第769話 廃校舎合宿

昭和初期の頃、合宿先として廃校が使われていた


県が運営し、教室を改造した風呂まであった


そこへ中学生が合宿へと向かう


廃校は、廃校になった理由が人口減少と言うだけあって、辺鄙な場所にあった


夜になれば辺りはほとんど明かりが無く、真っ暗になる。学校内は明かりが点くため、それほど不便には感じない。トイレもあるし、部屋数もいっぱいあるので場所は困らない


ただ、昭和はまだ男女を区別する意識は低かったのか、風呂から出ればすぐ廊下であり、着替えは隣の教室の為、廊下で男女がバスタオルで鉢合わせたりもした。一応、仕切りは置いてあったが、ほぼ意味をなさなかったので女子からは不評であった


夜はやる事が無いため、肝試しが行われた。さすがに外は真っ暗で危険なため、使用する場所はグラウンドと離れの体育館だった


体育館は校舎と繋がっているが、勝手に出入り出来ないように扉は施錠できるものだ


校庭を一周し、チェックポイントでハンコを貰い、このためにカーテンで仕切られた体育館の迷路を抜け、体育館の後ろから出て庭に着けばゴールであった


十数組の2人グループに分けられ、5分おきに出発する


驚かす側は先生だけなので、人数も居なくてほとんど驚かされることは無い


体育館の迷路にしても、大したことは無いので前の組に追いつくことは無かった


しかし、一番最後の組だけが違った……


「早く行こうぜ」


「待ってよぅ」


男女ペアで組まれたのは、親睦を深めてほしいという学校側の配慮だった。しかし、普段あまり話した事の無い相手とは、話すことがほとんど無い


2人は静かに校庭を巡った


「何も無いな」


「うん……」


先生が、シーツを被って驚かしてくるが、そのリアリティの無さに怖がれと言う方が無理だ。まだ、風で勝手にざわめく樹木の方が怖いくらいだ


校舎はすでに明かりが落とされ、手に持った懐中電灯だけが頼りだ。すでに肝試しが終わった人たちのざわめきが少し聞こえるが、はっきりと聞こえるような音声ではなかった


その校舎の横を通った時、女生徒が「あっ……」と声を出した


「どうしたんだ?」


「だめ、見ちゃダメ!」


そう言われると逆に気になって、女生徒が見ていた場所を見た。すると、廊下にバスタオルを下半身だけ巻いた女性が歩いていた。裸を見られるのが嫌で、こんな時間に風呂に入ったのだろうか


「うひょっ」


「見たらだめだったら!」


女子に邪魔されて、それ以上見ることができなかったが、ものすごい美少女だった


「って、あれ誰だ?」


「え? そう言えば、誰だろ」


合宿だから同学年のはず。なのに、二人とも知らないなんて事はあるのだろうか。顔を確認しようと、廊下を見るがすでにいなかった。着替えるはずの教室は真っ暗で、誰も居ないように見える


「どこに行ったんだ?」


「さあ……」


気にしていても仕方ないので、そのまま体育館の方へと向かう。体育館に入ると、後ろのドアが閉められて鍵が閉まる音がした


「ちょっと!」


「まあ、俺達が最後だから閉めたんだろ。それに、ゴールはこの先だから問題ないって」


「そうかなぁ……」


女生徒はドアを確認するが、鍵が閉まっていてびくともしないので開けるのを諦めて進む


カーテンだけで仕切られた迷路は、数回も曲がればゴールにたどり着くだろう


「あれ? おかしいな」


「ここ、さっきも通ったよね?」


迷路とも呼べない迷路。迷う方が難しいはずの迷路なのに、ゴールにたどり着かなかった


「壁に沿って行けば、ゴールに行けるよきっと」


「そ、そうだな」


壁に沿って歩くと、さっきの体育館入口に着いた


「戻っちゃった。けれど、このまま進めばゴールに着くはず」


「お、おう」


そう思った瞬間、体育館の電気が消えた。最終組が遅く、全員ゴールしたと思って消されたのだろうか?


「きゃあっ! 居ます、まだ私達がいます!」


女生徒が叫ぶが、何の反応も無い。電気を消したはずの先生すらいないのはおかしい


「急いで出口に向かうぞ!」


暗くなった体育館を懐中電灯で照らしながら、出来る限り急いで歩く


すると、カーテンの向こうに白いものが動くのが見えた


「せ、先生……?」


カーテンの横からそっと覗くと、そこにはさっき校舎で見た美少女が歩いていた


「ねぇ……きゃーーーっ!」


声をかけようとして気が付いた。バスタオルだと思っていたのは、下半身から垂れた皮膚だった。美少女が振り向くと、顔や上半身の皮もずるりと剥け始める


「ぎゃーっ!」


2人はむちゃくちゃに逃げ、気が付いたらゴールにたどり着いていた。後ろを向くと、体育館内の電気は点いていた


「遅かったな。どうしたんだ?」


「た、体育館の電気が急に消えて……」


「はぁ? 水銀灯の明かりが、そんなに早く点いたり消えたりするわけ無いだろ」


先生の言う通り、水銀灯はゆっくりと点灯するはずだ。ならば、やはり電灯は消えていなかったのか


二人は、共通の体験をした仲間として親密度が上がったが、この合宿には2度と参加しなかった

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