未確認飛行物体はゆっくりと離陸し、


まだ朝が来る前の夜空に浮上し、強く光を放ったと思うと、ふっと消えた。


「まさか、言葉が通じた?」


リーダーはぽつりと言った。


他の男たちは一瞬だけ空を見上げると、素早くそれぞれの配置についた。


揃いのユニホームを着た男たちの手にはグローブやバット。


早く試合を終わらせてしまわないと、少年野球チームの朝練が始まってしまう。


河原にある野球グランドの使用時間の終了時刻は、刻々と迫ってきている。


「我々には時間が無い・・・。」


バッターボックスに立った男は


「UFO研究家や噂好きのマスコミなら、もっと騒いだに違いない。」と思いながら、


朝を迎えた日曜日の空を一瞬だけ見上げた。



おしまい

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