第127話 最後の晩餐?

遠くで響いていた戦闘音が止んだ。辺りが静かになると、さっきまで気にならなかった風の音が気になるくらいだ。ケルベロちゃんの犬耳がピクリと反応し、ある1点を見つめている。




レ「ケルベロちゃん、何か分かるのか?」


ケ「千里眼で見たところ、戦闘が終わった様です、ワン。もうすぐラヴィ様が戻って来られますワン。」


レ「……もう、ワンを付ける必要もないんじゃないか?」


ケ「そういう訳にはいきませんワン。」




何かこだわりがあるのか、状況が落ち着くとケルベロちゃんの語尾に「ワン」が戻ってきた。




ワ「むっ、戻って来られたぞ。ラヴィ様、それは何ですか?」


ラ「ただいま戻ったわ。これ? これはカイザーが装備していた鎧と剣よ。」


ワ「いえ、それは分かるのですが、何故鎧と剣を?」


ワ「カイザーを倒したのだけれど、コアが残らなかったのよね。その代わり、剣と鎧が残ったから、何か理由があるのかと思って持ってきたわ。」




ラヴィ様は無造作に剣と鎧をこちらに放り投げる。これも神装備なのか、重そうな見た目とは違って、発泡スチロールの様にポサリと地面に落ちた。軽そうな音だが、風に飛ばされる様子はない。




ラ「誰か装備してみるかしら?」




ワルキューレはブンブンと首を横に振る。ラヴィ様は俺達の方も見たが、皆目をそらした。




ラ「冗談よ。まずは安全かどうかの調査が必要ね。」




ラヴィ様はそう言ってアイテムボックスに剣と鎧を入れたが、本当は俺達を実験体にするつもりだったんじゃないかと疑っている。




ラ「そんなわけないじゃない。装備した人が邪神化しても困るし。」




その可能性に思い当たり、皆、気持ちだけラヴィ様から離れた。まあ、万が一邪神化したとしても、カイザーより強くなるとは思えないが。むしろ、ウロボロスの様に力に耐えられない可能性の方が高い。




ケ「それでは、一旦神界へ戻るのですか? ワン。」


ラ「そうね……それに、ウロボロスも倒したし、カイザーの事もあるし、はじまる様に報告は必要ね。皆で神界へ行きましょうか。」


ワ「皆で……ですか? それは、私も含まれるのでしょうか。」


ラ「当然よ。あなたのランクが上がった報告に、ウロボロスの報告もあるし。魔界の事やこれからの事も相談しなければならないわ。」


レ「俺が言うのもなんだけど、まだ何人か悪魔が残っているよな?」




俺が思い当たるだけでも、べリアスとヴェリーヌだな。ロキエルが居なくなっただけでも少し安心だが。




ヤ「その前に、どこかで休めませんか? 正直、いろいろありすぎて状況に追いつけません!」




弥生は、目がうずまきのように見える。思考が追いついていないようだ。アヌビスとイルナもHPは満タンだが、精神的に疲れたのか、顔色があまりよくない。そういう俺も疲れた。




ラ「しょうがないわね。それでは、神界へ行くのは明日にしましょうか。」


ワ「分かりました! それでは、一旦ビジネスホテルに戻りましょう!」




ワルキューレが嬉々として帰り道の先頭に立つ。ケルベロちゃんとラヴィ様はそれを見て少し肩をすくめたが、「今くらいはいいでしょう。」と小声で言うのが聞こえた。




レ「結界はこのままでいいのか?」


ラ「良くは無いけれど、私でもこの結界は破壊できないわ。」


レ「えっ? ラヴィ様ですら破壊できない結界なんて……。」


イ「……早く帰りたい。」




イルナが珍しく自己主張するので、歩きながら会話することにした。しかし、途中で歩き疲れたので、犬ぞりならぬケルベロスソリを作って引っ張って行ってもらった。分裂体で作ったケルベロスは、ここの転移魔方陣の前に放置していくことにした。今度また来たときに利用するかもしれないからな。




ダンジョンに戻ると、ラヴィ様は自分の空間へ帰った。俺、弥生、イルナ、アヌビス、ワルキューレ、ケルベロちゃんの6人はビジネスホテルに戻る。




レ「ワルキューレは自分の空間じゃなくていいのか?」


ワ「何を言う。お前たちと居るのがそもそもの役目だろう。」




疲れていても、そこは譲らないのか。案外と真面目なんだな。




レ「そういえば、メィルは?」


ヤ「最近見ていませんね。来ても足手まといだからでしょうか?」




いつもであれば、こういう会話をどこかで聞いているのか「そんなことないよ!」とか言って現れるのに、今は現れないようだ。まあ、自分の部屋でテレビかゲームでもしてぐーたら生活しているのだろうが。


