第670話 団欒
女性達が去った後。
教会の隅に置かれた小さなテーブルを、三人で囲む流れと相成った。
「さて」
ほのかな照明の下で、俺はとても真面目な表情を浮かべる。
「しっかり説明してもらうぞ」
正面で椅子に深く腰掛ける少女は、薄い胸の下で腕を組み溜息を吐く。
「その前に一つ聞かせて」
「なんだ?」
「神様って崇められた気分はどう?」
「ゲロ吐きそうだよ。正直な」
ジェルド族の伝承とやらは存じているが、実際に誰かから神だと崇められるのは、決して愉快じゃない。
「俺は、人間だ」
そしてこの世界における神は、俺の敵なんだ。
俺が神だって? そんなことは絶対にあってはならない。
少女が、可笑しそうに笑いを漏らす。
「面白いか?」
「ええ。とっても」
生意気な子だ。だが、どことなく憎めない感じがある。
「ほら、答えたぞ。今の状況を、ちゃんと説明してくれ。キミが何者なのかも含めてな」
「いいわ」
椅子に座り直した少女は、俺とオルタンシアを交互に見る。それから目を閉じ、大きく呼吸をしてから、静かに語り始めた。
「あたしは……そうね、ソロモンとでも名乗っておきましょうか。この通り、ジェルド族の兵士をやってる」
腰の剣をぽんと叩き、ソロモンは瞼を開く。
「この村はもともと救世神伝説を信仰している場所でね。いずれ来る救世神ロートス・アルバレスの出現を、千年前からずっと待ってたっていう文化的背景があるわ」
「……救世神伝説は、ジェルド族なら誰でも知っているもんなのか?」
「いいえ。伝説は部族王の家系にのみ伝わる秘中の秘。アルドリーゼが女王になってからは、雑な管理が原因で漏洩したけれど、それを真に受けてる人がどれくらいいるか」
「ならどうして、この村に伝わってる」
「それはね。この村が、他でもないジェルド族発祥の地だから」
「発祥の地?」
「救世神伝説が刻まれた石板、あるでしょう? あれは、この場所で見つかったものなの」
この村で見つかっただと。
たしかあの石板は、未来のアルドリーゼがスキル『カコオクリ』で千年前に送ったものだという話だった。そして、俺もそれに関わっているだろうと、アカネは推測していた。
「千年前、この村の住人が石板を見つけたのか」
「ううん。石板が見つかったから、ここに村が出来たの」
「え?」
「救世神伝説を信仰する信徒達が集まって作った共同体が、いつしかジェルド族と呼ばれるようになったってこと」
「ちょっと待ってくれ。それってつまり、救世神伝説がジェルド族を作ったってことか?」
「そういうことになるわね」
なるほど。だからこの村には伝説が根強く残っているのか。
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