第773話 中古車販売店

中古車を見に行った。結構大きなお店で、百台以上の車が並んでいる


そろそろ子どもが生まれるので、7人乗りくらいの大きなものにしようか。それとも、軽でも乗り降りが楽なものを選ぼうか


お客さんが沢山いて、職員を捉まえることができなかったので、自分で車内を見て決めようと思った


店内の一番端の、一番目立たない所にある黒の軽ワゴンに目を魅かれた


近づいてみると、本当に中古車なのかと思うほどに綺麗だった。内装も、中古であると分かるようなものは何も無かった


さらに、値札は見当たらず、走行距離や車検の残り期間などの札も置いていなかった為、詳しくは分からない


「ま、あとで店員に聞けばいいか」


自分で乗り降りしてみて感触を確かめる。最後に、後ろの座席を倒してみてから決めようと思い、後ろの席に移る


「ん? 何だこれ」


さっきチラリと見た時には無かったと思うが、一枚の紙が落ちていた。拾って裏返しにしてみると、幼稚園児が書いたような文字で


「くるまのしたをのぞかないでね」


と書いてあった。その瞬間、嫌な感じがしたので車からおりる


「うわっ!」


地面に足を付けた瞬間、足首を何かが掴んだ。さっきの紙の事もあり、下を向くことはできない


なんとか足を振り、抵抗がなくなった時点で人のいる場所へ逃げた


「ふぅ、何だったんだ?」


人が居る事に安心して、車の方を振り向く。そこには、さっきの車が普通に置いてあった


「店員さん、あの車なんだけど……」


さっきの事は気になったが、それでも程度のいい軽ワゴンを諦めきれなかった俺は、店員に話を聞く事にした


店員を連れてその車の元へ行く。すると、さっき無かったはずの値札や走行距離等の札がきちんと置いてあった


「さっきは気が付かなかっただけか?」


そんなわけないと思いつつも、現に置いてある。俺が店員の元へ行っていた間に誰かが置いただけかもしれないが


そう思って、ふと足元を見ると、車の下から赤い血の様なものが広がってきているのが見えた


そして、車の下から何かが這い出ようとする気配を感じ、俺はがむしゃらに逃げ出した


あれは、絶対に事故車だろう

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