第703話 連泊

小説を書くために、地方へ取材がてら旅館に連泊する事した


1週間ほど泊まる予定だが、お金もそんなにないので安い旅館を探した


ビジネスホテルに泊まれば安くなるのだろうが、ビジネスホテルでは集中して小説をかける環境ではない


明るく、自然の風景を見ながら執筆したいのだ


そして、1週間で3万円で泊めてくれる旅館が見つかった。1泊あたり4千円ほどになるのだろうか


ただ、食事は朝はバイキングだが、昼食はでない。夕食は一番安い料理が提供されることになった


通された部屋は、希望通り窓の外に自然が見える部屋で、2人部屋らしい


簡単な説明を受けて、ひとまず休むことにした


「やっぱり、のんびりできると気分が違うな」


1時間ほど休んでから、とりあえず何かの資料に使えるかもと思い、部屋自体も何枚か写真を撮った


昼食はでないので、郷土料理でも食べながら取材をしよう


そして、帰って来たのは夕食の1時間前だった。ちなみに夕食は19時で予約してある


「あれ? まだ布団がひかれてないのにふすまが開いてる」


鍵はかかっていたので、泥棒でなければ旅館の人が部屋に入ったのだろうか? その割に、何も変わってないような気がするが


「まあいいか、とりあえず風呂でもはいるか」


ふすまの中は座布団と布団だったので、とりあえず閉めて行こう


「ふう、いい露天風呂だった」


さっぱりして部屋に帰ってくると、ちょうど仲居さんが「料理を運んでもよろしいでしょうか」と聞いてきたので「お願いします」と答えた


部屋の鍵を開けて、くつろいでいると、料理が運ばれてきた


一番安い料理だと聞いていたけど、品数が少ないだけでとても美味しかった。これで1泊4千円ならもうけものだろう


電車での疲れが出たのか、満腹になったら眠くなったので、料理のかたずけと同時に布団も敷いてもらうことにした


歯磨きだけして寝る事にする。念のため、貴重品は金庫へ入れておこう


「うーん、よく寝た」


山が近いから、もっと虫の声とかするのかと思ったけど、静かだったのでよく寝れた


「あれ? 閉め忘れてたっけ」


またふすまが開いていた。布団を敷いたときに開けっ放しにしたのだろうか? 眠かったから覚えていない


「布団くらい自分で片づけるか」


放っておけば、朝食後に片づけてくれるのだろうけど、起きたのに布団をそのままにしておくのは気がとがめたので片づけることにした


「え……」


ふすまを開けると、布団を置く場所に人型のシミがあった。まさか、ここで寝た奴でも居るのだろうか? さすがに、シミの上に布団を置くのは憚られる


どうしようかと思っていたら、朝食を運んでいいかどうか聞きに、仲居さんが来たので聞いてみた


「あの、このシミって前からありましたか?」


「いえ……私は聞いたことがありません。今まで、特に何かあったという話も聞いたことがありませんし……」


実際、この旅館の事を調べたときには特に何か事件があったとかいう話は検索に引っ掛かっていない


じゃあ、たまたま人型に見えるのかと思って気にしないことにした


しかし、気になったので昨日撮った写真でもう一度見てみる事にした


「え……」


再び、口が勝手に開く。昨日撮った写真は、確かに部屋の中を撮ったものだが、その時すでにふすまが開いているのだ。俺の記憶では、絶対にふすまは閉じていたはずなのに


ただ、この程度の事で部屋を変えてくれと言うのもなんか悪いし、仲居さんもいままで何も無いって言ってるし


とりあえず、気にしないことにして朝食を食べた後、すぐに出かけることにした


夕方、帰って来たときにどうなっているか気になる


それとなく、外食した先でこの旅館について聞いてみたけど、やはり何か事件があったという話は無かった


その夜。ふと目が覚めた。すると、ふすまが開いていた


「げっ、こんな夜中に……」


閉めに行くのもなんか嫌なので、無理やり目をつむって寝ることにした


すると、ふっと自分の上を何かが通ったような気がした


目を開けると、白い着物を着た人が、ふすまに入っていくのが見えた。ふすまを見ていると、向こうから覗きこまれるような気がしたので、無理やり体をふすまと反対に向けて横になる


心臓がバクバクと音を立てているので寝られそうにないが、起きる気も無い。どうしようかと色々考えていたら、いつの間にか寝ていたようだ


朝起きると、ふすまは閉まっていた


夢の中で、ふすまに向かって


「ちゃんと開けたら閉めろ!」


と怒鳴っていた気がする

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