第718話 ここで登場!
ヴィクトリア二世と、ソウ・リュウケンが、静かに火花を散らしている。
一触即発の雰囲気であった。
「最高神エストへの冒涜ですか。しかしながら、我ら帝国はエストを信仰していません。我らが信仰しているのは女神エンディオーネ。それ故、亜人の不遇には心を痛めています」
「ハッ! 旧教の古臭い神なんぞを信仰している連中が、なに偉そうなことを言ってるアル! ヴリキャス帝国にだって亜人差別はあるアル! とぼけるなアル!」
「だからこそ、セレン王女殿下の提言に賛同しているのでありませんか」
「詭弁アル! 偽善にもほどがあるアルね!」
ふむ。
会場の雰囲気は、どちらかというとリュウケン寄りのようだった。やはり、亜人差別は根深い。スキルの有無というやつはここまでのものなのか。
その時、会場に涼しい風が吹いた。涼しいというより、肌寒いという方が正しい。
それがセレンの魔法によるものだと気付いた代表達は、一斉にセレンの方を向く。
「ひとつ。皆様方にお伝えすることがある。最高神エスト、そして女神の欺瞞について」
おっと。ここでぶちこんでくるとは。
だが、いつかは知れ渡らせるべきだろう。
この世界の真実について。
「エストの欺瞞アルか……? 我らに恩恵を授けてくれる神を疑うとは、それこそ冒涜の極みアル!」
「私も聞き捨てなりませんね。セレン王女殿下。エストだけではなく、女神まで貶めようというのですか?」
リュウケンとヴィクトリアの矛先は、同時にセレンに向いた。
当のセレンは、動じた様子もなく淡々と頷いた。
「それについては、専門家に説明してもらいたいと思う」
「専門家ですか?」
「誰アルか、それは!」
会場に足音が鳴り響く。軽やかなパンプスの音。
現れたのは、胸元を開いた緑のローブを羽織り、煌びやかな金髪のなびかせる眼鏡の巨乳美女。
そう。アデライト先生だ。
「彼女は、私が留学していた王国の魔法学園で教授をされているアデライト女史。王国での瘴気研究の第一人者でもある」
「みなさーん! はじめまして! アデライトと申しまーす!」
茶目っ気のある笑顔で手を振るアデライト先生。人前に立つ時モードになっているな。
だが周囲の視線は胡乱であった。
「たかが魔法学園の一教授が、神について何を語るアル」
「無礼な言動は慎んでくださいな。私はセレン王女殿下と、王国の国王陛下の信任を受けてここに立っております。私に対する言葉は、そのままお二人へ向けられるものであることをお忘れなく」
「何を抜かすアル。朕はグレートセントラルの天子アル! なにをビビることがあるアルか!」
「テンフ将軍と、兵力の大半を失った貴国が、そのように横柄な態度が取れるというのですか?」
「グ……それは! 魔王を倒すために払った犠牲アル! 朕らは尊重されるべきであろうアル!」
「その魔王についても、これから詳しくお話いたします。まずはお座りになって私の話をお聞きください。ヴィクトリア陛下も、何卒ご容赦ください」
「……いいでしょう。まずはアデライト女史の話を聞いてみましょう。時間の無駄にならないことを願います。リュウケン殿」
「フンッ、アル」
いきり立っていたリュウケンは、渋々座りなおす。
「では」
アデライト先生が咳払いをし、かなりかわいい笑顔を浮かべながら、しかし雰囲気は厳格に変わり、改めて口を開いた。
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