第738話 命知らずの野郎共

 地上に辿り着いた時、王宮の回廊で待っていたのはセレンだった。


「待ってた。緊急事態」


「なに?」


 尋ねたのとほぼ同時に、王宮に凄まじい轟音と振動が訪れた。


「殿下これは。一体何事ですか?」


「襲撃」


 俺とコーネリアは同時に顔を見合わせた。


「まさか、新たな魔王となった聖女が攻めてきた?」


 コーネリアの言うことも十分にありうる。


「聖女が魔王とはどういうこと?」


「その反応を見るに、攻めてきたのはエレノアじゃないんだな」


 セレンは首肯する。


「敵は親コルト派と名乗っている」


「あんだって?」


 親コルト派だと。なんであいつらがグランオーリスに攻めこんでくるんだ。


「すでに城内に侵入を許している。あなたにも対処してほしい」


「わかった」


 俺は抱きかかえていたコーネリアを下ろすと、すぐに城中を回ることにした。戦闘が起こっているなら、すぐに敵を見つけられるだろう。

 回廊を駆け抜けて内郭に辿り着くと、そこでは激しい戦闘が発生していた。

 数百人の兵士達が、ハイレベルな集団戦を繰り広げている。俺はその様子を城郭の上から見下ろす形になった。


「ミスター・アルバレス。いいところに」


 声をかけてきたのは、ネルランダー首相だった。


「奴ら、世界会議を狙うなんて凄まじく愚かだな。ここには各国から最精鋭の部隊が集結しているというのに」


「よほどの自信があるんじゃねーのか」


「だとしたら、もっと愚かだな」


 どうやら内郭で戦っているのは、ハンコー共和国のサラマンダー部隊のようだ。みなが火炎系のスキルや魔法を駆使し、一人一人が亜音速で動き続けながら巧みな集団戦を行っている。

 凄まじい練度だ。個々の実力もさることながら、連携の取り方が神がかっている。たしかにあれなら負ける心配はない。


「いや……何か様子がおかしいぞ」


 あれだけの部隊を相手に、親コルト派は一歩も退いていない。それどころか、押している節さえある。サラマンダー部隊は一見派手に戦っているが、一人また一人と倒れていく。


「まさか、うちのサラマンダー部隊が削られているだって」


 ネルランダーも驚いているようだ。


「親コルト派。噂には聞いていたがこれほどなのか」


「ネルランダー。あれを見ろ」


 俺は親コルト派の部隊が使っている獲物を指さす。それは日本刀に限りなく近い造形の武器。


「クィンスィンの民……どうりで強いはずだ。こうなったら俺が出る!」


 舌打ちをしたネルランダーは、顔つきを変えて城郭から飛び降りる。

 ネルランダーはかなりの実力者だ。あの男が加勢すれば、ここは大丈夫だろう。

 だが、他のところも同じくらい苦戦しているはずだ。


 俺はどこに行くべきか。

 その時だった。俺の周囲に、黒いローブを纏った十数人の女達がどこからともなく現れる。アルバレスの守護隊だ。


「主様。オルタンシア様とアナベル様は安全な場所にお送りいたしました。今は他の隊員が護衛をしております」


「ナイスぅ。アデライト先生はどうしてる」


「局長はエライア騎士団と共に敵と交戦中です」


「そこにいく。案内してくれ」


「御意」


 俺は守護隊に先導してもらい、王宮の最深部である玉座の間に向かった。

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