かじせみなー#2
「どうして?」
私は自分にしか聞こえないほど小さな声で呟きました。
「それじゃあ、あ~ちゃんよろしくね!」
教える側としてこの場に立っているはずの紗綾と南帆先生は当たり前のように私を講師としてセンターへ立たせました。
「では、今月の家事セミナーを始めたいと思います。今回は料理ではなく、料理を少し便利にする裏技について教えたいと思います」
先月の家事セミナーの様子を報道部が明才新聞に掲載したことで、このセミナーがまともだと思われてしまったようで、今回の受講者は先月の倍近く集まっていました。
「今回は一つの卵から二つの目玉焼きを作る裏技です」
そう告げると、受講生は私の想像通りの反応をしました。
「信じられないと思うので、今から実践してみることにしましょう。幸さん、準備をお願いします」
「言われた通りにしておいたよ」
私は料理部部長の大泉幸さんに頼んで用意してもらっていた冷凍用の保存袋に入った卵を受けとりました。
「ありがとう。この卵ですが、どうして保存袋の中に入っているかわかりますか? 紗綾、代表して答えてもらえるかしら?」
「それは勿論、袋の中で卵を割るからだよね?」
紗綾と意見が一致したのか大きく頷いた南帆先生以外はその答えだけはあり得ないと言いたそうな表情をしていました。
「残念だけど大外れよ。保存袋に入れていたのは、つい先程までこの卵を冷凍庫に入れていたから。冷凍するだけならそのままでも良いのではないかと思う人もいるかもしれないけれど、冷凍すると卵の中身が膨張してからが割れてしまう可能性があるから割れてしまって冷凍庫の中が大惨事になってしまわないために保存袋に入れておくのを私はお勧めするわ。冷凍に関しては、一晩入れておけば十分よ」
そう説明すると、受講生のおよそ七割がメモを取ってくれていました。もちろん、紗綾と南帆先生はメモを取らずにただ話を聞いているだけでした。
「次は、卵の殻をむきます。中身が凍っているのでこのようにとても簡単に殻をむくことが出来ますが、むきにくい場合はぬるま湯に数十秒つけるとむきやすくなります」
「本当だ、簡単にむけてる」
紗綾は一番前でリハーサルでもしたかのように絶妙な反応を見せてくれました。言うまでもなくリハーサルなどしていませんでした。
「むき終わった状態がこちらになります。凍った中身は黄身の状態がはっきりと見えているのでこれを包丁で縦半分に切ります。切ったらあとは普通の目玉焼きと同じように焼けば完成です」
言葉だけの説明では信憑性が感じられないので私は目玉焼きを焼くところまで見せて講義を終了しました。
生徒会議事録
明日香先輩、冷凍卵を使ったレシピをセミナーの最後に配布したとお聞きしました。もし良ければワタシにも教えて頂けないでしょうか? 笑舞
もちろん。セミナーの最後に配布したレシピがあるからあげるわ。 明日香
美沙も欲しい! 美沙
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