第37話 後輩は幼馴染みとお嬢様を牽制するわけで

 昼休み教室のドアが開くと皆の視線が集まる。

 視線を集める彼女の名は彩葉。物怖じることなくトラの元へスタスタ歩いてくる。


「トラせんぱーい! ご飯一緒に食べましょっ! 私、中庭が良いです。こはりゅも行こっ」


 俺に手を差し伸べ手を取るので流れで手を取り俺は立ち上がる。もちろんこの展開俺は意味が分からない。

 なんで彩葉がここに? そしてなんでトラを誘う?


「おい、待て。お前誰だ?」


 來実が睨むが彩葉は興味なさそうな顔で答える。


「茶畑彩葉です。そして知ってます、芦刈來実先輩と」


 彩葉が珠理亜の方を見る。


「雨宮珠理亜先輩ですよね。では」


 彩葉が俺の手を引き去ろうとするが來実が立ち上がり足止めする。そして珠理亜が近付き3人が輪をつくり睨み合い始める。


 うわ~なにこれ。これが女の戦いってやつか~火花バチバチしてるし。


 いやー本当に居づらいわー。周りの人たちドン引きだよ。


 ところでなんで俺は争いの円の真ん中にいるんですかね? 俺を囲う様にして頭の上で火花を散らし合う3人の娘さんたちにどうして良いか分かんないし、トラは困ったときのネコ顔になってるから使えない。

 少しだけ屈んで彩葉に未だ握られている手と反対のフリーな左手を頭の上に置いて頭を守る。

 このとき頭のネコさんが手に当たり1人じゃないってことに気付き勇気が湧いてくる。


 こんなときになんだけど一応本日の服装はカットソーシャツ(ベージュ)これがメッシュ素材で透けてしまうが下にキャミソールを着ているので問題はない。肩は透けて見えるので男子の一部が「セクちぃーだ」って騒いでいたけど……嬉しくない。

 それにサロペットのオーバーオール(ネイビー)を穿いている。靴はスニーカー(白)。

 髪は後ろの髪を左右に分けて真ん中でくるりんぱって大きく編んでいくんだけど伝わるかな? それを3回やって最後シュシュ(緑)でトメている。ネコさん定位置の左側にいらっしゃる。

 争いの中こっそりお届けする俺は可愛いのである。


「ここでは迷惑ですわ」


「ああ、廊下に出ようぜ」


「はぁ~分かりました行きましょう」


 3人は廊下へと出て行く。残されたトラは相変わらずのネコ顔である。

 俺? いるよ。廊下に……だって彩葉が手を離してくれないんだもん。引きずられて一緒に来ちゃった。

 ちょっと涙が出てきたけどこの3人を見守ろうではないか。


「なんですか先輩方? 私はトラ先輩を誘いに来たんですけど」


 まずは彩葉の先制攻撃。ハキハキと喋り後輩だからと遠慮はしない。


「虎雄さんは本日わたくしとランチを御一緒するのですわ」


「いや珠理亜とじゃないけどな、彩葉だっけ? そもそもお前が虎雄を誘う意味が分からないんだが」


 珠理亜と來実の攻撃! うーんちょっと攻撃力が弱い気がするが。


「意味? そんなのトラ先輩が好きだからに決まってるじゃないですか?」


「なっ!?」

「ぐっ!」


 おーー! 彩葉の攻撃はシンプルながらもえぐるような攻撃力だ。効果ばつぐんだ!! ってなに好きって!? 俺も攻撃喰らっちまったじゃねえか!


「先輩たちこそなんでトラ先輩をお昼を誘うんですか?」


 更に追加攻撃!! 2人が肩を震わせ彩葉を睨むが虚勢にしか見えないぞ。睨む攻撃はあんまり効果はないみたいだ。


「わ、わたくしだって虎雄さんのことす、好き……ですわ」


 珠理亜が最後の方段々声が小さくなるが俯いて頬を赤く染め恥じらう姿はなかなか可愛い。ポイント高いぞ! 彩葉には効かないけど。


「私だってな、その……あれだ! そう好きだ!!」


 來実が顔真っ赤で恥ずかしさ全快で勢いに任せて言う姿も可愛いな。いいね いいね! 彩葉には全く効いてないけどね。


 ってかどうするよこれ? 実況してる場合じゃない。トラが蒔いた種ではあるがあの体は元々俺なわけだ。

 このまま3人が争って刺されましたーとかなっては洒落にならん。そうならない為にもこいつらを止めねば。


 どうやって?


