第5話少女探偵見習いミミィ

約束どおり、僕はミミィを連れて帝都でも人気なアイスクリーム屋さんにやってきている。


 本当は以前ヤニスからもらった最高級アイスを食べさせてあげたかったのだかこればかりはしょうがない。


 街の普通なアイス屋だってミミィはとてもはしゃいで喜んでくれているし、かまわないだろう。


「マーロのあにきぃ、あのアイスもたべたいです!」


「しょうがないなぁ。今日は特別にトリプルまで許可しようじゃないか」


「やったー!あにきぃ大好きです!」



 かわいいミミィの前ではどんなハードボイルドでも好相を崩すのを免れ得ない。

ついつい甘やかしてしまう。僕の悪いくせだ。


 ミミィがアイスを選んでいる間に、僕は空いてる席に座って注文したコーヒーを飲む。


 いつも飲んでいるものより味も香りも薄い安物だ。

これにくらべれば「カフェバースミル」はなんと上等なものだったことか。


サービスでもらったカクテルも見た目はまぁまぁだが味はたしかだった。あそこのマスターは素晴らしい腕の持ち主だ。是非贔屓にしようと思う。


 「お待たせしましたマーロのあにきぃ」


ミミィが片手に色とりどりのアイスを重ねたカップを持ってホクホク顔で席についた。


 我慢できないとばかりに一口アイスを口にいれると蕩けるような表情で笑う。


「おいしいかい?」


「はひ!とてもおいひいです!」


 良かった、良かった。

いつも頑張っているから今日はご褒美だ。


 嬉しそうにアイスを食べるミミィをみながら、僕はミランダから受け取った資料の入った封筒をテーブルに置いた。 


「実は今日はミミィに大切な話があってね」


「大切な話ですか?」


「ああ、ミミィにとっても悪くない話さ」


 ミミィは不思議そうに頭を傾けて僕の様子を伺う。


まぁ僕からあらたまって話すことなんて滅多にないからしょうがないか。でもきっとこの話をしたらミミィは喜ぶことだろう。その姿が僕には容易に想像できる。


「いつも僕のお手伝いだけじゃミミィが可哀想だとおもってね。そろそろ探偵として独り立ち出来るように研修をしていこうと考えているんだ」


「え」


 ぼとんとミミィは持っていたアイスカップをテーブルに落としてしまった。上手に落ちたからいいものの、危うくアイスがテーブルにこぼれるところだった。


 おっちょこちょいなところはミミィの欠点だな。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。まずは簡単な依頼だからこれを見てくれ」


僕はミランダからもらった資料をテーブルに広げる。


中には逃げた犬の特徴や名前、習性が書かれた文章と、対象の写真が三枚入っていたのでミミィに見せてあげる。


「あしたはこれをミミィに捕獲してもらおうと思うんだ」


「む、むりですぅー!!!マーロのあにきぃ許してください!!」


 写真を見たとたんミミィは泣き出しそうな顔で席を飛び立ち僕の胸に抱きついてきた。


いったいどうしたというのだ?


「もうお仕事ついていくとかワガママ言わないので許してくださいぃ」


「大丈夫、大丈夫。誰だって初めての依頼は怖くかんじるものだよ。ほら座って落ち着こう」


落ち着かせるように言い聞かすと、ミミィはグスと泣きながらも頷いて席に戻った。


「ミミィなら出来る。ペットの捜査なんてもっとも簡単な仕事だ」


「でもこれ」


「どうしたんだい、ミミィらしくないよ。たかが犬一匹じゃないか」


そういって僕は写真のひとつを手にとってミミィに見せる。


そこには胴体から頭が三つはえている大きな犬が写っていた。



「・・・マーロのあにきぃ、それ犬じゃないです」


「なにを言っているんだ、どこからどう見ても犬じゃないか」


 僕はまじまじと写真に写る犬を見つめる。


4本の足に可愛らしい尻尾。頭こそ三つはえているが、ここはドラゴンすら普通にいるファンタジーな異世界だ。これがこの世界の犬だと言われればなにも不思議じゃない。


「地獄の番犬ケロベロス、モンスターです」


「いいや違うよミミィ。これはただの犬だ。それも調教され野生を忘れたペットだ」


 なんだよ地獄の番犬って。名前仰々しいすぎるだろ。


まぁでも、僕が前にいた世界でもやたら威圧感ある名前の犬とかいたし、そんなもんだろう。ミミィは本当に心配性だ。たかが犬一匹で恐れていてはこの先探偵はやっていけないというのに。


 そりゃ僕だって野生でこんなのを見れば驚いて逃げてしまうが、これはペットだ。人様を噛んだらダメと教えられている利口な犬だ。


ミランダだって言ってたじゃないか、逃げ出したワンちゃんだって。恐れることは何一つない。


「マーロのあにきぃ、本当に行かなければだめですかぁ?」


「ああ、これもミミィのためだ。明日の朝、準備ができたら僕の事務所においで」


「・・・・・はい」


「どうしたんだい、早くしないとアイスがとけてしまうよ」



僕が注意すると、ミミィはパクっとアイスを一口食べて小さな声で呟いた。


「・・・もう味がしないです」





⚀⚂⚁⚅⚄⚃⚀⚁⚂⚃⚄⚅⚀⚁⚃⚄⚅⚂⚀⚁⚃⚄⚂⚅⚀⚁⚂⚃⚄⚅




 翌日は朝から大変だった。



 なかなか現れないと思って待っていたら、ミミィがどこから用意したのか全身フルプレートのガチ装備で愛刀の剣まで持ってきてしまった。


 依頼は逃げたペットを連れ戻すことなのに、剣なんか持ってきてどうするんだよ。

それに戦にいくわけじゃないんだし鎧なんて必要ない。それどころか走って逃げるペットを追っかけるのに邪魔でしかない。


 僕は泣き叫ぶミミィから装備を引き剥がすのにとても苦労したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る