第171話 4日目?-4

リ「ワルキューレ様、いかがいたしましょうか。」


ワ「はじまる様が戻られるまで、引き続き通信が無いか待機しろ。まだ、生き残っている者が居るかもしれん。」




ワルキューレがそう言った瞬間、この場に転移してくる者が居た。転移して現れたのは、上半身が魚で、下半身が人間のマーマンの様な悪魔だった。申し訳程度に生えた角と蝙蝠の様な羽が、悪魔だという事を証明しているが、それが無ければただの魚人と判断していたかもしれない。




バルベリス(悪魔):HP150億、MP120億、攻撃力15億、防御力10億、素早さ10億、魔力10億、スキル:??? ステータス補正:攻撃力2倍、防御力2倍、素早さ2倍、魔力2倍




鑑定結果は、アスタロスをも上回るステータスを持つ悪魔だった。正直、勝てる気がみじんもしない。




バ「ゲッゲッゲッ、ちゃんと俺を鑑定したか? そして、絶望したかー?」




バルベリスは魚眼をギョロギョロと動かし、辺りを見渡す。俺もゾワッときたから鑑定をかけているのだろう。




バ「ちっ、女神共の本部かと思えば、居るのは雑魚ばかりじゃねぇか。」


ワ「貴様は誰だ! どうやってここへ入り込んだ!」


バ「下級神を勤めていた俺を知らないとは、本当にヒヨコちゃんばかりかよ。それに、この程度の結界で俺を防げると思っていたのか?」




強引に結界を割って入り込んだのだろう。こいつのステータスなら、どんな対抗策も無意味に思える。




ワ「くっ、グングニル!」


レ「ワルキューレ、やめろ!」




ワルキューレはグングニルを構え、今にも伸ばそうとしている。ワルキューレは鑑定が使えないため、バルベリスのステータスが見れないのだろう。それとも、たとえ相手が元下級神だろうが挑もうという気位なのだろうか。


ワルキューレは制止を聞かず、グングニルを伸ばす。その槍は正確にバルベリスの大きな魚眼を突き刺す。




ワ「やったか?!」


バ「はぁ? 何かしたのか?」




グングニルは、バルベリスの薄いはずの目の膜で止まっていた。そして、バルベリスはその槍を掴むと、引っ張る。ワルキューレは手を離すこともできずにバルベリスの方へ引っ張られ、右手で胴体を貫かれた。ラヴィ様が言っていた通り、ワルキューレはコアになる事もなく、血を出しながら地面に横たわる。




ヤ「うっ、ワルキューレさん……。」




むわっとした血の臭いに、弥生は口を押えて耐えている。バルベリスは、手についた血を、手を振って弾くと、それだけで数人の見習い女神が倒れる。血液が銃弾の様になったのだろう、死んではいないが、体に穴の開いた見習い女神も居る。




バ「つまらねーな、暇つぶしにもならねーじゃねぇか。」


コ「こ、殺されるのです。全員、殺されてしまうのです!」


レ「落ち着け、コレ!」




コレはパニックになり、逃げ出そうとする。それは、暇つぶしをしているバルベリスにとって、かっこうの獲物になる。




バ「そうそう、逃げるやつの後ろから殺すのが一番楽しいんだよな。」


レ「やめろ!」




俺は分裂で自分のできる限りの硬度を誇る盾を作り出し、バルベリスとコレの間に陣取る。




バ「それそれ、正義感ぶった行動を無駄にして、あっさりと殺すのも楽しいんだよな。」




わざわざ俺が間に合うように待っていたのだろう。バルベリスの指先に小さな水滴が集まったのが見えた瞬間、俺の盾に穴が開き、俺の腹を貫通し、コレの背中から心臓を撃ち抜いたようだ。




ア「零! 今助けるのじゃ、蘇生!」




アヌビスは慌てて俺の腹に手を当てると、蘇生した。多少の血は流れてはいたが、蘇生で傷は元に戻る。




レ「アヌビス、コ、コレを助けてやってくれ。」




しかし、コレは地面に倒れ伏し、じわじわと地面を血で濡らしていた。




ア「蘇生! ……だめなのじゃ、すでに死んでいるのじゃ……。」


下「間に合わなかったか! おのれバルベリス!」




マリア様と一緒にはじまる様を探しに行っていた名も知らぬ下級神様が戻ってきた。




バ「やっとまともに戦える奴の登場か。いいのか? ここを吹き飛ばしちまっても。」




下級神同士がまともに戦えば、ここはドラゴンの星の様に星ごと消滅してしまうかもしれない。下級神様もそう思ったらしく、手を出せずにいる。




下「場所を変えてやる。ついてこい!」


バ「馬鹿か? わざわざまともにやるわけが無いだろう。ウォーターカッター。」




バルベリスは、手をまだ生き残っている見習い女神の方に向けると、水魔法を唱える。下級神は、それを助ける為に間に入る。さっき俺にやったのと同様の卑怯な手だ。下級神の左腕が、切断される。すぐに蘇生で治したようだが、そのままでは的にしかならない。




