もうひとつのかお
「海先輩、少し休憩しておやつにしませんか? この間、美沙先輩に教わったアップルパイがあるので試食してみてください」
「お! 良いのか?」
「もちろんです。海先輩のために作って来たようなものですから」
たまたま二人きりだからとはいえ、少々大胆過ぎる発言だったかもしれないと思いながら席を立つと、ドリフトのような音と急ブレーキのような音が続けて聞こえてきました。
「柚鈴先輩でしょうか?」
「流石の柚鈴もこんな音は出せない……出せそうだな」
ナナも海先輩もその音に対して明才高等学校ではよくあることとして捉え、音の発生源を追求しようとはしませんでした。
「お疲れ様……あっ! いい匂い」
紅茶を淹れておやつ休憩の支度をしていると私服姿の美沙先輩が生徒会室にやってきました。
「やっぱり美沙だったか」
「え? 何が?」
ナナも美沙先輩も海先輩の発言の意味がよく理解できませんでした。
「さっきのドリフト音と急ブレーキ音。あれ、美沙だろ?」
「えっ!? えぇ~!?」
ナナは本当に柚鈴先輩が音の発生源だと思っていました。
「で、でもどうやって?」
「どうやっても何も、ドリフト音と急ブレーキ音を出す方法なんて一つしかないだろ。美沙、運転免許取得おめでとう」
「えへへ、ありがとう」
「ちょ、ちょっと待ってください。美沙先輩の免許とさっきの音にどんな繋がりが?」
「簡単なことだよ。美沙はハンドル握ると性格が荒くなって荒い運転をする。察するに免許が取れて初めての駐車をドリフトで決めたんだろ?」
海先輩は呆れるように、そして少し嫌な思い出が蘇ったかのようにそう言いました。
「正解! でも安心して。安全運転を心がけているから」
「嘘吐け」
そう言って窓の外を見つめる海先輩の視線の先には新品の初心者マークが付いた軽自動車の助手席に青ざめた顔で座る美沙先輩によく似た顔の成人男性が居ました。
生徒会議事録
明日香はもう自動車学校行っているんだっけ? 美紗
先週から行き始めたわ。 明日香
会長は通っていないようですが。 笑舞
今月、来月は何かと忙しいし十月中旬くらいから行く予定。 芹沢
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