かいとふたりで
「ちょっと、トイレ」
「それくらい黙って行きなさい」
以前に黙って離席した際に、
「席を立つなら理由くらい言いなさい」
と明日香に叱られたので理由を述べたのだが、今日は明日香の機嫌が良くなかったようで、俺は理不尽に怒られた。
「今日は怒らせない方がいいな」
生徒会室を出て、ボソっとそんなことを呟く俺を誰かが見ていた。
「報道部? じゃ、ないよな」
廊下の角からひょこりと顔を出して生徒会室の方をじっと見つめていたのは美沙のことを慕っているという一年生男子だった。
「確か、恵吾だっけ? 美沙なら中に居るぞ。暇そうにしていたから相手してあげてくれ」
「え、あの……今日は美沙先輩じゃなくて……」
恵吾はそう言うと、俺をじっと見つめてきた。どうやら恵吾の目的は美沙ではなく、
「俺?」
恵吾は首を縦に振った。
「わ、分かった。でも、少し待ってもらえるか?」
恵吾の了承を得た俺は、用を済ませに向かった。
「すまん、待たせたな」
「すみません。お忙しいのに」
「気にするな。それで、俺に用事って?」
「実は、次の生徒会選挙に出馬したいと思っていて」
恵吾の言葉に俺は少し驚いた。
「誰かに背中を押されたか?」
「……はい。だ、駄目ですよね。そんな不純な動機で生徒会に入ろうなんて」
「そうか? 俺は全然問題ないと思うけどな」
「どうしてですか?」
どうしてと聞かれても、答えは一つしかない。
「だって俺もそうだから」
「そ、そうなんですか?」
「そうだよ。前の生徒会長に背中を押されたから、最悪落ちても思い出になるくらいの気持ちで出馬した。その結果ちょっと人生変わるくらいの生活になったのは今でも驚いているけど」
「人生が……」
「あくまで、俺個人の感想だからな。美沙や他の役員は違う思いを抱いているだろうし」
「ありがとうございます。海先輩のお話のおかげで気持ちが決まりました」
どちらの答えを選ぶのか尋ねるまでも無かった。恵吾の目は、間違いなく一年前の俺と同じ目をしていた。
生徒会議事録
少しずつ次期生徒会選挙の立候補者が集まって来たな。 芹沢
美沙たちもあと数ヶ月か。 美沙
最後まで頑張って駆け抜けよう! 柚鈴
えぇ、そうしましょう。 明日香
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