第824話 使用中

近いうちに壊される事になったゲーセンがあった


閉店してから数年たっている


新しくできたスーパーの駐車場にするために、綺麗に更地にするそうだ


そして、壊される前に肝試しをしようと、高校の同級生3人で集まった


「よし、それじゃあさっそくゲーセン内に入るぞ」


「どっから入るんだ?」


「ああ、入口の扉のガラスが割られているから、普通に入れるぞ」


とりあえず、集まったのは4人なので自分も含めてA,B,C,Dと仮称する。ちなみに、ゲーセンに入ろうと言ったやつをAとし、俺はDとする


「B、懐中電灯は用意してきたか?」


「ああ、2つあるぞ」


「C、スマホで撮影してくれ」


「分かった」


ちなみに、俺は行けたら行くと言っていたので、特に何も用意するようには言われていない


ゲーセン内は、ゲーセンだと分かる様なものは何も無かった。恐らく、最初から売り払われていたのだろう


2階にも行ったが、何も無かった


「ちっ、つまらんな。思った以上に何もねぇな」


「あと見るところって、スタッフルームとトイレくらいだぞ」


「じゃあ、先にスタッフルームからか」


スタッフルームに入るが、狭いロッカーと物置があるだけだった。備品や景品置き場と、スタッフの着替えをするためだけの場所らしい


ロッカーは6つほどあったが、当然すべてが空だった


「何も無いな」


「まあ、開けるとき少しだけドキドキしたけどな」


やっぱり、ロッカーには、もしかしたら、何かあるかもしれない、という期待があった


「あとはトイレか」


まず、男子トイレに入る。トイレは、掃除されていないため汚く、臭い


あまり入りたくなかったため、懐中電灯で照らしただけで終わる


「まだ30分も経ってないけど、女子トイレで終わりか」


「じゃあ、カラオケでも行こうぜ」


「そうだな」


もうすでにほぼ終わったようなものだと、A,B,Cの3人は談笑に入る


だが、俺はなぜか女子トイレだけには入りたくなかった


「俺、ここで待ってるわ」


「最後くらい、みとけよ。まあ、いいけど」


3人は、普通に女子トイレの扉を開けて中へ入る


俺は入り口から中をちらりとだけみたが、女子トイレも男子トイレ同様にく、個室の扉は全て閉まっていた


Aが、一番入口に近いところからガチャガチャとトイレのノブを回す音がし、鍵が閉まっているようで開かないようだ


二番目、三番目と開けていってるようで、三番目の扉だけ開いた音がした


「あれ、ここだけ開いたぞ」


「って、掃除用具入れかよ」


「つまんねー」


3人は女子トイレから出てきたので、俺はやっと帰れるとほっとする


ガチャン、ガチャン


トイレのドアが閉まった瞬間、中から鍵を外す音が2回した


確か、一番目と二番目のトイレの鍵は閉まっていたはずだ


……閉まっていた? つまり、中に誰か居たって事か?


それに気づいた瞬間、俺は全身がソワッとしたので、一目散に入口へと走る


「おい、どうしたんだよ」


「トイレか? トイレはここだぞ」


「ははっ、笑える」


Bの冗談に付き合う暇も無く、俺は入り口から急いで外へと出る


3人はあの鍵が開く音が聞こえなかったのか?


1分ほど経ったが、3人が出てこない


2分……3分……。おかしい、中で談笑してるのか? いや、何の音もしない


すでに見る場所も無くなったはずだから、もしかしたら俺を驚かそうと3人でこそこそと相談しているのか?


4分……5分……。内部で、懐中電灯の明かりすら点いていない


俺は、とうとうしびれを切らして入口から中を覗こうと近づいた


ざりっ、ざりっ


砂利を踏むような音が中から聞こえた。その足音は1人分だけだ。これが、俺を驚かす内容だったのか?


しかし、入り口から見えたのは、ギャルっぽい服装の少女だった


頭部分は黒く、表情が見えない


3人は? そう思った瞬間、横で ざりっ という音がした。そうだ、トイレの鍵を開けた音は2階した。つまり、もう一人いる


俺は、すぐに自分の自転車のところへ走っていき、そのまま家へと急いで扱ぐ


後ろから追いかけてきていないのかと気になったが、後ろを振り向く勇気も無かった


何事も無く、俺は家へ着くことが出来た


一応、3人には先に帰るとメールを送ったが、誰からも返事か来なかった


次の日になっても、メールの返事は来なかった


俺はそのまま学校へ向かうと、3人はすでに登校していた


「昨日は悪かったな、俺だけ先に帰って」


集まっていた3人にそう話しかけると、3人は不思議そうな顔をする


「昨日って何のことだ? っていうか、俺達、Dと一緒にいたことないぞ」


CとDも頷いている。俺は、勝手に帰った仕返しがこれかと思い、さらに謝る


「本当に悪かったって。お詫びに飯でも奢るから」


「だから、俺達はお前とそんな親しくないだろ」


Aはとぼけているような雰囲気でもなく、他の2人も怪訝な顔をしている


結局、話が合わず俺は自分の席に着く


それから、何度か話しかけたのだが、どう考えても3人は俺に関する記憶を無くしているとしか思えないような対応をしてくる


それからしばらくして、ゲーセンは予定通りに更地になったので、一体、3人に何があったのか分かる事は無かった

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