第51話 ダンジョン攻略9日目

アラームが鳴る。朝か。この世界は天候が晴れしかないのか、毎日同じ天気だ。どうせダンジョンとホテルの往復しかしていないから余り関係は無いが。俺は歯磨きをして、軽く体操をしているが、今日もアヌビスがなかなか起きてこない。そろそろ弥生も来る頃だし、起こすか。




レ「アヌビス、そろそろ朝食の時間だ。起きろ。」




俺はアヌビスをゆすると、眠そうな目をこすってゆっくり起き上がってきた。




ア「昨夜はお腹が痛くてあまり寝れなかったのじゃ。」


レ「腹でも冷えたか?今日はおかゆでも食べるか?」




アヌビスはお腹が痛いと言っているが、さすっている場所はお腹と言うよりも胃だろうか。ホットケーキしか食べてないのにな?




ア「嫌じゃ、今日もホットケーキがいいのじゃ。」




アヌビスは顔の前に両手でバツを作ると、「ホットケーキ、ホットケーキ。」とうるさい。そう言っているうちに、弥生とワルキューレが来た。




レ「おはよう、2人とも。」


ヤ「おはようございます!」


ワ「おはよう。」




俺は2人を中に入れながら、ワルキューレに尋ねる。




レ「昨日の件はどうなった?」


ワ「昨日の件も極秘事項に当たるため、詳細は語れない。」




俺はサンドイッチとコーヒーを、アヌビスはホットケーキを、弥生はアジフライ定食を、ワルキューレは紅茶を頼むと、ケルベロちゃんがすぐに用意してくれる。ケルベロちゃんは何か知っているだろうか?口を開く前に一瞬で帰ったため結局聞けなかった。仕方なく、ワルキューレにもう一度聞く。




レ「じゃあ、話していい事はあるか?」


ワ「ヴァンパイアに悪魔が憑依していたことだけだな。」




それは当事者である俺達の方が詳しいだろうな。今のところ、対処のしようがないのだろうか。




レ「それじゃあ、今日もダンジョン5階の探索でいいか?」


ワ「ダンジョンを探索する事自体に問題は無い。今日も私が一緒に行動する。」


ヤ「私も、問題ありません!」




アヌビスの方を見ると、調子が悪いのか、大好きなホットケーキを半分残している。




レ「調子が悪いのなら、アヌビスは留守番するか?」




戦力的にはアヌビスが抜けるのは痛いが、絶対に必要という訳でもない。マミーなら普通に戦っても勝てるしな、弥生が。




ア「我を置いていくでない!一緒に行くのじゃ!」




アヌビスは痛みを我慢して無理やり笑顔を作った。




レ「じゃあ、無理はするなよ?無理そうなら言ってくれ。」




俺はアヌビスにそう言うと、食器を片付ける。アヌビスが残したホットケーキはどうしよう?と思ったが、サーベラスが食うらしい。役に立っているようで何よりだ。


俺達はケルベロちゃんに「行ってきます。」と言うと、手を振って送り出してくれた。大分愛想が良くなったんじゃないか?ダンジョンに着き、ラヴィ様にも挨拶をして、エレベーターに入る。途中で、ワルキューレに「転移でここに来た方が早くないか?」と言うと、「ほぅ、女神をアッシーにする気か?いい度胸だな。」と槍を突き付けられたので、今後も徒歩だろう。


相変わらず包帯くさい5階でマミーを狩っていると、新しい敵が出た。見た目はハロウィンに出てきそうな、シーツに目の部分の穴を開けたようなふざけた格好だ。弥生が鑑定する。




スペクター(霊体):HP1500、MP800、攻撃力50、防御力100、素早さ100、魔力400、スキル:物理無効、闇魔法(4)




