かくしごと

「ふ~っ」

 集中を解いた海先輩は両腕を天井へ向けて伸ばし、ようやくナナと目が合いました。

「おぉっ!?」

 いつもとは上下逆さまのナナを見た海先輩は驚きのあまり座っていた椅子から転げ落ちてしまいました。

「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。みっともないところを見せたな」

「こちらこそ、驚かせてしまって申し訳ありません」

「いや、それに関しては俺が悪いよ」

 そう言って立ち上がった海先輩は

「ごめんな」

 と呟きながら、ナナの頭をポン、ポンと二回優しく叩いてくれました。

「ところで、海先輩はどうしてこんな時間まで学校に?」

「こんな時間? もう八時過ぎていたのか。俺なんかより七海の方こそこんな時間にどうした? さっき帰ったはずだよな?」

「それは……」

 海先輩が学校に戻るのが見えたから、海先輩がこんなにも外が暗くなるまでお勉強を頑張っている姿を見つめていたから、そんな事は口が裂けても言えるはずがありませんでした。

「理由は聞かないでおいてあげるから、七海も俺がこの時間までこっそり勉強していたことは美沙や明日香には内緒な」

「柚鈴先輩なら良いですか?」

「柚鈴なら……内緒で頼む」

 そう言って微笑む海先輩は少女漫画の主人公のようでした。ナナは少女漫画を読んだことはありませんが。

「さぁ、帰るとするか。家まで送って行くよ」

「本当ですか? ありがとうございます」

 そう言って喜んだのも束の間の幸せに過ぎませんでした。

 ナナのお兄ちゃんたちが午後八時を過ぎても帰って来ない妹を心配に思わないはずがなく、学校の前まで車で迎えに来ていた七瀬お兄ちゃんと二人きりで帰ることになってしまいました。




七海 「無事に帰れましたか?」

海  「無事だよ」

海  「七海のお兄さん方とちょ~っとお話したくらい」

七海 「ちょっとで済みました?」

海  「どう思う?」

七海 「お兄ちゃんたちがご迷惑おかけしました」

海  「良いお兄さん方だな」

海  「俺には兄弟が居ないから羨ましいよ」

七海 「えっと」

七海 「ありがとうございます」

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