第709話 LIVE
私は、県外の大学に入ったので一人暮らしを始めた
親の仕送りはありがたいけれど、家賃と食費で生活が精いっぱいだ
友達と遊びに行くお金は自分で稼がなくてはならなかった
友達は講義が終わった後、カラオケや知り合いのスナックで働いているらしい
私は男性への人見知りが激しくて接客系は無理だ。コンビニも、レジ係も、本屋さんですら……
そんなある日、レポートを書くための資料を集めるために、ネットで調べ物をしているときにあるサイトを見つけた
「カメラで動画を流すだけでお金が稼げます……?」
所謂、投げ銭というやつだろう。再生回数じゃなくて、直接見た人からお金がもらえるやつ
レポートを書くためのノートパソコンにはカメラが付いていた。あとは、マイクとイヤホンをそろえれば誰にも会わないでお金を稼げそう……私は、そう軽く考えていた
「こ、こんにちわー」
ノーパソに向かって挨拶する。相手からどう見えているのか分からないから、なんか変な感じだ
一応、数人は私のLIVEチャットを見に来てくれている。容姿は可愛い方だと言われているし、大学生だとアピールしてある。念のためマスクで顔を隠しているけれど、もし知り合いに見られたら分かってしまう程度だ
まあ、こんなマイナーな新人で、偶然見つかるなんてほぼ無いと思っているけど
登録した時の説明では、話すだけでいいと書かれていたけれど、見に来ている人から要望が入る事がある
「え? 脱いでって……えぇ!? だ、だめですよ! 私は脱ぎません!」
そう宣言した瞬間、数人居た人たちが、一人を残して去っていった
「あ……」
やっぱり、そう言う目的の人しかお金をくれないのだろうか……そう気づいてがっかりする
だけど、まだ一人いるから勝手に消すわけにも行かない
「えっと、エッチじゃない事で何か希望はありますか?」
そう話すと、メッセージが届いた
「え? 後ろの戸が開いているのが気になる……?」
私が後ろを振り向くと、確かに戸が少し開いていた。それを閉めて再びパソコンの方を向く。最後に残ってくれた人は、たわいない話でも付き合ってくれたからと1000円くれた
「あ、ありがとうございます!」
初めて稼いだお金だと、心底うれしく感じた。時計を見ると、2時間が過ぎようとしていた
「そろそろ、寝ましょうか? あ、変な意味じゃないですよ?」
そう冗談を言うと、メッセージが届いた
「え? 後ろの戸が開いている……?」
振り向くと、また戸が少し開いていた。建て付けが悪いのだろうか? さらに、メッセージが届いた
「家族が居るの……? いえ、私は一人暮らしで……誰か覗いていたよ……え……?」
私は気味が悪くなって、話もそこそこにパソコンの電源を切った
それから、その戸が気になり始めた。確かに閉めたのに勝手に開く。建て付けじゃなくて、つっかえ棒をしてあっても、いつの間にか外れている。ガムテープを貼っても同じだった
「気味が悪い……」
見ている時は絶対に開かないけど、気がそれたときに開いているのだ
その夜、夢を見た。私は、パソコンの前に居る人の左後ろから見ている感じだ
パソコンの前に居る人は女性で、パソコンに向かって話している。ちょうど私がやっていたのと同じだ
だけど、その子は私と違って沢山の人が見に来ているようで、いろいろ話が飛び交っている
そして、中には好きなお店の名前や近くにある観光名所、駅や公園の名前まで言っていた
(そんなに話して大丈夫なの?)
私が心配するのをよそに、数日後、居場所がバレた彼女の元に男が無理やり侵入した
大人しくしろと首に這わせたナイフが、暴れた彼女を切り裂いた
「それが、この部屋だったんだ……どうりで家賃が安いと思った……」
私は、たった1日でLIVEを止める事にした。せっかく稼いだ1000円も、結局は用意したマイクとイヤホンに比べれば赤字だ
だけど、後ろの戸は開かなくなった
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