 いっそトラに選ばせるか? いや仮に1人と付き合って俺とトラが元に戻った場合……色々とめんどくさいな。あーどうする! あれだ! 俺の必殺技があるじゃないか。


 俺は彩葉と繋いでいる手をちょんちょんと引っ張る。


「いりょは、こはりゅ皆でご飯食べたいでしゅ」


 俺の言葉にピクッとひきつる彩葉。この子はすぐ顔に出る。そして俺のキラキラの瞳が効かない。

 仕方ないので強めに手を引っ張り彩葉を屈ませると耳元で囁く。


「いりょは、トリャがしゅきってなんでしゅ。はちゅみみ初耳でしゅよ」


「まあその辺は好きになってみようかなってことなんだけど。それよりこの間こはりゅ言ってたじゃん。この2人に迷惑してるんでしょ」


 え、あ、言ったなそんなこと。えーやばくねこの状況、彩葉ズバッと言うじゃんよ。


「先輩方! トラ先輩につきまとっているの、はっきりいって迷惑なんですけど!」


 うきゃーーズバッと言っちゃったよ!!


「ああん?」

「なんですって!!」


 彩葉の発言に2人がキレる。それに対しふふんっと余裕の笑みを見せる彩葉。


「自覚無いんですか? トラ先輩は先輩方に付きまとわれて迷惑なんですよ」


「お前ちょと生意気だな」


「そうですわね、あなたのそれ、目上に対する態度ではないですわね」


「ふん、年取るだけならバカでも出来ますよ。それに生意気ってのは知ってます!」


 一触即発……やばい、トラを連れて来るか?


  ☆ ☆ 妄想中 ☆ ☆


 トラ「喧嘩しないで! 俺はみんな好き!」


 3人「わーい!」


 ん? なるかこれ?


 take2


 トラ「喧嘩しないで! 俺はみんな好き!」


 3人「ふざけんな! 女の敵! 死んじまえ!」


 ザクッ!!


 あーこっちかな……


  ☆ ☆ 妄想終了 ☆ ☆


 身震いをした俺はグルグルと唸る3人の娘さん達に声をかける。


「こ、ここは女の子同士で落ちちゅいてついておはなちお話ちましぇんか? そ、そうでしゅ! しゃん人3人ともトリャのことがしゅきなのでしゅよね?」


 俺の問いに3人が同時に頷く。彩葉はよく分からんけどまあこの際どうでも良い。


「トリャは、こはりゅが言うのもなんでしゅけどやさちい優しい人間でしゅ。しゃんにん3人が争うのは嫌なはずでしゅ」


 ここまで納得してくれたのか3人はうんうんと頷いている。少し落ち着いてきたか?


「でしゅからお互いのことをちって知って、しょれでトリャのことをもっとちって知って……立場を見ちゅめ見詰めなおしゅでしゅ!」


 上手くまとまったか? 最後なんかグダグダになったがもう祈る、伝われ俺の思い!


「分かりましたわ。ここでいがみ合っても仕方ありません。まずはお互いのことを知って、お互い自分の立場というものを知るべきですわ!」


「ああ、いいぜ。お互い自分の立場をな!」


「ですね。お互い自分の立場を知るべきです!」


 上手くいったのか? 3人とも殺気を納め不適な笑みを浮かべる……本当に上手くいった?


「それでは今日は女子会ということでどうでしょう?」


 珠理亜の提案に來実と彩葉が頷く。


「中庭にでも行くか」


「そうですね。じゃあ行くよ! こはりゅ」


「ふえっ?」


 來実の提案に賛同する彩葉に引っ張られた俺は思わず変な声を出してしまう。


「心春さん行きますわよ。4人でお話合いつまり女子会しますわよ」


 珠理亜に優しく背中を叩かれる。


「わたち女子じゃないでしゅ」


「幼女ってか? 心春も立派に女子だろ!」


 來実に頭をバシッと叩かれる。


「ト、トリャがご飯食べるの待ってましゅ。みんな来ないんで心配してましゅ」


「大丈夫ですわ。きな子にお願いしておきましたから」


 彩葉に引っ張られながら後ろを振り返るときな子さんと目が合い深々とお辞儀をしてくる。


 ──任せて下さい。いってらっしゃいませ──


 とでも聞こえてきそうな丁寧なお辞儀に感心してしまう。ってそんな場合じゃねぇ!! この3人参加の女子会なんて参加したくないわあぁぁぁぁ!!



 ────────────────────────────────────────


 次回


『女子会はすれ違いなわけで』


 女の子が3人揃うとかしましいと昔から言われてますけど來実、珠理亜、彩葉の3人の会話を書いているだけでも賑やかで楽しいですねぇ。

 男3人だと謀る(変換出来ない)むさ苦しいとかじゃないのですね。


 御意見、感想ありましたらお聞かせください。







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