第2話 大江山五人衆来る
朝、ボクは起床後に必ず一度はシャワーを浴びることにしている。
まだぼーっとする頭をゆらゆらと左右に振りながら、お風呂場へと向かうと脱衣所でパジャマを脱ぐ。
下を脱ぐ時にやや足を取られ、転びそうになったものの無事に全裸になることができた。
実はこの家には二つのお風呂がある。
一つは今入っている一般の一戸建て用のお風呂。
そしてもう一つは家の奥の扉から向かう先にある露天風呂だ。
「はぁ。熱い。熱い。はぁ」
熱めのシャワーを浴びながらうわ言のようにつぶやく。
ゆっくり目を開けると、シャワーヘッドから降り注ぐお湯がボクの平坦な身体を伝い、床へと流れていく光景を見ることが出来た。
相変わらず成長しない身体だ。
「人間年齢で十八歳っていっても、ボクらの種族的に見ればまだ幼子だから当然と言えば当然なんだろうけど、なんだか物悲しいなぁ」
ボクや家族は所謂妖狐と呼ばれる妖だ。一般的には妖種と言われている。
ボクが通っている高校には『特総』というクラスがある。
正式名称は『特殊総合科』という。
まだ幼い妖種が人間と同じ学び舎で学べる唯一の場所で、人間との共存の仕方や接し方を学んだり、日本の一般常識などを学んだりする場となっている。
当然、クラスには妖種も多くいるが人間も少なからずいる。
そのため、不自然ではない姿での登校をするようにと校則に記載されている。
「でも弥生姉様は大学生だけど、ボクより胸大きいんだよなぁ。身長も今は155cmだっけ? ボクなんか142cmなんだけど。小学生の身長しかないんですけど……」
現実は厳しい。でも希望はある。
この前、高天原に年始の挨拶に行った際に天照ことあーちゃんがボクの未来の姿を見せてくれたことがある。
あの女神様は殊の外ボクのことがお気に入りらしく、あーちゃんくーちゃんと呼び合っている。
そんな女神様が見せてくれたのは、優しげな容貌をした胸の豊かな成熟した大人の妖狐の姿だった。
「でも未来なんてどうなるか分からないし、妥協しないで今を生きるしかないよね」
頑張って予想された未来の姿を手に入れるのだ! ボクはそう決意した。
「さて、そろそろ上がらないとかな。それにしても……」
ボクは徐に自分の平たい胸部に手を当てて軽くマッサージをしてみう。
多少弾力があるもののやはり膨らみとしては小さい。
「マッサージって効果あるのかなぁ? う~ん。なんか逆に減りそうな気がしてきた」
何となく不安だったのでマッサージは中止。タオルを手に取り身体を拭くことにした。
長い髪の毛を頑張って乾かしていると家族が起き始めてきたので挨拶をする。
「おはようございます、葵姉様、宗親兄様、弥生姉様」
「おはよう、暮葉は朝早いね。ところで狐白の調子はどう? 葵が新しい服用意しているらしいからそのうち実装してあげるからね」
「ありがとうございます! 宗親兄様」
『夕霧宗親』
御年200歳になる長男の妖狐だ。
黒い髪が特徴的な男性で、その長さは背中の中程まである。
それを一本に結んでまとめているのだ。
容貌は切れ長の眉に涼しげでどこか温かさを感じさせる眼、色白の肌をした絵に描いたような二枚目となっている。
ちなみに本職は神社の宮司であり、ボクたちの家の隣で働いている。
副業はキャラクターのモデリングをしているのでボクや弥生姉様はよくお世話になっている。
「おはよう、暮葉ちゃん。弥生ちゃんもおはよう」
『夕霧葵』
ボクたちと同じこげ茶色お髪の毛をした御年150歳の美女だ。
髪の毛の長さは肩口までだが、緩やかなウェーブがかかっている。
知的な美人といった容貌で、身長は宗親兄様に次ぐ163cmという大きさを誇っている。
さらにはその胸部は家族でもお母様に次ぐ大きさをしており、最低でもDはあるものと思われる。
本職は神社の巫女だが祭事の指示を出したりする立場にある。
副業はイラストレーターであり、大変可愛らしいイラストを描いてくれる。
ボクや弥生姉様のキャラクターのママという立場だ。
「おはよう~、ハーブティー入れちゃうね~」
『夕霧弥生』
すでに知っている人もいるかもしれないが、ボクのすぐ上の姉であり人気vtuberの『山吹凛音』でもある。
ちなみに先日、ツイッターで『真白凛音』に改名することを発表した。
上二人の兄や姉と違いおっとりとした優しげな女性で、身長はボクよりも高いものの、155cmという中途半端なものとなっている。
胸の大きさはCからDの間といった感じだ。
とても優しい女性だが言うことははっきり言うため、まだ彼氏のようなものは存在していない。
ちなみに御年20歳だ。
なぜこんなに離れているのかは気にしてはいけない。
「お母様は向こう?」
ボクが葵姉様に向かってそう問いかけると、葵姉様はこくりと頷いた。
「妖精郷の本邸で執務したままね。天照様が滞在することになっているからその処理もやっているという感じね。まぁ天照様が突然やってくるのはよくあることだけど、今回はスサノオ様も一緒よ」
「うげ、スサノオ兄様も来るのかぁ。あーちゃんのお目付け役ってところかな? でもスサノオ兄様じゃ無理そうだけど」
