第737話 ガチャガチャ
これは、あるお店での話だ
お店の片隅に、ガチャガチャが置いてあった。大抵は、ちょっとした小物や人形なのだが、一つだけ中身が見えないように処理されている物が置いてあった
1回500円。中身に何が入っているかも明記されていない。こんなものを買うやつが居るのか? そう思いながらも、気になったので、しばらく誰か買わないか様子を見る事にした
だが、近くに来る人は皆、一度はそれを気にするのだが、誰も購入しようとはしない。試しに買うにしても、500円はちょっと高い気がする
すると、店員が通りかかったので、思い切って尋ねる事にした
「すいません、これ、何が入ってるんすか?」
「ああ、これはフリーマッケットの売れ残りのうち、カプセルに入るものを入れてあるんですよ」
「それって、どんくらいの価値なんすか?」
「うーん、フリマだから正確な価値なんて知らないけど、聞いたところでは数百円から数万円で売ってたらしいよ」
数万の物を500円で売るわけがないとは思うが、万が一入っていたら……そう思って1回だけ試しに買ってみる事にした
500円を入れて右に回す。すると、黒いカプセルが出てきた。気になる人が他にもいたのか、何人か様子を伺っている人達がいた。どうせなら、分かるように見せてやるか
カプセルを振ると、小さな物がカチャカチャと鳴る音がした。重さも軽いので、小物だろう。カプセルを開けると、指輪が入っていた。見た目はガーネットみたいだが、500円ならどうせガラスか何かだろう。きっとおもちゃだ
見ていた人たちもそう思ったのか、誰もガチャガチャを回すことなく去っていった
家に帰り、姉に見せる
「これが本物か偽物かわかる?」
姉はジュエリーショップで働いているので、見せれば本物かどうか分かるかもしれないと思った
「これ、どうしたのよ。どこで買ったの?」
「あ、やっぱ偽物? ガチャで500円だったし」
「は? 500円? これはどう見てもカットやデザインの細かさからみて本物でしょ」
いや、デザインとかの付加価値は俺には分からないから聞いたのだが。だが、姉が言うなら本物という事だろう
「で、どうするのこれ。彼女か誰かにあげるの?」
「彼女なんていねーよ。姉ちゃんが欲しいなら、1000円で売ってあげてもいいよ」
「マジ? 買う買う」
俺にはどう見ても偽物にしか見えなかったので、500円得した気分だ
「まいどありー」
「こっちこそサンキュー。普通に買ったら数万すると思ってたのに」
「え。マジで?」
「マジマジ。あ、今更返さないわよ」
そう言われては、返せてとも言えないし、なんか損した気分になった
それから数日して、姉が怪我をした。と言っても、階段を踏み外したときにねん挫したくらいだが
それでも姉は数日は湿布を貼っていた
それから、姉はちょっとした怪我を何度もするようになった。ただ、同じ場所は怪我をしていないが、指輪をしている手以外のすべての場所を、何かしらの怪我を負った
それも、日を追うごとにひどくなっていた。顔に怪我を、それも失明寸前の怪我を負って、さすがにおかしいと思い、神社へ行った
お守りを買ってしばらくは何も無かったが、しばらくするとお守りが切れたり、無くしたりした
「姉ちゃん、もう指輪をするのを止めたら? それ付けてからでしょ、怪我が増えたの」
「ただの指輪にそんな効果は無いでしょ。私の運が悪いだけよ」
姉はかたくなに指輪を外そうとはしなかった。俺はもう一度、その指輪の出所を聞こうと店に訪れたが、あのガチャはすでに撤去されていたし、あの時の店員も辞めていた
結局、原因は分からかったが、姉は今ではその指輪をしていない
姉は、最後に指輪をしている手を車に轢かれ、その衝撃でどこかへ行ってしまったからだ
だが姉は、いまだにその指輪を探している
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