第59話 計画はあくまで計画なわけで

 フリル多めな店員さんが運んでくるパンケーキセット✕3。俺と來実はネコ、トラは虎が描かれている。3人とも猫科なわけである。


「來実さんの猫はハチワレ、心春のはキジトラかな?」


「虎雄のは虎の縞が入っているんだな」


 パンケーキとカフェラテに描かれた猫や虎を見てフフフと笑い合う2人。もう付き合っちゃえよとやけくそ気味に言いたくなる。

 因みに俺は見た目を考慮してリンゴジュースを頼んでいる。

 パンケーキの上にいるキジトラ猫に心で話しかける。


(俺どうしたらいいんだろう。ここまで勢いで来たけど戻れる感じも全くしないし、全然関係ないことで悩んでる場合なのか。俺とトラだけで解決出来る問題ではないのか。でも言ったところでだれも信じてくれないだろうしなあ)


 楽しそうに店内にある人形や小物を見て楽しそうに話す2人を見てなんとなく心が沈む。


「心春大丈夫か? 真剣な顔してるけど調子悪いのか?」


 突然來実に話しかけられ飛び上がりそうなくらい驚いてしまう。

 心配した表情で見てくる來実と目が合う。この体になって人の顔を真っ直ぐ見るようになった気がする。そして人の心が表情にこんなにも出るのだと初めて知った。

 本気で心配するその顔を見ていたら俺の心は揺らぐ。

 もう來実と付き合ってしまえば良いのではないかと。そうここで決着をつけるのもありではなかろうかと。


「くりゅみ……くりゅみはトラとっあうっ!?」


 突然後ろから頭を捕まれ俺の言葉は遮られる。


「こはりゅストップ! すごーく嫌な雰囲気を今感じたっ。

 小姑さん平等にいってもらわないと私たちこまちゃうなぁ」


「ですわね。まずはこの状況を説明して頂かないと困りますわ」


 聞き覚えのある声に恐る恐る振り返ると彩葉と珠理亜が不満そうな表情で俺を睨んでいる。あ、奥の席にはきな子さんもいて目が合うと会釈してくれた。


「な、なんで2人がいるでしゅ!?」


「なんでって楽しそうに歩く3人を見掛けたから後をつけてきたに決まってるじゃん」


「お店に入る2人を見かけたとき彩葉さんと出会って一緒に様子を伺っていたからに決まってますわ」


 俺の問いに少しトゲのある感じで答える2人。怒ってらっしゃる……。


「な、お前ら、こ、これはだな……」


 席を立った來実が顔を真っ赤にして何か言おうするが恥ずかしいのか口をパクパクしてTシャツの裾をぎゅっと握っている。

 服伸びちゃうよなんて冷静にどうでも良いこと思ってしまう。


「心春、私たちにも虎先輩とデートする機会はもらえるんだよねっ。それとも來実先輩で決定してるってこと?

 それならそうと言ってくれなきゃ私らバカみたいじゃん!」


「そこをハッキリして頂かないと困りますわ。わたくしたちはデキレースのピエロになるつもりはありませんわ!」


 むむむ、これは2人が怒るのもごもっともだ。このやり方は4人とも傷つけてしまうそんなやり方だ。

 元々人間関係が得意じゃないとはいえ配慮に欠けていたか。


「今回のことは謝るでしゅ。いりょは、珠理亜、楓凜にもデートする機会をもうけるでしゅ。ちゃんと公平にやるでしゅ」


 俺の言葉に満足したのかホッとため息をつく珠理亜ににんまり笑う彩葉。その彩葉に肩を組まれ引っ張られる。


「んじゃあそういうことで今日は來実先輩の番なので邪魔者はこれで去ろうよ」


「ふぅ、そうですわね」


 と言いながら俺を連れていく彩葉。


「ちょ、ちょっと待ちゅでしゅ! なんでこはりゅも連れていくでしゅ!」


「あ~前半は小姑さんと一緒で後半は若いの2人っきりって流れでどう?」


「まあっ! それは良いですわね」


 彩葉の提案に手をパンと叩き賛同する珠理亜。


「待ちやがれでしゅ! なに勝手に決めてりゅでしゅ。これはこはりゅが審査して4人から1人決めりゅんです」


「そ! それさあ、こはりゅに気に入られるのは私も賛成だし好かれたいよ。でもさ恋愛に関しては私らとトラ先輩とのことでしょ」


「そ、そうでしゅけど。わたちが決めりゅって」


 正論を言われ焦る俺。いや確かにそうなんだけど、この場合虎雄は本来俺であってこの4人の関係に何らかの結末をもたらし恋愛を理解していないトラに恋愛を教え今後の暴走を防ぐそんな目的があるわけで。

 そんな俺の肩が引っ張られ珠理亜が俺の耳元で囁く。


「心春さん。わたくしは心春さんと対等にありたいと思っています。ですから心春さんが小姑ですからそ、その、よよよ嫁としては全部従う、そんな関係になる気はありませんですわ」


 嫁と言う言葉を恥ずかしそうに言いながらも内容はお前に全部従う気はないというなかなか怖いことを言ってくる珠理亜。

 彩葉を見るとニコニコと笑顔を見せ同じく全て従う気はないと無言で圧力をかけてくるようだ。


 女の人怖い……。


「來実先輩今日は頑張ってください。でも負ける気はありませんから」


「來実さん今日はお譲りしますわ」


 それだけ2人が來実に言うと店を出るのに合わせきな子さんも出ていく。そして俺も彩葉に手をガッチリ握られ外へ連れていかれる。


「どこへ連れていくでしゅ! こんないきなりこはりゅの計画が」


「はいは~い、切り換えていこうかこはりゅ。私らと遊びいこうよ」


 店内にトラと來実を置いて彩葉に引っ張られていく俺。本当に計画なんてうまくいかないものなんだろうけど、こと人間関係ほど読めないものはない。小姑として嫁を選別する! そんな強気でいた俺の計画は一瞬で壊されるわけである。


 そして店内に置いてきたトラが彩葉の「恋愛」という言葉に肩を震わせたのが気になって心配で仕方ないのだ。



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 次回


『幼馴染みは葛藤するわけで』


 ふんわりしたパンケーキを作りたい私です。取り敢えず焼いているときにヘラで押さえつけるクセをやめたいと思います。


 御意見、感想などありましたらお聞かせいただけると嬉しいです。


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