せんせんふこく

「何を見ているの?」

 明日香先輩との買い出しの最中にふと目に留まったネクタイピンに視線を奪われていると数歩先を歩いていた明日香先輩がナナの隣に来てそう聞いてきました。

「ご、ごめんなさい。つい目を引かれて」

「ネクタイピンか……。お兄さんにプレゼントでもするの?」

「あ、えっと」

 いつもなら、

「はい」

 と答えてしまう問いかけでしたが、今日のナナはすぐにその二文字が出てきませんでした。

「どうかした?」

「あの、その……。海先輩に似合いそうだと思って」

 明日香先輩が海先輩に好意を抱いているという事を薄々気が付いているナナは何故言ってしまったのかと、涙が出そうになるくらい後悔しました。

「うん、似合いそう。七海さんセンス良いわね」

「えっ?」

 ナナはきっと否定されると思っていたのでその返答に驚いてしまいました。

「七海さんは海のことをよく見ているから海に似合いそうなものを選べるのでしょうね。でも……」

 明日香先輩はナナにゆっくりと近寄って来て、ナナを壁際に寄せて俗に言う壁ドンをしながらこう続けました。

「私の方が海を見ている。海を知っている。だから、貴女に海は渡さない」

 目の前に居るのは海先輩をライバル視する普段の明日香先輩ではありませんでした。

「なんて、冗談よ。怖がらせてしまったかしら」

 先ほどと同一人物とは思えないほどの笑顔を見せた明日香先輩でしたが、その言葉が冗談でないことは嫌でもわかりました。

「明日香先輩が優しいことは知っていますよ。だから、ナナだって譲るつもりはありません」

 今まで海先輩のことに関しては距離を取っていた明日香先輩からの宣戦布告にナナはしっかりと自分の言葉で返事を返しました。




海  「ポストの中見たよ」

海  「素敵なネクタイピンだった」

海  「本当に貰っても良いのか?」

七海 「買い出し中に見つけて」

七海 「海先輩に似合いそうだったので」

海  「そうか?」

海  「じゃあ、来週から着けて行こうかな」

七海 「是非、そうしてください!」

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