9月

ねむれないよる

 何の虫かまでは判別できないまでも、その泣き声に趣を感じながら紅茶を嗜んでいると八月が終わり九月を迎えていた。

「あと一ヶ月か……」

 一ヶ月。それは、泣いても笑っても俺が生徒会長でいられる最長の期間だった。

「ねぇ、起きている?」

 溜息か、はたまた安堵か、とにかく俺が息を漏らしそうになるといつもとはだいぶ雰囲気の違う明日香が便宜上男子部屋となっている五畳ほどのフリースペースへやって来た。

「眠れないのか?」

「まぁ、そんな所」

 いつもはポニーテールになっている髪を下ろし、目が疲れたからなのか普段はかけていない眼鏡をかけて現れた明日香はソファに座って窓から夜の星空を眺めていた俺の隣に腰を掛けた。

「紅茶、少し貰っても良い?」

「俺の飲みかけだけど」

「一口だけ」

「良いけど」

 俺の淹れ方が悪いのか、それともそう言うものなのかわからないが普段美沙が入れてくれる紅茶より酸味が強いぞ。と伝えきる前に明日香は俺の飲みかけの紅茶を口にした。

「うっ、私やっぱり美沙が入れた紅茶以外苦手」

「苦手なものをわざわざ無理して飲むこと無いだろ。ホットミルクでも作って来るから待っていろ……ココアの方が良いか?

「ココアにして」

 明日香の要望通りココアを淹れて部屋に戻ると、明日香は半分眠りかけていて前後左右に舟をこいでいた。

「これ飲んだら部屋戻れよ」

「……ん」

 覇気のない返事をした明日香はチビチビとココアを飲み始め、半分ほど飲み終えるとマグカップをテーブルに置いて俺の左肩に頭を置いた。

「おい、ここで寝るなよ」

「ん……ちょっとだけ」

 幸せそうに、嬉しそうにそう言った明日香を叩き起こすなんて野暮なことが出来るはずもなく、俺はしばらくの間左肩を明日香に貸すことにした。

 そうしている間に俺も睡魔に襲われて左肩に乗っている明日香の頭に頭を乗せて夢の世界へと誘われてしまった。



生徒会議事録

 会長も明日香先輩も随分と早い起床でしたね。 笑舞

 ワタシより早起きだったね! 柚鈴

 枕が変わると安眠出来ないタイプだからな。 芹沢

 海ってどこででも眠れるタイプじゃなかった? 美紗

 明日香先輩は首を痛そうにしていましたけど、大丈夫ですか? 七海

 少し寝違えただけだから大丈夫よ。 明日香

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