第36話 妖種幼稚園妖狐組その1

「やっほ~、真白狐白だよ~。今日もこの放送に来てくれてありがとね~」

 気だるげな感じで始まった今日の放送。視聴者の皆は相変わらず賑やかに挨拶を返してくれる。やっぱり放送するのは楽しいし好きだと感じる。

『狐白ちゃあああん』

『今日も待ってました』

『いつの気だるげ感じがいいよね』

 ボクの放送は基本、こんな風にのんびりゆったりやることにしている。なので放送時間はあまり気にしていない。他の皆のように進行を考えたり、話題作りを頑張ったりというもしていない。だから人によってはテンポが悪く思えてイライラしたりうんざりすることになるかもしれないと思っている。でも、ここにはここだけでしか見られない、ちょっと変わった動画も放送しているので、面白いもの、不思議なものが見たい人には楽しめるかもしれない。そんなボクの今日の放送内容は、先日頼まれてお手伝いに行ってきた、妖種幼稚園の妖狐組の風景を撮影した動画を流すつもりだ。それと先日投稿した、『妖種限定、尻尾ブラッシング動画』という企画の動画視聴のお礼を伝えるつもりだ。まさか投稿してからあれよあれよという間に、1万再生を超えるとは思いもしなかった。もちろん視聴回数は今も伸び続けているので、ボクとしても嬉しい限りだ。

「先日投稿した、尻尾ブラッシング動画を視聴してくれてありがとう! ちょっと恥ずかしいけど、あっという間に一万再生行っててびっくりしちゃったよ」

『アレは最高だった』

『まさかリアル映像見せられるとは思わなかった』

『妖種って見たことないけど、現実にいるのかな』

『生足最高、ピクピク動く柔らかそうな尻尾も最高』

『妖種の尻尾ブラッシング動画ってバーチャルでもOK?』

「もちろん! 妖種ならリアルバーチャル問わずどんどん投稿してほしい!」

 実際、妖種系の子たちはどんどん尻尾のブラッシング動画をネット上に投稿している。誰かがそういう動画を上げたなら自分も負けていられない。それがケモ系妖種の性というものなのだ。有名どころでは、子狐小毬ちゃんなんかもリアルブラッシング動画を投稿している。当然、我らが弥生姉様も投稿済みだ。柔らかそうな尻尾を丁寧に丹念にブラッシングするその様子は、R18タグを付けてもいいくらいのものだった。

「というわけで、そろそろメインの動画を流すね。あ、一応だけど今日はその子たちの両親も観に来てるので、暴走しないようにおねがいしま~す。了承は得てるので!」

 今から流す映像は妖種幼稚園の映像だ。ただし、妖種年齢で一歳に満たない子たちは非常に自由なので注意が必要だ。


 映像が流れ始め、ボクの声と共に木造の妖種幼稚園の門が映し出された。

 今回訪れた妖種幼稚園は高天原の神様と妖種、そして妖精郷に住む人間たちによって運営されているため、神社が母体の幼稚園のような外観をしている。ちなみにレンガ造りの建物の幼稚園などもあるので、見つけたら見てみるといい。

「はい、それでは、今日の訪問場所である妖種幼稚園に到着しました。今から軽くご挨拶したあと、妖狐組の一クラスの子たちに会いに行きま~す。ここは、一般の視聴者さんが入ろうと思っても入れない場所なので、妖種の人でも安易に来てはダメですよ。ではクラスに入るまでカット」

 画面は一瞬暗くなり、クラスに入るシーンが映し出される。道中も一応撮ってはいるけど、提出用の動画以外にはカット編集を入れている。なので見ることはできないけど許してほしい。

「はい、皆さん。今日は狐白お姉ちゃんが来てくれましたよ~。久しぶりだけど、みんな覚えているかな~?」

「は~い」

 担任の女性教諭がそう言うと、みんなが一斉に手を挙げた。数は十。このクラスは十人で一クラスなのだ。

「このクラスは十人で一クラスになってるんだ。男女比率は女の子が八で男の子が二。これで分かるように、妖狐は男の子が生まれる確率がとっても低いんだ。うちの親戚は例外として、大体三人産めば、三人女の子というのが当たり前かな。なので、男の子はすっごく大事にされるし、将来的には一夫多妻にもなるんだ。まぁ大抵の妖狐男性は尻に敷かれるけど」

 数の少ない妖狐男性といえど、女性陣による圧力には到底抗えるものではない。なのでどうしても立場の強い多数の女性と立場の弱い男性一名という構図ができてしまうのだ。ハーレムがいいと思っている人はよく考えてくれたら嬉しい。

