第161話 3日目?-1

レ「むぅ、暑い……。」




俺は暑さから逃げるように目をつぶったままゴロリと転がる。しかし、そっちは壁だったようで、固い感触がある。仕方なくもう一度寝返り、暑さの元を確認する。うーん、ふにふにと柔らかくてあったかいな。そっと目を開けると、目をつぶって寝ているメィルの顔が目に入る。急激にバクバクと心臓が音を立てる。


何故メィルが? いや、先に寝た俺はメィルがどうしたのか見ていなかったな。誰かに見られていないか? バレたら殺されるかもしれん。今何時だ? メィルはまだ起きていないよな? いろいろな考えが頭に浮かび、解決する前に次の考えが浮かび、パニックになる。まだメィルは起きていないようなので、徐々に体を離す。




メ「ううん、行っちゃダメぇ。」




だというのに、メィルは俺の方に近づいてきて抱きついてくる。いくら胸の無いメィルとはいえ、ブラもしていない上に布一枚みたいな神装備だ。さすがに透けてはいないが、柔らかさがダイレクトに伝わってくる。さらに、ワンピースがめくれて太ももが露わに。




レ「だーっ!」


メ「な、何事だ? 敵襲か?」




我慢できずに大声をだすと、メィルはびっくりして目を覚ました。




レ「何故ここに居る!」


メ「昨日言ったではないか。一緒に泊まっていいか? と。」


レ「それは知っている! なぜ俺の布団に一緒に入っているんだ!」


メ「良いではないか。私の布団が無かったのだからの。」


レ「弥生かイルナの方でもいいだろ! いや、取り寄せてもらえば……。」


ヤ「もう、何事ですか? こんな夜中に大声を出して。投擲武器操作。」


レ「ひっ!」




闇の壁の上から弥生のクナイが飛翔し、俺の首筋の右側をぎりぎり通って壁に刺さり、壁が円形に30cm消滅する。ワルキューレの槍もぎりぎりだったのを思い出す……デジャヴか? メィルが何事も無かったかのようにすぐに壁の穴を時空魔法で修復した。弥生は寝ぼけていたのか、それ以降の声は聞こえなかった。




レ「い、命に関わるから小声で話すが、今からでも布団を取り寄せてもらって他の場所で寝ろ!」


メ「連れないの。私もたまには人肌が恋しくなることもあるのだ。どうせ別れも近い事だし、今なら好きにしていいぞ?」




メィルが肩をチラリと出して誘惑してくる。男であればほぼ全員が「いただきます!」と言いそうな状況ではあるが、相手がメィルという事もあり俺の理性は全力でブレーキをかける。




レ「そういう訳にはいかん! ほら、人肌が恋しいならイルナの所へ行ってろ!」


メ「むー、ケチじゃの。」




メィルはしぶしぶではあるが、イルナの所へ向かったようだ。しばらく興奮状態で寝付けなかったが、1時間もしないうちに寝入ったようで、少し寝不足感はあるが、6時半の目覚ましと共に目が覚めた。




ア「零、おはようなのじゃ。」




アヌビスが俺の起床に気が付いて闇の壁を消す。弥生はすでに起きていたようで、布団が片付けてある。イルナは、今日はキチンと部屋へ着替えに行ったのか、ここにはいない。




レ「おはよう。みんなは?」


ア「弥生は部屋へ行っているのじゃ。イルナはトイレかの?」




イルナはトイレだったのか。昨日と同様にトイレで寝ていない事を願う。さすがに2度目は無いと思うが、2度目はワルキューレに殺されるだろう。その場合は、大人しくダンジョンへ帰還の巻物を使うしかないな。




