愛すべき幽閉⑤
「あっ、三井先輩。ご無沙汰してます」
エレナの奥にいた人物に声をかける。
「あら、赤井くんじゃない。久しぶりね。元気にしてた?」
ウェーブがかった髪を揺らしながら先輩がこちらに近づいてくる。
彼女は
俺やエレナの一つ上の先輩で、エレナのパートナーでもあるこの店の実質的な責任者だ。
「はい、おかげさまで」
会釈をしながら挨拶を交わす。
「そう、それならよかったわ」
「ひっ!?」
そう言ってにこやかに笑いながらエレナの隣まで歩いていった。
「ねぇ? エレナちゃ〜ん?」
そうして猫なで声を出しながらエレナの肩に手をかけた。
「え、えぇ、そうですね。元気があるのはいいことですね」
先程までの威勢はどこへやら。
借りてきた猫のように大人しくなったエレナ。
「うんうん。元気があるのはいい事だね。で・も──」
獲物を逃がさないようにガッチリと肩を組み続ける三井先輩。
「元気が有り余りすぎてウチの制服を着ないっていうのは困るのよね〜」
どこから取り出したのか。
エレナの肩に回している方とは反対側の手には、メイド服のようなヒラヒラとした装飾が付いた服を持っていた。
「うっ……、それは……」
目の前で制服を見せられたエレナはバツが悪そうに目を背ける。
「何が気に入らないのかな? こんなに可愛い服を用意したのにな〜……」
肩に回している手でエレナの頬を撫でながら三井先輩が問いかける。
「そ、それはその……。私にはちょっと可愛すぎるといいますか……ヒラヒラが多すぎるといいますか……」
ごにょごにょと小さな声で喋るエレナ。
「え〜? 私は似合うと思うけどな? だって──」
エレナの肩に回していた手はいつの間にか腰に回されていた。
「貴女はこんなにも可愛いんだから」
三井先輩は腰に回した方の手とは逆側の手でエレナのアゴを持ち上げた。
「えっ!? あっ……うぅ……」
エレナは顔を真っ赤にして狼狽えており三井先輩になされるがままだ。
「
三井先輩が指をパチンと鳴らすと、どこからともなく二人の女性が現れてエレナを拘束した。
「ちょ、ちょっと! 明日香さん! 一花さん! 離してください!」
拘束から逃れようともがいているが、ガッチリと掴まれているので逃げられないでいる。
「ごめんね〜、乙音ちゃんの言うことには逆らえないのよ〜」
「そういうこと。大人しく捕まってなさい」
二人から突き放されたエレナは観念したのか、力なく項垂れていた。
「それじゃあエレナをあっちのスタッフルームまで運んでちょうだい」
三井先輩が指さした方向にはスタッフ専用書かれた部屋があった。
そこに二人がかりで運ばれていくエレナ。
そしてその後を着いていく三井先輩。
「さて、と……。何回言っても制服を着ない悪い子にはお仕置きが必要ね」
恍惚とした表情を浮かべながらエレナを見ている三井先輩。
(あれは完全に捕食者の目だ……)
「ひっ……!! い、嫌っ……。き、着ますから……! これからはちゃんと制服着ますから……!」
涙目で縋るように謝罪をしている。
「ダーメっ♡」
しかし無情にも謝罪は突き返されてしまった。
「それじゃあ私はエレナの指導に入るから。その間この部屋には何人たりとも入れちゃダメよ」
エレナを拘束していた二人からエレナを受け取り、スタッフルームへと歩きながら二人へ指示を出している。
「分かりました〜」
「分かったわ」
二人は返事をして扉を閉めた後、門番のようにスタッフルームの前に立ち始めた。
「あのー……」
すっかりこの状況に置いてけぼりになってしまったので、仕方なく門番の二人に声をかける。
「ん? なんですか〜?」
俺の問いかけに反応したのは明日香と呼ばれていた人だ。
「乙音先輩に用事があって来ていたんですけど……、どうすればいいですかね?」
もしこのまま部屋から出てこないのであれば日を改める必要がある。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。お時間があるようでしたら、ここで少々お待ちになってください。少ししたら出てくるはずですから」
今度は一花と呼ばれていた人が、どこから取り出したのか机と椅子を用意して待つスペースを作ってくれた。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
一刻も早く火燐の機嫌を直したいと考えている俺はここで待つことにした。
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