第六話 夜中のテンション、やばいのはなに
「……でも、雪野さんはどうしてこの人を住まわせようと思ったんですか?」
「あー、本物だなって思ったから」
端的な回答は、理解に時間を要した。
冷え込む外気とは裏腹に、こたつの中は温かい。
机の上のみかんは、微動だにせず山と積まれている。
「……はい?」
「この家やばいよって言ってくる人はそれなりにいたけど、しっかり心霊現象を解決してくれたのは榛原さんだけだったから」
前提として。
心霊現象は存在する、この家では心霊現象が起きている。
この二点を大真面目に事実として飲み込まなければいけないらしい。
幽霊なんていないだろう。
そう自負していたけれども、昨日のことといい、フリでも認識を改めないと話は進まないようだ。
文貴は榛原へと視線を向ける。
おとなしくこたつで温まっている榛原は、歳は雪野と同じか少し上といったところだ。
悪い人物には見えないが、悪い人物みんながみんな、いかにもワルという見た目ではないだろう。
「本当に霊能力者なんですか」
「ええ。ただ龍野さんが思っているように、現実問題、社会的信用はありません。仕事として広く認知される類のものではありませんから。ひとまず一定の能力は持ち合わせていますので、事故物件の処理を不定期で請け負っています。あとは紹介でお祓いの依頼を受けて。それだけでは食べていけないのと、表の仕事があったほうが都合がいいので、在宅仕事もしています」
それなりに好感はもてる説明だった。
ウィークポイントを隠すことなく認めたためだ。
異能があっても、生きていくことは大変らしい。
ただ。
自分に関わってくる点では、もやもやとする。
「っていうか雪野さん、ここにくるときになにも聞いてないんですけど。この家やばいよって言ってくる人はそれなりにいたってどういうことですか」
「え?言ったじゃん。事故物件に1人で住むのは怖いって」
「霊能力者もどきだか霊感持ちだかが忠告してくるレベルだなんて聞いてないです」
「言っても来てくれた?」
「多分お断りしてます」
「でしょー?」
でしょー?じゃない。
「はい。霊感持ってる人間からしたら。いやな感じの空気が駄々漏れてます。この家、幽霊の通り道に建ってますし。こんな物件になっている根本的な原因はわからないですけど、ありえないほどいますね」
全然自覚がない。
「あなたが嘘をついているかもしれないじゃないですか」
「ちょっと文ちゃん!昨日みたでしょ?伊織さん、わたしは、幽霊関係の処理をしてくれたらそれでいいですよ」
詐欺。騙されてる。手品か何かに違いない。もしくは二人は知り合いで、今回のことはどっきりだ。そう思いたい。
「龍野さんが信じられないのも無理はありません。だって龍野さん、心霊現象に極端に鈍感なので」
「……はい?」
「あ、極端に!霊感がなさすぎるってことです。すぐ後ろになにかいてもわからないくらいに」
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