下「貴様! 戦えぬものを狙うとは、それでも元下級神か!」


バ「ゲッゲッゲッ、そうさ、元下級神さ。今は悪魔だから全然平気だな、ほれ、もう一丁。」




バルベリスは、再び倒れている見習い女神や、震えている見習い女神を狙って攻撃する。そのたびに下級神は傷つき、蘇生する。反撃すると、その余波だけで俺達が死んでしまうので、反撃すら出来ないようでやられ放題になっている。




下「動けるものは、動けぬものを連れて退避しろ! 私がその間の時間を稼ぐ!」


バ「ゲッゲッゲ、そう宣言されてハイそうですかと見逃すと思うのか? 闇分身。」




バルベリスは闇魔法で自分の分身を作ると、逃げようとした見習い女神たちに追い打ちをかける。しかし、狙いはあくまで下級神のようで、目で追えない程のスピードで攻撃していない。見習い女神たちが転移で逃げられないよう、追いたて、転移陣を壊し、動けない程度に傷を負わせていく。




ベ「いつまで遊んでいる? はじまるが戻ってくる前にさっさと片を付けろ。」




いつの間に居たのか、ベルゼブブが居る。その横には、見たことも無い美青年が立っていた。




バ「はいはい、それじゃ終わらせるか。マイクロブラックホール。」




バルベリスは両手を胸の前に持ってくると、その手の間に黒い球を作る。あいつの言葉が真実なら、あれはブラックホールなのだろう。




下「やめろ!」




下級神様はそれを止めるべく突進しようとするが、先にベルゼブブが下級神様を叩きつける。それだけで、地面が陥没し、ダンジョンの壁の一部が崩壊し、俺達は吹き飛ばされた。吹き飛ばされてよかったのか、目の前のダンジョンはバルベリスの手の間に全て吸い込まれてしまった。逃げ遅れた見習い女神ごと……。




ベ「さて、中級神とマリアはそうそう戻ってこれぬはずだ。今のうちに神界を制圧する。」


下「そうは、させぬ!」




下級神様は無事では無いものの、死んではいなかったようで、あのブラックホールでも無事だった神界の入口の前に立ちふさがる。




ル「邪魔、だ。」




それを、美青年はあっさりと手から出した光で消滅させた。その背には、さっきまでなかった16枚の悪魔の翼が生えている。




ベ「ルシファー、もういいのか? わざわざお前がやらなくても俺がやったのに。」


ル「ちょっとした運動にもならんよ。それに、本番はこれからだ。来るぞ、神界に居残っていた中級神が。ここまで来てやっと動くとは、遅すぎるがな。」




ルシファーが言った通り、神界への入口から神が現れる。




中「ルシファー! こりずにまた神界を乗っ取ろうと言うの? 今のあなたなら私でも!」


ル「いいや、お前では無理だ。私はすでに完全体となっている。」




ルシファーがそう言うと、16枚の内の8枚が天使の様な翼に変わる。




聖「これが、聖魔神となった私だ。まあ、もう二度と会う事も無いが。」




聖魔神ルシファーは、中級神様らしき女性首を一瞬で落とし、一撃で倒す。余波など発生せず、すべての衝撃を込めた一撃だったのだろうか。




ベ「おいおい、この銀河系ごと吹き飛ばすつもりか? この場でこれ以上戦うと、本当に星々が飛びちるぞ。」


聖「そのようなヘマはせぬよ。さあ、ゆくぞ。」




ベルゼブブ達が神界へ踏み込もうとしたその瞬間、動きが止まる。




ク「ここまでの様ですね。」


レ「あなたは、クロノス様!」




クロノス様は時間を止めているらしい。こちらも俺以外動いていないが。




聖「時間も止められぬ未熟者が。未来へ進む速度に対して過去に戻る速度を、同じスピードで行うだけの擬似的なものだな。」


ク「なっ、だとしても何故あなたが動けるのです?!」


聖「私の方が格上だからに決まっておるだろう?」


ク「じ、時空転移!」




俺達が転移に包まれるのと、クロノス様の体が真っ二つになるのは同時だった。

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