空回り

 グラウンドに行ったのは本当にたまたま。部活が終わって最終下校の時間になるまでの、単なる時間潰し。

今日も運動部の生徒達が大きな声を出しながら練習に励んでいた。


「元気だねぇ.....。」

 私はしばらくの間、何も考えずに景色を眺めた。


「あれ?今日部活は??」

ぼーっとしていると、後ろから声をかけられた。驚いて振り返ると......一人の男の子が立っていた。


「早見くん、練習は?いいの?」

私は、落ち着いているかのように静かに聞き返した。

 落ち着いているように見せているだけで、本当はかなり驚いている。彼にそれがバレてしまわないかと、すごくヒヤヒヤしている自分がいる。



 あれ?どうしてだ??


別に驚いていることが彼にバレたところで、私には何も不利になるようなことはないはずなのに......。私はなんでこんなにも焦っているんだろう。


「おい、おーい?聞いてんの?さっきからずっと呼んでんだけど?」

 また、私の悪い癖が出てきてしまった。

 焦る気持ちを押さえつけてなんでもない顔をして聞き返す。


「いやさ、最近ずっとグラウンドの方見てんじゃん。なんかあんの?」

 何もない、本当になにも。ただ早見くんのことが気になってつい目で追いかけてしまっているだけで......。

 でももし、こんなことを言ってしまったらきっと気持ち悪いと思われてしまうかもしれない。


「何も無いよ、本当に。」

 そう言うと、早見君に『あっそ』って素っ気ない感じで返された。

 いつもならもっとたくさん話せるのに、今日はどうしても上手くいかない。さっきから、胸の奥のあたりがざわざわし始めた。この気持ちは一体何なのだろう。

 そんなことをブツブツ一人で考えていたら、いつの間にか早見君は練習に戻ってしまっていた。


「こりゃまずい、明日朝一で美里ちゃんに報告と相談だな.....。」

私は、ざわざわした気持ちを抱えたまま早足で昇降口の方へ向かって行った。

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