レ「物理無効って初めてだな。弥生、ちょっと手裏剣を投げてみてくれ。」


ヤ「分かりました、八方手裏剣!」




弥生が投げた手裏剣は、スペクターに当たるとキンッと音がした。スペクターに0ダメージ。




レ「こいつ、設定間違ってないか?てっきり幽霊だから当たりません~かと思ったら、普通にダメージ0かよ。防御力の意味無いじゃん。」


ワ「そう言うな、耐性無効とか、固定ダメージとか対策できるいろいろなスキルがあるんだ。」




ワルキューレは目をそらしながら答えてくれた。おそらく、誰かが透過と間違えて設定したのだろう。飛べないからか、普通に歩いているし、スペクター感が0だな。




レ「魔法の無い俺達じゃ対処のしようがないし、アヌビスに任せた。」




俺は振り向いてアヌビスを見ると、アヌビスは腕を自分の体を抱くようにクロスさせ、うつむいている。




ヤ「アヌビスちゃん、大丈夫ですか?」




弥生がアヌビスに近づいていくと、アヌビスは「おえぇっ!」と口から血を大量に吐き出した。




レ「おいっ!大丈夫か!」




見たところ、ダメージ判定は無いので、怪我をしているわけではなさそうだが、大量の血を吐き出したアヌビスは、気絶したのか倒れた。


びっくりしたのか、スペクターは逃げ出した。おばけが血を見て逃げ出すなよ・・・。そう思っていると、血だまりが人の形を取り始めた。そして、完全に人の形になったとき、そこには20歳くらいの裸のアヌビスが居た。


弥生は倒れたアヌビスを回収すると、俺の近くに連れてきた。弥生はステータスを鑑定すると、真っ青な顔で固まった。




デーモン(悪魔):HP120000、MP250000、攻撃力55000、防御力43000、素早さ60000、魔力80000、スキル:血魔法(8)




デ「これは、予想以上に素晴らしい肉体です。おや、また会えましたね?」


レ「お前は・・・吸血鬼か?」


デ「これは失礼、自己紹介は初めてですね。私はデーモン、下級魔族です。」


ヤ「なんで・・・、なんでアヌビスちゃんの姿なんですか?」




弥生は震える声で尋ねる。デーモンは、自分の姿を確認し、裸だと気づくと、「これは失礼。」と血で赤いドレスを作った。




デ「姿は私が選んだわけではないですよ?この体の持ち主の姿ですから。」




俺は隣のアヌビスを見るが、分裂体だったから体が残ったのかもしれない。




デ「それにしても素晴らしい。スキルは多少消えたようですが、まさか本来の私の実力が戻るとは思いませんでした。ヴァンパイアの時は弱すぎて、弱すぎて、絶望したものです。あの時、血を飲んでくれたのは小さな少女だったので、次の憑依先のつなぎくらいにしか考えていませんでしたが、まさか神だったとは運がいい。」




あの時、カップに血を入れて飲ませようとした理由はこれだったのか、飲まなくてよかったって言ってる場合じゃないな。


アヌビスに触れると、気絶しているだけで大丈夫そうだ。しかし、弥生からデーモンのステータスを聞かされると、俺も絶望した。ステータスだけで言えば、ワルキューレより断然に強い。




ワ「下級魔族だと?魔界で殲滅せんめつされたと思っていたのだがな。」


デ「殲滅されましたよ?私は、なんとか憑依で助かりましたがね。」


ワ「ならば、もう一度殲滅するまでだ!」




ワルキューレは、デーモンのステータスを知らないからか、普通に突進して攻撃する。




デ「あなた、強そうに見えても見習い女神ですか?遅すぎますね。」




デーモンはあっさりと槍を避けると、ワルキューレの首に手刀を落とす。クリティカル発生、ワルキューレに57400ダメージ中、物理耐性30%により40180ダメージ。ワルキューレは地面をバウンドしながら吹き飛ばされて廊下の先に叩きつけられた。




レ「ワルキューレ!大丈夫か!」




俺はそう声をかけたが、大丈夫なわけがない。残りHPは半分を切っているはずだ。もう一度同じ攻撃を受けたら死ぬ。


ワルキューレは起き上がると、MPを使って蘇生しHPを全快した。




ワ「このぐらいのことで、神槍グングニル!」




ワルキューレの槍が一瞬で伸びた。




デ「危ない、危ない。なかなかいい武器をお持ちですね。」




デーモンは右手の平で槍を受け止めた。デーモンに23000ダメージ。デーモンはそのまま槍を掴むと、ワルキューレを槍ごと引き寄せた。引っ張られるまま空中に浮いたワルキューレは、鳩尾みぞおちにデーモンの膝蹴りを受けた。クリティカル発生、57400ダメージ中、物理耐性30%により40180ダメージ。


ワルキューレは蹴りの勢いで天井にぶつかり、自然落下で地面に落ちる。残りMPは9820しかないので、蘇生しても次のクリティカル攻撃に耐えることはできない。スキルの使用音ためにMPを温存しているようだ。

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