ビジネスホテルにつくと、ケルベロちゃんはフロントに戻り、俺達は大部屋の方へ移動する。




ワ「やっと帰ってきた! さあ、風呂に入ってゆっくりするぞ! いくぞ、アヌビス、弥生、イルナ!」




俺の存在を忘れたかのように、ワルキューレは鎧を脱ぎだす。




ヤ「ちょっと! ワルキューレさん、まだ源さんが居ますよ!」


ワ「おぉ、零殿も一緒に入るか?」


ヤ「一緒に入れるわけ無いでしょ!?」




弥生の突っ込みによって鎧の下の薄着だけになったワルキューレは、脱衣所の方へ背中を押されて連れて行かれる。




レ「だそうだが、お前はいいのか?」


イ「……行ってくる?」




メイド服のボタンを外していたイルナは、何故か疑問形で答えると、脱衣所の方へ向かった。




レ「……アヌビスは?」


ア「ん? 我は零と一緒に入るのじゃ。」


レ「んー、その体型だと問題あるから、一旦チビに戻すか?」


ヤ「ダメですよ!!」




弥生がダッシュで戻ってきてアヌビスの腕を引いて連れて行った。冗談のつもりだったんだが。そうなると、俺は暇になるな。いっそ、サーベラスとでも遊ぶか? そう思っていたら、珍しく部屋の電話が鳴る。こっちからかける以外に使用したことは無かったが、一応向こうからもかけられるんだな。




レ「もしもし?」


ケ「あたちです、ワン。今日の夕飯はあたちが奢りますので、しばらくお待ちくださいワン。」




それだけ言うと、電話が切れた。珍しいな、どんな料理をご馳走してくれるんだろうか。俺は出鼻をくじかれたような気がして、結局みんなが風呂から上がるまで、テレビを見て過ごした。弥生が風呂から上がったと小部屋に呼びに来てくれたので、風呂場へ向かう。ちなみに、弥生たちはおそろいのパジャマで、ワルキューレもそれに合わせたパジャマを用意したようだ。西洋風のワルキューレがパジャマってなんか変な感じがするがな。


俺はいつもよりぬるめのお湯でのんびりし、大分伸びていた髭をそって部屋に戻る。すると、ケルベロちゃんがテーブルごと料理を用意してくれた。




ケ「満漢全席ですワン。」


レ「それはまた……豪勢だな。」




色々な種類の料理が、大きなテーブルいっぱいに並ぶ。目で数えただけでも100種類はあるんじゃないのか? どう考えてもこの人数で食べきれるものでは無い気がするぞ。




ヤ「見ているだけでもお腹いっぱいになりそうです!」


イ「……おなか空いた。」


ア「我はこれと、これじゃ!」




イルナとアヌビスはもう我慢できないのか、手っ取り早く食べられそうな料理を掴み、食べ始める。俺と弥生、ワルキューレも皿ごと手に取って食べ始める。珍しく、ケルベロちゃんも一緒に食べるようだ。前は誘っても断られたのに。




ヤ「最後の晩餐みたいですね!」


レ「……不吉なことを言うなよ。」




弥生がおそらく違う意味で言ったような気がするが、俺も詳しくは知らないが、なんか悪い意味だった気がする。そもそも、最後って付いてるしな。




イ「……もう食べられない。」


ア「お腹が破裂しそうなのじゃ!」


ワ「そこまで無理して食べる必要は無かったと思うが……。」


ヤ「うっぷ、なんか、出されたものは、全部食べないと、いけない気がして……。」




弥生の言う事も分かるが、俺は最初から全部食べられるとは思っていなかった。そもそも、たしか満漢全席って数日かけて食べるものだろう? まあ、もう食ったものはしょうがないが。それでも全部食べ切れなかったから、残りはケルベロちゃんがアイテムボックスにしまっていく。


先に風呂に入っておいてよかったな。あとは歯磨きをして寝るだけだからな。




ワ「よし、いつでも寝られるように闇の壁を張っておいてやろう。」




久々にワルキューレが闇の壁を張ると、各々ふとんを敷く。雑談もそこそこに、疲れた体が睡眠を求めてきたので、歯磨きをして寝ることにした。




レ「おやすみ。」


皆「おやすみなさい。」


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