いまわかれのとき
「姉さま」
午前五時を少し過ぎた頃。ワタシはキャリーバックを片手にこそこそと家を出て行こうとする姉さまの姿を見つけて声を掛けました。
「笑舞ちゃん。良い子はまだ寝る時間よ」
「姉さまはご存じないかもしれませんが、ワタシは毎日午前四時半には起床しています」
「早起きが過ぎるわ。おばあさまでさえ五時半起きよ」
「ところで姉さま、その様なお荷物を持ってこんな早朝からお出かけですか?」
「えぇ。千景と為奈と一緒に卒業旅行にね」
姉さまの嘘は見破りにくいのですが、今日は何故だか姉さまの言葉が嘘であると直感的にわかってしまいました。
「嘘、ですよね?」
「はぁ。どうして笑舞ちゃんはこういう時に限って勘が良いのかしら?」
「正解なのですね?」
「笑舞ちゃんには内緒にしておくようにお父様にもお母様にもきつく言っておいたのに全て台無しになってしまったわ。後でお姉ちゃんの代わりに謝っておいて」
「仰せのままに」
「聞き分けの良い笑舞ちゃんは可愛くて大好きよ。だから、本当のことを伝えるわ」
姉さまが何を言うのかワタシには全く分かりませんでしたが、ワタシの喉は自然にゴクリと鳴りました。
「さっきの話、千景と為奈と一緒って所までは本当。これから私は千景と為奈と一緒に暮らすことにしたの。だから私はこの家を出て行く」
「それは、本当ですか?」
「お姉ちゃんがこの家を出て行ってくれるから嬉しい? なんて冗談よ。笑舞ちゃんが驚いているのは私が千景と為奈と一緒に暮らすからでしょう? ちゃんと笑舞ちゃんとの約束を守って仲良くしているのよ。そうしているうちに何故だか一緒に暮らすことになってしまったの。運命というのは不思議なものね」
「この家には帰って来られないのですか?」
何故だか……理由はわかっています。姉さまが家を去ることが寂しくてワタシの瞳には涙が浮かんでいました。
「久しく笑舞ちゃんの涙を見ていないと思ったけれど、相変わらず泣き虫ね。心配しなくても盆と正月には帰って来るわ」
姉さまは優しく微笑みながらそう言うとワタシのことを強く、優しく抱きしめてくれました。
「じゃあね。いつでも遊びに来なさい。きっと千景と為奈は歓迎してくれるわ」
ワタシは玄関から外へと出て行く姉さまの姿が涙で歪んで見えました。
「姉さま」
いつの間にかワタシの手の中に握らされていたメモ用紙を開いてみてみると、姉さまがこれから暮らすと思われる家の住所が書かれていて、メモ用紙の端には何かで濡れた跡が付いていました。
風和 「千景、貴女いつになったら来るの?」
千景 「もう着いたの? 集合時間一時間前だけど」
為奈 「おや、ボクと同じ発想のお姫様が居たようだ」
千景 「為奈も? すぐに出るから待っていて」
風和 「ついでに朝食を買ってきてもらえるかしら?」
為奈 「ボクも便乗させていただこうかな」
千景 「良いけど、ファストフードだからね」
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