レ「あれ? メィルは?」


ア「うん? 零と一緒に寝ていたのではないのか?」




アヌビスはメィルが俺のところで寝ていたのを知っていたようだ。知ったうえで特に何も言ってこないところを見ると、異性が一緒に寝る事をどうとも思っていないようだな。




レ「夜中にイルナの所へ行って来いと追い出したんだが……。」


イ「……来てないよ?」




トイレから戻ってきたイルナが、丁度話を聞いていたようで返答する。イルナの所じゃないとすると、




レ「弥生の所で寝たのかな?」


ヤ「誰がですか?」




丁度弥生が着替え終わったらしく、大部屋に顔をだした。




レ「メィルを見なかったか?」


ヤ「そう言えば見ていませんね。何かあったんですか?」


レ「特に何かってわけじゃないが、今朝起きたら居なかったからな。」


ヤ「メィルちゃんも気分屋ですからね。途中で帰ったのかもしれませんよ?」




うーん、昨日の感じだと帰ると思えなかったんだが。一応、他の部屋も探してみるか。しかし、メィルは既にどこにもいなかった。


少しもやもやした感じがするが、居ないなら仕方ない。俺達は朝食をケルベロちゃんに持ってきてもらう。いつも通りのホットケーキと、俺と弥生は納豆ご飯、イルナもご飯が食べたくなったのか、タケノコご飯を食べた。マグロはまだ残っていたので、刺身で数枚食べた。さすがに連続でがっつりと食うには飽きてきたからな。




ケルベロちゃんに挨拶をして、ビジネスホテルの前からダンジョンへ転移で向かう。フロントに居たラヴィ様に挨拶すると、説明があった。昨日の出来事があってから、他の冒険者や見習い女神達は退避させられ、ダンジョン自体への結界は張られていない。下手に結界を張るよりも、このままのほうが都合がいいだろうという事だった。そして、昨日忘れていった俺の分身体が、フロントで待機していた。うん、完全に回収するのを忘れていたな。即座に融合し、ステータスを振る。




源零:HP13113、MP10010、攻撃力1500、防御力3200、素早さ2000、魔力2000、スキル:分裂、HP自動回復(中)、MP自動回復(大)、融合、空間魔法(4)、装備:スラタン(刀)・攻撃力500、スラコート・防御力400




やっと念願のHP自動回復を覚え、MP自動回復も中から大へ1ランク上がった。ステータスも一気にあがり、弥生に追いつけそうだ。




ラ「今日は、ダンジョンを閉鎖する事になっています。」


レ「えぇ、せっかくここまでステータスを上げたのに……、どうにかならないのか?」


ラ「悪魔向けの罠が張ってあるので、それに巻き込まれて死んでもいいなら止めませんが。」




罠を張ったのか、だからわざわざ全員を退避させたんだろうけど、それならもっと早く教えてくれれば……。




ラ「何か文句でも?」


レ「ありません!」




でも、少しはステータスを上げたいんだが……。チラリとラヴィ様を見て目で訴えてみる。と言っても、心の声が聞こえているだろうけど。




ラ「はぁ、仕方がありませんね。魔界とドラゴンの星と、どちらがよろしいですか?」




ラヴィ様の顔に暗い影が入ったような……。さらに言うなら、声のトーンが下がったような……。でも、これはチャンスだろう。冗談だとは思うが、悪魔の巣窟っぽい魔界は最初から選択肢から外れるので消去法でドラゴンの星だ。もしかしたら、メィルもそこに居るかもしれないしな。




ラ「冗談では無いですが。まあ、ドラゴンの星の方が無難でしょうね。結界は張ってありませんが、ケルベロを護衛として連れてゆくと良いでしょう。」




恐らく、俺達がステータス上げを諦めるとは思っていなかったのだろう。分かっていたかのようにケルベロちゃんがすでに待機していた。さっき転移するまえに挨拶をしたときは、そんなそぶりは一切なかったのに。あっ、もしかして魔界へ行くつもりだったのか?




ラ「まあ、そう言う事ですね。仕方ない、ワルキューレにでも働いてもらいましょうか。」




ボロボロになって帰ってきたワルキューレの姿を思いだし、心の中でワルキューレに謝っておく。




ケ「準備はいいのかワン? 準備が良ければ転移するワン。」


ヤ「戦闘準備はいつでもいいですよ! ドラゴンの星ですよね? 今度はドラゴンを乱獲します!」




弥生がやる気満々で胸の前でグッと両手を握っている。某戦闘民族に襲われる星みたいだな……。




ア「我も準備はいいのじゃ。」


イ「……大丈夫。」


レ「全員準備は出来ているようだ。それじゃあ、ケルベロちゃん、頼む。」


ケ「分かったワン。」




俺達は再びドラゴンの星へと転移した。

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