『須佐之男命』
大昔は大層暴れた暴れん坊だがクシナダヒメをお嫁にもらってからは尻に敷かれる毎日を過ごしている。
最近は人間たちの娯楽に興味を示しているクシナダヒメに振り回されている模様。
「う~ん、なんだか厄介そうな気配を感じる。でも会わなきゃいけないよね。とりあえずお休みになってからかなぁ」
「そうね~。はい、くれはちゃんのハーブティーだよ。今日はハイビスカスティーにしてみたの」
「ありがとうございます。弥生姉様」
にっこり微笑む弥生姉様からハーブティーを受け取ったボクは、パンをかじりながらゆっくりと口に運ぶ。
ピンポーン ピンポーン
「あら? 誰かしら」
玄関のチャイムが鳴ったため、弥生姉様が確認しに向かった。
おして――。
「あら、酒呑ちゃんたち、いらっしゃいませ」
「弥生姉、暮葉はもう起きてるか?」
「えぇ、今ご飯を食べてるわよ? 酒吞ちゃんたちもどう?」
「おう、頂くぜ! お前らもそれでいいか?」
「はい!」
「ふふ、さぁどうぞ」
「おう、お邪魔するぜ」
玄関先の話声を聞こえなかったことにしつつ、急いで朝食を済ませるために頬張る。
「おう、暮葉! オレ様が来てやったぜ! 嬉しいだろぉ? ダチの鬼が来てよ」
「朝から元気だね、酒吞童子。それに茨木童子に熊童子、金熊童子に星熊童子も来たんだね」
目の前には大江山の鬼が勢ぞろいしていた。
ボクよりは年上だけどボクと同じ学年として高校に通っている。
その実態はボクのボディガードだけど。
でも仲が良いのはその通りなのでボクとしては嬉しいけれど。
「や、おはよう、暮葉」
茨木童子がボクに挨拶をしてくれる。
「おはよ~、暮葉ちゃん今日もかわいいね」
愛らしい笑顔を浮かべて熊童子がそう挨拶をする。
「ん。暮葉、昨日はご愁傷様」
言葉少なめな金熊童子は表情を変えずにそう言ってくる。
「おっはよ~! 昨日のことは忘れて今日を一緒に楽しもう!」
星熊童子は朝から元気いっぱいだ。
「おう! まぁ機能は残念だったな。オレとしてはあの表情はなかなか好きだったけどな」
リーダー各の酒吞童子はボクにそう慰めの言葉をかけてくれた。
「今日はスクナは?」
大江山五人衆は勢ぞろいしているがいつも一緒についてくるスクナが見当たらない。
「あ~、スクナは寝坊してる。後で合流だ」
ばつが悪そうに酒吞童子がそう答えた。
どうやらスクナは夜更かしをしたようだ。
「そっかー。まぁとりあえずまだ時間はあるからゆっくりしなよ」
ボクは五人にそう言うと、追加の朝食を運ぶ手伝いをするのだった。
「あ、そうだ。今日放課後に皆で下着買いに行くぞ、忘れんなよ?」
「あいさ~」
酒吞童子の言葉にボクは適当に返事を返しておいた。
大江山五人衆はなんだかんだで全員美少女だから目立つんだよなぁ。
皆でしばらく談笑した後、時間になったので登校することにしたボクたち。
お弁当は全員分用意してもらっているので、あとはスクナ用にサンドイッチをもっていくだけとなった。
はたして、スクナはちゃんと起きられたのだろうか?
『スクナ』
正式名称は両面宿儺という。
のんびり屋でややぼんやりした性格をしている。
寝ることが大好きで休みの日は遅くまで寝ていることもある。
だけど、時々夜更かしもするので困った子なのだ。
身長はボクと変わらないため大変共感を持てるのだが、なぜかボクより胸が大きい。
時々軽く叩いてみたりするが、その反発力はすごいものがあった。
あのちびっこ、どこであんな胸を手に入れたのだろうか。
「今日の授業なんだっけ。めんどくさいやつだっけ?」
「あ~、面倒といえば面倒か。ぬらりひょんの爺の歴史の授業がある。無駄に長生きしている分知っていることが多すぎてよく脱線するんだよなぁ」
今話題に出てきたぬらりひょんとは、妖種のぬらりひょんのことだ。
誰よりも長く生きていて、いつ生まれたのかもわからない謎多き老人だ。
何人か孫娘がいるのだが、その親を見たことがない。
一体いつどこで作ったのだろうか……。
「遅いよ~、皆~」
しばらく話しながら歩いていると、前方にスクナがいるのが見えた。
特に焦った様子もなくどこか抜けたようなぼ~っとした顔をしたままボクたちを見ている。
「スクナ! せっかく起こしに行ったのに何で起きなかったんだよ?」
「え~? 昨日暮葉ちゃんの配信観てたせいだよ~? はぁ、お腹空いた」
酒吞童子の問いかけに答えたスクナは、その小さなお腹に両手を当てて空腹をアピールしていた。
「はい、スクナ。サンドイッチ。配信来てくれてありがとう」
ボクが手渡したサンドイッチを受け取ると、スクナはぼ~っとした顔に笑顔を浮かべた。
「暮葉ちゃん大好き~。ぎゅ~」
そう言うと、スクナはボクにまとわりつき抱き着いてきた。
小動物っぽさがあるスクナはなんだかんだで皆に愛されている。
もちろんボクも好きだけどね?
「ありがとね、スクナ。ほら、早く食べちゃいなよ」
「あ~い」
スクナは笑顔でサンドイッチを食べ始めたのだった。
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