『所謂ハーレムってやつ? すごいな』

『とはいえ、このクラス見てても思うけど、女性圧すごっ!!』

『男の子が隅っこに固まってるのは可愛いけど、悲壮感あるよね』

「まぁ言いたいことはわかるかな。もう少し妖狐男性が増えれば変わってくるとは思うんだけどね~」

 

「それじゃあみんな、狐白お姉さんと何がしたいですか~?」

「おしくらまんじゅう~~!! きゃーっ」

「おうふっ」

 映像の中のボクはすぐに妖狐女児たちに押しつぶされてしまった。ちなみにカメラは担任が持っている。

「狐白お姉ちゃんもっふもふ~」

「もふも~ふ」

「私のと違ってふわふわ!」

「どれどれ~?」

「あ~! あたしもこっちがいい~」

 さっそく押し倒されたボクはもみくちゃにされながら尻尾をいじくりまわされていた。物すっごくくすぐったくて困る。

「は~い、みんな~。狐白お姉ちゃんを埋めちゃダメでしょ~?」

『埋めちゃダメでしょに草生える』

『狐白ちゃん埋まるの草』

『狐白ちゃんの轟沈早かったなぁ』

『ケモミミ女児めっちゃかわええ』

『ケモミミ男児が輪に入れないの可哀そうになってくるな』

『女の子の圧力すごいわ』

 チャット欄には『可愛い』というコメントが多く目立つが、男児たちが輪に入れない様子を危惧するコメントも見受けられた。実際、この年代の子たちだと、女児のほうが活発なのだ。

『猛獣の折に放り込まれた餌役の狐白ちゃん(笑)』

 まさにその通りだった。

「うぐぐ、みんなどいて~。完全に固定されてるんだけど~! むぐー、そこは口だよ~」

 下敷きになったボクはそう言うものの、ボクという久しぶりのおもちゃを得たみんなには届いていないようだった。

「あの、えっと、みんな、だめだよ。狐白お姉さん困ってるよ」

「そ、そうだよ。落ち着こうよ」

 なんと、隅っこに固まっていた男児二名が声を上げ始めたのだ。

『男児動く』

『負けるな~』

『言ったれ~!!』

『うわわ、ケモミミショタ男児かわっ』

『いつの間にかショタコンが混ざっていたでござる』

『声を潜めていただけで、元々一定数いるのを拙僧は知っていた。今更であろう』

「え~。じゃあ二人も一緒に混ざろうよ~」

「ほら、はやく~」

「ひぃっ」

「待って、落ち着いて」

 こうして二人の男児も女児の波に飲み込まれて行ったのだった。

『惜しい勇敢な男児を失った』

『女児強し』

『あぁ、もまれてる。尻尾の違いを吟味されている』

『これが弱肉強食か』

『あぁ、私のケモミミ男児が~』

『やべーやついねぇ?』

『子狐小毬「あぁ、私も狐白ちゃんにあんなことしてみたい!!」』

『小毬ちゃんぶれねぇなぁ』

『真白凛音「だからあんなによれよれになっていたのね。やっとわかったわ」』

『お姉さんも来てた』


「あらあら。みんなにも困ったものね。狐白さん、大丈夫ですか?」

「は~い、まだいきてま~す。というかあっついです~。なんか動き止まりましたけど、どうなりました?」

「ごめんなさいね。楽しく遊んでいたみたいなんですけど、みんなでくっついていたら暖かくなって寝ちゃったみたいです」

「えぇ~~~!?」

 こうして上から見ると改めて思う。すごい状況だったんだなぁと。なにせ、たくさんの妖狐の児童がボクの上で満遍なく広がって寝ているのだ。それに密集率もかなりのものがある。

『くっついてると暖かくなって寝るとか草』

『ここだけ切り抜いて壁紙にしたい』

『狐白ちゃん埋もれてて見えないの草』

『実況者のいない放送』

『狐白ちゃん、ここに眠る』

『むしろ狐白ちゃん以外皆寝てるんですがそれは……』

 みんなのコメントは見ていて面白い。まぁほとんどが『可愛い』というものと『狐白ちゃん乙』というものだったけど。

 

 そんなこんなで動画は悲しいほどにボクがもみくちゃにされるだけのシーンや幼児たちが眠るシーンが続いていた。

 久しぶりに訪れて思ったのは、やはり幼児たちのパワーは半端ではないということだ。

 普通に考えれば、これでいいのか生放送って思うんだけど仕方がない。

「それじゃあ続きはまた次回ですね。今日はそろそろ時間なので!」

 こうしてドタバタ配信はいったん終了となった。時間にして1時間程度の配信だったが、ただひたすらボクが女児たちにもみくちゃにされるというシーンだけで終わってしまった。一応この後お遊戯会があったり一緒に勉強したりもするのだが、それは次の配信の時に出すことにしよう。

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