第763話 スイッチ

古い旅館に行ったときのことだ。平日という事もあり、泊っている人は少ない様で、その少ない人も年寄りばかりだった


「まあ、傷心旅行だから別にいいけど」


新しい出会いを求めている訳ではないが、綺麗な女性を見るだけでも少しは心が休まるのに


近くに観光名所みたいなものもなく、なんでこんなところに旅館を建てたんだ? っていうぐらい良く分からない立地にある旅館


その分安いからいいけど、少し気になる


「なんでこんなところに旅館を建てたんですかね?」


旅館の従業員に聞いてみる。結構年に見えるから、たぶんベテランだと思われる。ベテランなら何か知っているだろう


「なんでも、昔は近くにお寺があったみたいでね、そこを訪れる人のために建てたらしいんだけど、いまじゃそれもないからお客さんも多くないわね」


「そうなんですか」


値段は安いが、料理は思ったより美味しかった。風呂も温泉みたいだし、結構掘り出し物だったのかもしれない


部屋に帰ると、電気が消えていた。確かつけっぱなしで風呂に行ったはずだけど、布団をひいた後消したのかな?


電気のスイッチを探す。真っ暗じゃ無いからすぐにみつかった


「あれ? スイッチは入ったままだ」


まさか、電球の方がきれたのか? どう見てもLEDじゃないからあり得る


じゃあ、従業員の誰かに電球の球を変えてもらおうかと思ったが、一応もう一度スイッチを付けなおしてみよう


スイッチを消す方に押すと、逆についた


「なんだ? 配線が反対になってるのか?」


でも、さっき風呂に行く前は普通だったと思うんだけど。もう一度スイッチを押す。すると、今度は消えた。反対へ押す。点いた。押す。消えた


それを何度か繰り返すと、障子の向こうに何か影があったきがした


スイッチを消すと、消える瞬間に障子に映る。点けると、つく瞬間だけ影が映る


それは、踊っている人の様に見えた


「気味が悪い」


電気をつけたまま、障子に近づく。誰も居ないはずだけど、確認せずにはいられなかった


障子を開けると、そこにはやはり誰も居ない


「気のせいか?」


障子を閉めた瞬間、電源のスイッチを誰かが押したように切り替わった


「気のせいじゃないよ」


すぐ後ろから、そんな声が聞こえた

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