ねっちゅうしょう

 夏休み初日の生徒会に海はやってきませんでした。

「海遅すぎじゃない?」

「確かに遅いですよね。いつもなら誰よりも早く来ているのに」

「寝坊していたりして!」

「寝坊ね……」

 いつも海とは喧嘩をする仲の私ですが、海が誰にも連絡もせずに生徒会を休むような真似をする男ではないという信頼はしていました。

「美沙先輩か明日香先輩は連絡していないのですか?」

「何度かしているけど……」

「全然返信が無いのよね」

 そう言った瞬間、私のスマートフォンに着信が入りました。

「もしもし! 海?」

『申し訳ないけれど、海君ではないよ。先本だ』

「千景先輩? 先輩から電話なんて何かありましたか?」

『為奈的に言うとするならば可愛らしい後輩に電話をするのに何か理由が必要なのかな? まぁ、早急に伝えなくてはならない連絡事項があったから連絡をしたのだけどね』

 早急にという割に千景先輩は冷静なままで、いつも通り落ち着いていました。

『緊急事態だから詳しい話は省くけれど、海君が軽度の熱中症を患ってしまった』

「海が? でも、どうしてそれを先輩が」

『説明しても納得はしてくれないと思ったからあえて説明を省くと言ったのだけれど、聞かれてしまった以上は答える必要があるね。理由は単純。偶然だよ』

「偶然……会長の勘ですか?」

 千景先輩は生徒会長時代、その勘で数々の問題を未然に防いできていました。

『理解が早くて助かるよ。もう会長ではないけれど』

「今、どこですか?」

『海君の自宅だよ。私の独断で部屋の冷房を付けさせてもらって、海君には快適な状態で眠ってもらっている』

「今から向かいます」

『いや、来なくて良いよ』

 千景先輩は咳払いもしていないのに突然口調を変えて私にそう告げました。

 反論したい気持ちはありましたが、私の口から出た答えは……。

「はい」

『わかってくれて嬉しいよ。どういう訳かはわからないけれど、報道部の動きがみたいでね。何事もなく収まるとは思うけれど、万が一の場合に備えて明日香や美沙には普段の時間まで生徒会室で待機していてもらいたいのだけど構わないかな?』

 万が一というのがどのような状態なのかさっぱり理解は出来ませんでしたが、私はただ、

「かしこまりました」

 そう答えること以外できませんでした。



生徒会議事録

 千景先輩の言う万が一の事態が怒らなくて良かったね。 美紗

 良かったとは思いますが、報道部の動きが謎ですね。 七海

 龍鵞峯先輩に聞いても教えてもらえないどころか連絡も付かない状態です。 笑舞

 取りあえず、お見舞い行こうよ! 柚鈴

 賛成。 明日香

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