なんで、俺が。なるべくしてなったメディエーター

藤堂棗

プロローグ

生徒会の日常

「メディエーターにならないか?

君にぴったりの仕事だと思うんだ......」


20○×年、教育委員会は学校内でのいじめや不登校などの諸問題を解決するために、Training Institution of Mediator (TIMティム)を創設した。TIMは、その名の通りメディエーター(仲介人)を養成する機関だが、その実態はごく一部の人間にしか知られていない。


TIMのメンバー第一号である俺、氷室仁ひむろじんは将来メディエーターとして有望な人材を育てるために母校である私立色織しきおり学園に派遣された。

 

 私立色織学園は初等部、中等部、高等部から成り、偏差値45の平凡な学園だが、この学園に存在する生徒会はひと味違う。


俺が顧問を務めるこの生徒会は言わばセミメディエーター(通称:セミメディ)の集会だ。俺は彼らが初等部の頃から、性格、人との関わり方などを観察し、メディエーターの素質があると見込んだ者をここに集めた。


メディエーターに求められる素質は、俯瞰力だ。児童からこの素質を見抜くのはかなり苦労するが、そこはメディエーターである俺の勘が物を言う。


素質がありそうな者には声をかけ、本人の同意の上でそのまま中等部へ上がらせる。そして、中等部ではセミメディ見習いとしてクラス委員を務めてもらう。


つまり、高等部でセミメディとして活動できるか否かを見定める観察期間というわけだ。


その後、セミメディに選ばれた生徒は生徒会役員を務めることになる。



 これは、そんなセミメディたちとの日常を記録したストーリーである。





「報告はじめ!」


「1年代表αより、授業中に早弁をする者がいましたが、その他異常なし!」


「2年代表εより、眼帯を着けて登校する者がいましたが、その他異常なし!」


「3年代表ιより、下校時にカラオケ店に入る者がいましたが、その他異常なし!」


「ボス、1年~3年まで異常はありません! 報告書、提出します。」


「はい、たしかに~。皆も亮介もお疲れさん」


 私立色織学園の生徒会の会議は、セミメディ見習いの報告から始まる。どんな些細なことでも気になったことは報告する。これがセミメディ見習いのミッションであり、訓練である。


ちなみに、メディエーターの存在が公になることは好ましくない。そのためミスをすることを前提に、俺たちはセミメディ見習いのことをコードネームで呼ぶ。


彼らが集めた情報と自分たちが集めた情報を集約し、問題が起こる予兆があればそれを未然に防ぐことが、セミメディへのミッションである。もちろん、既に問題が勃発していた場合はそれを解決することもミッションの一つだ。


「なんか、質問あるやついるか~? いるならどんどん聞いとけよー」


「じゃあ、あたしから。 ねーぇ、αちゃん!

その早弁してた子、昼休みはどう過ごしてるのかしら?」


「えーと、友だちと体育館でバスケをしているみたいッス」


「その一緒にバスケしてる友だちも早弁してるのかしら?」


「すんません、そこまでは分かんないッス......」


「......あら~そうなのね! ありがとっ♡」


「はい、つぎ~」


「おいε、そいつは中2病ってやつか? それとも怪我か何かか?」


「はいっ、中2病だと思われます! 伊達政宗にハマっているとかなんとか......」


「そうか、わかった」


「やぁねぇ、みなちゃん! お礼くらい言いなさいよっ!」


バシッ!!


「おいっ、おネェ! 毎回毎回力強ぇーんだよ!」


「やだぁ、レディに向かってなんてこと言うの?!」


「はぁっ?!誰がだって?!」


「先輩方、うるさいです。静かにしてください!

って言っても無駄か......。それでι君、そこのカラオケ店はどこにあるの?」


「たしか、2丁目だったような......」


「だったような?」


「いえっ!2丁目でした!」


「あそ、了解」



「よし終わったな~、戻って良いぞ。今後も励めよ」


「はいっ!」


こんな感じで、ギャーギャー騒ぎながらセミメディ見習いたちの報告は終わる。


それにしても、最近のガキどもはうるさい、特に湊と蒼。自分が選んだのだから文句は言えないが、もう少し凡人らしく振る舞えないのかと思う......。


一はいつも通り巻き込まれてるし、凛と姫はいつもの茶番が始まったとでも言いたげな呆れ顔だ。俺としてはこの場を沈めてほしいのだが......。


ま、そんな気は彼女たちの髪の毛並みにサラサラ無さそうだ。


さて、ここからがセミメディたちのミッションだ。誰がどう動くのか楽しみだ。



「おい、亮介、今手空いてるか?

もし手が空いてたら、念のためその伊達政宗もどきマークしとけ。新学期始まって早々に眼帯しただけでいじめられて、不登校になられちゃ困る」


「了解しました!」



「じゃ~あ、あたしもっ! ゆづちゃんお願いね?♡」


「はいっ! 一緒にバスケをしている友だちが早弁をしているのか? している場合は観察終了、していない場合は早弁くんがパシられてないか、確認すれば良いんですよね?」


「さっすが、ゆづちゃん!

察しが良いわ、よろしくねっ♡」


「ラジャーです!!」



「あの~、一くん」


「なに?」


「僕は何もしなくていいのかな?

皆、何かしらするみたいだけど......」


「慎吾、それ愚問だと思うわよ」


「......慎吾さんは何もしなくていいよ。

2丁目は飲み屋街とかホテル街が多いわけじゃないからただの遊びでしょ、校則違反だけど」


「なるほど、凛さんの言う通り愚問でした......

ごめんね、一くん。」


「ちょっと、いっちゃーん。もう少しマイルドに言えないのぉ? いくら従兄のみなちゃんに憧れてるからってそんなトゲトゲしないの~! メっ!」


バチン!!


「誰がトゲトゲしいって? あぁ?」


「蒼さん、デコピンだけでこの威力! 痛いですって!! もう少し、手加減ってものを知ってください!!

それから、俺はではなくです!」


「はいはい、くんね♡」


「そ、それ!言わないでくださいよ! もう、いっちゃんでいいです。」


「最初っからそういえばいいのにぃ、いっちゃん♡」


「おいっ、俺は無視かよ、おネェ!!」


また茶番が始まってしまった。


一応、おい姫、何とかしろっ! と目で訴えてみるが、いかにも面倒くさそうな顔をされてしまった。


もちろん、凛もそんな気は無さそうだ。しょうがない、ここは俺の出番か......


パンパン!


「はいっ、そこまで~! ってことで、各自検討を祈る! 次の会議までに何か掴めたら必ず報告するように、解散!」


「了解!」



セミメディたちが生徒会室を出ると、蚊の羽音が聞こえるくらい静かになる。うるさいのが嫌いなわけではないが、俺はこの静さが好きだ。


姫がまとめた資料を読み返しながら、誰のどんな動きをマークするか熟考する。


俺が教師だからといって、メディエーターとしての仕事がなくなるわけでない。セミメディのサポートをすると共に、俺もいちメディエーターとして動く。



εとιが言っていた件に関しては、特に問題は無さそうだ。ただ、蒼が突っ掛かっていた早弁の件は俺も気になる。中1でパシリになったらたまったもんじゃない、卒業するまで続くぞ......。


とりあえず早弁くんの授業中の雰囲気と昼休みの動きを探るか。




To be continue

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